勇者という問題を解決したルドラ王
「帰るぞ」
「既に帰り支度は終えております」
扉の先で待機していたミランダを引き連れ俺は帰路についた。
「…はぁ……帰ったら大量の仕事が溜まっていると思うと…ため息しか出んな…」
「…本当の事ですが、言葉にしないでください…心配しなくても、大量の仕事が溜まっておりますよ」
「…それこそ言って欲しくないがな…」
「…であれば、そもそも今回も辞退すれば良かったのでは?」
「…何事も例外があるのだ……民のために動くのが王なのだからな」
「えぇ、存じております…我が王は民のためならば必ず行動するということは…」
時は少し遡り…
「…良いのだな、勇者ユーリよ」
「…はいっ…」
玉座の間にて、俺は勇者ユーリに最後の問いかけを行った。
「…そうか…ではついてまいれ」
俺はミランダとユーリ、何人かの衛兵達をつれて精霊の間に向かった。
そこは木々が育ち、穏やかな空気が流れる神聖な場所だ。
「…ここは…」
「精霊の間…我が国内の精霊達が生まれ、死んでいく場所だ」
「…すごい穏やかな空気………こんなに空気が澄んでいるなんて…」
「元来、精霊とは世界を清めるために生まれた存在だからな……一生をかけて世界を清め、死後もその身を後継者達のための糧とする……だから、この場所は精霊達の加護に恵まれ、安らかな空間とかしているのだ」
「………」
「勇者ユーリよ…お前は此処で死ぬ」
「えっ…こ…この場所でっ?」
「…案ずるな……この場所は偉大なる英雄の最期を迎える場所だ。他にも、此処で生涯を終えた者が数多く存在する」
「…」
「…お前としては、処刑場で罪人のように咎められながらの死を望んでいるのであろうが……お前は子供達を助けてくれた恩人だ…それ相応の扱いをせねばなるまい…期待に添えず、すまぬな」
「…いえ、ルドラ王…感謝いたします…」
「…勇者ユーリよ。お主が行った偉業…そして、許されざる罪…それらを考慮し…我が名の下、死罪を言い渡す……何か申し開きはあるか?」
「…ありません」
腰から聖剣を抜き、地面に置けば膝をついて首を下げる。
…生死をあなたに委ねますと…
「…精霊達よ…」
俺は宝剣を抜く。
先程は、オロチに見せ場を奪われたが…
この宝剣は、この国の王達が継承してきた精霊との契約の証だ。
精霊達の力を束、奇跡の力を生み出す能力を有している。
もっとも、精霊達からの信頼が無いのなら意味が無いものだが…
振り上げた宝剣に数多の光が収束し、見る者を魅力する輝きを放ち出す。
「これよりの一撃は、精霊達の意思……世界の裁定と心得よ…では、さらばだ…勇者ユーリよっ!」
世界の裁定を示すべく…
俺は光纏し宝剣を、勇者ユーリへと振り下ろした。
吸い込まれるように、輝く宝剣は勇者ユーリの体を切り裂き…そして…
“…バキィィィンッ!”
「……えっ…?」
ユーリの身体を害する事なく、地面に置かれた聖剣を真っ二つに切り裂いた。
「…裁定は下された。これをもって、勇者ユーリの死を確定とする」
「…えっ…ぁ…で…えっ?…でも、私…」
「…わからんか?…精霊達は確かに行ったのだ…勇者ユーリへの断罪を…見よ」
俺は地面に横たわる、無残に真っ二つになった聖剣の残骸を指差した。
「聖剣と勇者は2つで1つだ…精霊達は勇者に死を与えるため、聖剣を断罪した…大切な片割れを守らぬ堕ちた聖剣をな」
「…聖剣を…」
「これをもって、勇者ユーリはこの世から死んだものとする。これは世界の決定だ…覆すことは許されん」
「まっ…待ってくださいっ!…これじゃ私は断罪されたなんてっ…」
「不服か?」
「当たり前ですッ……私はっ…私の気持ちがっ…」
「では聞こう…ユーリよ……お前が死んだところで、犠牲となった民たちは満足するのか?」
「…え…?」
「確かに幾分かは死者への慰めにはなるだろう…だが、そんなものに価値があるのか?…死者を慰めるためだけに…
お前という…ユーリという存在を死なす事は、本当に価値があると思うか?」
「……価値なんて………で…でも…わ…私はっ…」
…受け入れられんよな…
ユーリは間違い無く、死を覚悟していた。
だが、精霊たちの裁定は聖剣の断罪…
残されたユーリからすればどうしていいか分からなくなるのは自明の理だ…
「…許されたいか?」
「…え…?」
「許されたいか…ユーリ…お前が犯した罪から…」
「…許されたいわけでは…ありませんっ……ただ……ただっ…償いたいのですっ…」
「…ならば、その命…俺に捧げよ」
「……えっ…?」
「…俺は、死ぬ事が償うこととは考えない…死んでしまえばそれまでだからな……良き未来へと繋ぐために尽力することが、犠牲となった者たちへの償いだと考えている……」
「……」
「…だが良き未来を夢見れば、数多くの問題にいきあたる…残念ながら俺にはそれを打ち破るための才能も力も足りていない……だからお前にも力を貸して欲しいのだ、ユーリよ」
「……私なんて……ただ、戦うことしかしてこなかったのに……聖剣の力すらなくなった私なんて…何の役にも」
「何を言う。先程のナイトメアミストとの戦いで見せた最後の一撃……俺は目を奪われた。あれは、幾度となく剣を振り続けてきた者の努力の結晶だ……ユーリ、俺はお前という存在が欲しいのだ」
「………ッ…ル…ルドラ王ッ…」
「その命いらないというのなら…良き未来のために俺にくれ…共に進もう…我が剣よ」
「んっ…くぅっ…ぁぁぁぁぁぁぁあっ…!」
「…よく頑張ったな…」
俺はただ、泣きじゃくるユーリを抱きしめ頭を撫でた。
この程度で、彼女が抱えている闇を晴らすことは決して出来ないだろうが…
それでも、安らかな時間がいずれ迎えられるのだと信じて…
「…今後も、いざとなった時に被害が出る恐れがあったからな…ただ火種を潰しただけだ」
「…ふふっ、火種にしてはかなり大きいと思いますが……これでは、ますますユーリさんが我が王に対して身体で返すべきじゃないかと迷いますね」
…
……
……は?
「…ちょっとまて…何の話だっ?」
「…あんな告白みたいなことを言ったんですから、勘違いしてもおかしくはないということです」
「いやっ、あれはだなっ…おい、ミランダっ」
「ご自身が巻いた種ですからね…ちゃんとご自身で処理してください」
「そうはいうがなッ、俺はそんなつもりはっ」
臣下が自身の王をからかうという異常な光景…
どうやら、平凡王の受難はまだまだ続くようだ。




