勇者はもはや力がなく…
「…ぐッ……」
身体中が悲鳴を上げている…
治りたての身体じゃ仕方ないけど…
こんなの予想外すぎるッ…
「ぁ…ぁぁっ…っ」
「ぅぅぅッ…」
「大丈夫ッ…大丈夫だからねッ」
後ろで泣くのを我慢している子供達…
…本当に強い子達っ…熟練の冒険者でも泣き出したくなるような状況なのにっ…
“グルルルルルルルルルルルルルッ”
巨大な体に見合った拳のナックルコング…
まるで、弱者をいたぶって楽しんでるような声ね…
これだけのサイズは今まであったことなかったけど…まさかこんなに強いなんてッ…
…それにッ…
“フルルルルルルルゥゥゥウ!”
ナックルコングと“もう1匹”…
ナックルコングの周りを漂う負の塊…ナイトメアミストまでいるなんてッ…
…アイツのせいで、護衛に現れてくれた人達も手が出せない…
あのナイトメアミストは、魔石にまとわりついた負の集合体……
近寄る者に対して、恐ろしい幻覚を見せる霧を纏わせて、恐怖で動けなくするモンスター…
ナックルコングだけなら問題はないのに、あの恐怖の霧のせいで近づけない…
でも、ナックルコングからの攻撃は休まず飛んでくるッ…
……倒すには、核である魔石を壊すか、光属性の一撃でしかダメージを負わせる必要があるけど……
…本来なら…
…本来ならッ、私が聖剣の力で吹き飛ばすのが正解なのにッ……
「どうして答えてくれないのッ!」
思わず手に握り締めた聖剣に対して怒鳴った。
今までは、聖剣が答えるように光を発して、私に力をくれていた。
でも、今はまったく反応しない。
本来の力を出せれば、あの2匹が相手でも対処できるのにッ…
「…あッ…ゆッ…勇者様ッ!?」
「…ッ!?」
子供たちの叫び声で、ハッと意識を取り戻せば、ナックルコングがこちらに拳を打ち出す寸前だった。
「くぅッ!?」
とっさに、横に飛ぶことで何とかナックルコングの拳を避ける事ができた。
ドゴォォォォン!!!
地面が弾け飛ぶ…あんなのにあったらひとたまりもないっ…
「…ユーリ様…」
護衛に来てくれた黒尽くめの人が話しかけてきた。
「ここは我等に…貴方は子供達と避難を」
「ばッ…馬鹿言わないでくださいッ…!、助けに来てくれたあなた方を置いてッ…!」
「…ですが、敵は強大……それに、貴方は今…力を発揮できない…」
「…ッ…」
私の様子から、今は聖剣の力を使うことができないのを見抜いたようだ…
「…我等は戦闘を得意とはしませんが……しばらくは撹乱できるでしょう…その隙に…」
それだけ言うと、彼女らは戦闘に戻っていった。
…分かっている…
私は今、戦う力を持ってないッ…
どんなに背伸びをしたって、聖剣の力を発揮できないッ…
「…やっぱりっ………私が罪深いからッ…?……取り返しがつかない過ちを犯したからッ…?」
脳裏に浮かんでくるのは…
“無実だった”人々の断末魔…
どうしてだと訴えてくる瞳…
助けてくれと泣き叫ぶ人々…
…全て自分がやったこと…
…いくら命じられたと言っても…
…真実を知らなかったとしてもっ…
…ただ言われるがままにっ……
“お前のッお前のせいだぁあ”
「…ッ…!?」
「お姉ちゃんっ…!」
子供達の声が聞こえた時には遅かった。
気がつけば私の周りに濃い黒い霧がッ…
ま…まずッ…!?




