罪の意識と勇者の姿
“おぉぉぉぉぉおおおおお!!”
不気味な音とともに私の視界が一気に真っ暗にっ…
“何故ッなんでぇぇえッ!!”
“許さない…許さなぃぃッ!!”
“お前のせいでぇえッ!!”
…ぁぁ…
頭に響く…私を咎める声…
絡みつくような負の感情…
…ぁぁ…
…これは全部……私に向けられものだ…
…そうだ…私は許されない事を…本当に許されない事をしてしまった…
いくら謝っても償えない…
償う資格などない…
恐怖で身体が震える…
魔王を相手にしたときより…心の底から震えるッ…
許されない罪に身体が押し潰されそうになる…
……いっそこのまま……
…楽に…
「お……っ…お姉ちゃんッ!」
「ッ…!?」
ドゴォォォォン!!
身体が吹き飛ばされて、間一髪の所でナックルコングの一撃をかわせた。
「…だっ…大丈夫ッ!?」
がばっと顔をあげたのは、後ろで守っていたはずの子供達のうちの1人…
一番泣きそうになってた男の子だった。
「…わ…私っ…」
「なんか黒いのがお姉ちゃんにッ…それからあのモンスターがお姉ちゃんを攻撃しようとしてたからッ…」
ガタガタッと身体を震わせながら必死に説明しようとする…
どこが切ったのか、頭から血が流れていた。
「たッ…大変ッ…早く手当てをッ」
「…え…ぁ…」
「ちょッ、ぼくッ!?」
血が流れているのにようやく気がつくと、いきなり身体を力が抜けたように倒れ込む。
慌てて抱き抱えるが、その体から伝わってきた。
恐怖でギリギリだった事を…
「…お姉ちゃん…怪我無い?」
「…ッ…!?」
「…無くて…よかっ…た……」
「…ッ…ぼくっ!?」
こてんと首から力が抜けたのを見て慌てて脈を測る…よかったッ…気絶しただけだっ…
どうやら、ギリギリの状態だったのに、実際の血を見て限界を迎えたらしい…
“うぉぉぉぉぉぉお!!!!”
森の中にナックルコングの雄叫びが広まる。
いくつもの金属がぶつかる音から、あの人達が必死に押さえ込んでくれているのが分かった…
……本当に何をしているんだッ…私はッ…!
……こんな子供にすら気を使わせてッ…
……助けなきゃいけない立場なのにッ…逆に助けられてッ…
「………」
確かに私は許されない…
でも、違うっ…
だからって戦えない…いやっ、戦わないのは違う!!
「…ッ……ッッ…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!!」
聖剣をつかめば、ナックルコングに向かって駆け出した。
今だに聖剣からは反応がないけど…“だからどうしたと言うのか!!”
“ぐぅぅうッ!?”
“フルルルルルルルッ!”
「ユーリ様ッ…!?」
ナイトメアミストが、ナックルコングを守るために周りに恐怖の霧を巻き散らかした。
…本当に頭のいいモンスター…ナックルコングが、攻撃の要だって理解してる…
でもッ!
「狙いはお前だッ!!」
手に魔力を纏わせ、ナイトメアミストの一部を“掴んだ”。
ナイトメアミストの体は、負の感情と魔力の塊だ。
普通につかもうとすれば通り抜けてしまうけれど…魔力に対して魔力をぶつければ掴めるッ!
“うるぁぁぁぁ!?”
まさか、体を掴まれるなんて思いもしなかったのか驚いた声を出す。
それはそうでしょうね…いくら魔力で覆っていると言っても相手は負の感情の集合体…当然ッ…
「んんんッッ!!!?」
おびただしい量の負の感情が体に流れてくる…
私を咎める幾つもの声が頭の中で響き……そして身体中にまとわりつく。
今すぐ死ねと、体中に刻むように叫んでくる。
…今すぐにでも手を離して楽になりたいッ…
でも、放すわけにはいかないっ!!
ナックルコングが攻めの要なら、守りの要なのはナイトメアミストッ…!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!」
私は聖剣を振りかぶれば、渾身の力を込めて振り下ろす!
狙うは核である魔石!!
“…ッギィィィィィイイ!”
“うるぇぇぅぅうああああああぁぁぁぁぁあああああッッ!!”
この世の物とは思えぬ叫び声を発するナイトメアミスト。
魔石に剣を突き刺され、ダメージが入っている証拠だ。
核である魔石は、豊潤な負の感情と魔力を取り込み、強度が増している。
核にダメージを与えるには相応の衝撃か、弱点である光属性の一撃を浴びせるしかない。
…私は今…聖剣の本来の力は出せないけれど……
だからといって、光属性の魔力が聖剣から失われたわけじゃない!!
証拠に聖剣から溢れ出る光属性の魔力は、魔石の力を弱め、僅かにだが傷をつけた。
「ぐっっっ!!」
“うるぅぅぅう!!うぉぉぉお!!?”
核に傷をつけられたんだから、苦しいのは当然。
私は、何度も何度も核に対して聖剣を叩きつける。
本来の使い方から考えればなんとも醜い戦い方だけど…今の私にはこれしか出来ないからッ!
“うるぁぁぁあっあああああああ!!!”
何度も核を傷つけられ、あまりの痛さに悶えてはちゃめちゃな動きをするナイトメアミスト…
放り出されそうになるけれど、必死に掴んで耐える。
魔石に傷をつけたとはいえ、完全に潰し切れてないッ…
ここで離れちゃせっかくのチャンスを無駄にしてしまうッ…だから絶対放さない!!
「ぐッ…さっ…さっさとくたばりなさいッ!」
“うるあぉぉぉぉぉぉお!!!”
さらにダメージを与えるために、聖剣を振るう。
いくら強化された魔石とはいえ、聖剣の力を十分に出せていないとはいえ、魔石と聖剣がぶつかり合えばどちらが勝つかなんて明白だ。
その証拠に、魔石はどんどんひび割れが増していく。
かなりのダメージが入っている証拠だった。
痛みに苦しみ、ナックルコングに助けを求めているが、護衛の人たちが必死に押しとどめてくれている。
倒すなら今しかないッ!!
「…こ…これでッ…最後だぁぁぁぁ!!!」
確実に大きいダメージを与えるために、両手で剣を握った。
振り落とされようが構わない。
この一撃で沈める!
私は聖剣を一気に振り下ろした。
綺麗な曲線を描き……刃は魔石に当たり…そして…
“………キィッッ…!”
“…うるろぉっっ…うぉぉロロロろろぇぉぉおっっっっ!!!??”
鋭い音とともに、ナイトメアミストの悲鳴が辺りに響く。
「…くはッ…!」
気がつけば、私は地面に仰向けで叩きつけられ、倒れていて…
聖剣の側には真っ二つになった魔石…
体は動かない…
力を込めようとするけど全く込めれていない。
どうやら、負の感情を掴み続けたせいで、私自身にもかなりのダメージが入っていたみたいだ。
…でも…やったんだ、私………
…こんな情けない姿だけど……勇者として…かっこいい所………あの子みたいに…
どんどん意識が薄れていく…
体力も精神力も限界だった。
だからこそ、“次の一撃を避けれない”。
「ユーリ殿ッ…!」
「お姉ちゃんッ!!」
護衛達を突破し、敵討ちとばかりに私に拳を打ち出そうとするナックルコングの前に…私はなすすべもなく…
間違いなく、私の命を刈り取れる一撃だろう。
強さでいえば魔王クラスではないのに…
…ぁぁ…でも……
「…最後くらい…勇者として頑張れたかな…」
「…あぁ、充分だ」




