緊急事態のドマンド王国
ドマンド王国、玉座の間にて…
「たッ…大変でございますッ!」
慌てた様子で兵が駆け込んできた。
「…なんだ騒がしい…」
鬱陶しそうな表情を浮かべるナーレス王。
「どうかしたのかね?」
対して、兵の様子から何かあっただろうと感じた宰相は問いかけた。
「もッ…モンスターがッ…南の砦に現れましたッ!」
「…はぁっ、何だと思えば…モンスターが現れた程度で騒ぐな」
呆れた様子のナーレス王。
モンスターなど下等生物と考える彼にとって、慌てる必要はないと考えているようだ。
「騎士団長なり、新しき勇者を向わせて倒させれば……いや、そうか。これを気に、勇者のお披露目として活躍させれば……くくっ、やはり俺は天才かっ」
「して、モンスターの種類は?」
自分の考えに酔いしれているナーレス王に変わり、宰相が問いかけた。
「トロールです!!」
「…は?」
「トロールの群れですっ!!、数は5匹ですが全部成体です!!」
「…なッ…」
宰相は驚愕した。
トロールは、強靭な肉体で気性が荒いと有名だが、成体になる数がかなり少ないモンスターだ。
なぜならば、強靭な肉体を得る代償として、幼体の時は体が弱い。
これは、一種の急成長を狙った進化の結果だと言われている。
そのため、トロールが成体になるためには多くの障害から逃れなければならない。
数で言えば、成体にまで成長できるのは10匹中1匹の割合だ。
つまり、滅多に会うことはなく、あったとしても1匹…番いでいたとしても2匹程度…
それが5匹…異常と言わざるを得ない。
…ま…まずいッ…
宰相は欲に塗れてはいるが、無能ではない。
今の勇者パーティーでは、太刀打ちなど不可能に近い事を瞬時に悟った。
「よし、早速勇者パーティーにっ」
「おっ…王よっ、お待ちをッ」
「ん…何だ?」
少し不機嫌になるがそんなこと気にしてはいられない。
自分達の王であるが故に分かっている…この王は現状の危うさを理解できていない馬鹿だとっ…
この馬鹿が取り返しのつかない事を発してしまう前にうまく事を運ばねばッ!
「王よっ、確かに勇者パーティーを出すのは良き考えかと思います。しかし、ここは騎士団長を筆頭に軍を動かすべきかと…」
「いらぬだろ。たかがトロールだぞ?…勇者パーティーの相手には相応しくはないが…まぁ、初陣にはちょうど良いではないか」
本心で言っているのかと問いただしたくなるが…上から目線で話せば反発してくるのは自明の理。
こういう場合は、肯定しつつ、それ以上に相手にとってメリットとなる内容で提示する必要がある。
「勇者パーティーの名を売るのは大変魅力的ではございます。その考えに至った王は素晴らしいと言っても過言ではございません……ですが、私としては勇者パーティーよりも…ナーレス王、貴方様の御名を広めたいかと…」
「…ふむ…俺の名とな?」
よしっ、食いついたっ…!
「はい…当然ではありますが、トロールを勇者パーティーが倒せば、その功績は勇者パーティーのものとなります」
「うむ」
「トロールは単調なモンスターですが、過去の事例の中には国を壊滅させたことがあるとか………真偽は定かではありませんが、そんなトロールをナーレス王の名の下、対処したとすればナーレス王の名が広まるかと…」
「…なるほど…確かに言えているな。勝てる勝負な上見返りも大きいか…ふっ、書物でもトロールなどゴブリンに並ぶ雑魚と紹介されているから国を潰したなど嘘だろうが……強い個体だったと後付けさせれば問題はあるまい」
色々突っ込みたいところはあるが、ひとまず押し留めることに安堵する宰相。
「早速、騎士団長にトロールの対処をさせよ!。ついでに勇者パーティーも連れて行けっ、見学させておけば後々役に立つかもしれんからなっ!」
今まで話になかったことを勝手に言い出したナーレス王に頭が痛くなる宰相だが、見学ぐらいであれば問題はないかと流してしまう。
この後、トロール達の力は予想外だった事や勇者以外の面々による暴走……
結果、騎士団長と戦うことになり深傷を負いながらも必死に尽力した勇者の活躍により、辛くも撃退するが兵団の半分を潰されて……名が売れるどころか責を問われ、信用の大半を失うことをナーレス王と宰相はまだ知らない…




