重なる緊急事態
リャーナの言葉に、思わず息を飲んだっ。
ナックルコング…気性が荒く、巨大な拳で所構わず殴り回る肉食のモンスターかッ…
何故、そんなモンスターがここにッ…
「…目撃された場所は?」
「農林地がある方面の森ですっ」
「…アーリャ、すぐにミランダに知らせ討伐隊を準備させよっ」
「はッはい!!」
「…シスターエボラ、確か勇者と子供達は…」
「…教会側の森に向かったはずですが……」
「…距離があるが…安全とはいかなさそうだな」
俺は立ち上がると、シスターエボラと一緒に執務室を後にした。
「シスターエボラよ……もしもの時のために教会と病院には緊急時対応の準備をさせておけ」
「…はいっ、かしこまりました」
「俺はこのまま森に向かう」
「…大丈夫なので?」
「問題ない。アーリャの足の速さと運の良さから考えれば、既にミランダを見つけて報告しているはず……俺が宝剣を取りに行き、到着するまでには討伐隊の準備が整っているはずだ」
「…なるほど…気をつけていってらっしゃいませ」
「そちらは任せたぞ」
俺達はそれぞれの仕事をするべく別れた。
一刻も早く動かねばっ…
◇◇◇◇◇◇
数十分程度で目的地の森の入り口についた。
案の定、ミランダと討伐隊の面々が森の前で待機していた。
「っ…我が王よっ、お待ちしておりました」
「待たせたな、状況は?」
「今、偵察隊の者達に辺りを調べさせているところです」
「…子供らと勇者達は、まだ戻ってはきておらんか?」
「…残念ながらっ…」
…ということはまだ森の中かっ…
あまり深いところでなければいいがっ…
「…王よ」
ヌルッと死角から声が聞こえる。
そこには、長身で黒い艶のある布を見に纏った女がいた。
「…オロチか」
「はい…」
現れた女は俺の…というより、この国の隠密部隊の隊長だった。
俺の国には隠密部隊…陸海空の3種を担当する者達がいる。
陸の“ヘビ”に、海の“サメ”、空の“カラス”…
我が国が誇る隠密部隊だ。
…ん?
名前が東洋臭い…?
…いや…まぁ…その…
…名前に関してはだな…
単純に先先代あたりがだな…
東洋の文化が気にいって、そのまま勢いで作ったというか…
…
とっとにかく!、我が国の隠密部隊だッ!
異論は認めんってか俺に言われても困るからなッ!
そして、目の前にいるのは陸の隠密部隊…“ヘビ”のリーダーたる“オロチ”……部隊長だ。
長身でありながら、身体をしなやかに動かし、まるで這うように闇に溶け込みながら諜報活動を行うスペシャリスト…
森の中の調査のために駆り出されたのだろう。
「お待たせいたしました、王よ…」
俺の前に来れば膝をつく。
「かまわん、俺も今きたところだ。して、情報は?」
「…所々、ナックルコングが殴り付けた跡がありました……マーキングを行っているのかと」
「手の直径は?」
「2メートル程…」
かなりでかいな…
「…ということは成体確実か……しかも最悪な…な…」
ナックルコングは成長するにつれ、手が一番成長する。
1メートルを超えたぐらいが平均なのだが、今回はさらに大きい…
かなり危険だな…
「…子供らと勇者達は?」
「発見しております…既に部隊の者が護衛に」
“ピィィィィィィィィぃぃぃ!!!”
「「ッ…!?」」
突如鳴り響いた、脳内に響く特殊な音。
これは“ヘビ”が緊急事態を表す際に用いる合図だった。
それが聞こえたということはッ…
「オロチ!かまわんッ行け!」
「…ッ…」
俺の命令により、目にも止まらぬ速さで木々の間を駆け抜けていった。
「…我が王よっ、どうかなされましたか?」
「…緊急時の知らせがあったッ…ヘビの部隊が護衛にあたっていたようだが…どうやら想定外の事があったようだッ」
「……我が王、指示を我等に」
「……」
姿勢正しく、いつでも動けるように待っていた討伐部隊に顔を向けた。
「ヘビより緊急事態の知らせが入ったッ!どうやら想定外の事が起こったらしい…これより我らも森に入るッ!、だが当初の予定を変更ッ、救助対象を見つけ次第全員離脱せよ!これは王命である!!」
「「「はッ!!!」」」
「…交戦となる場合もあるが、その際は各自の判断に任せるッ…誰も死ぬんじゃないぞッ…ミランダよ、もしもの場合は頼むぞ」
「…縁起でもないことを…………はい、かしこまりましたっ」
「…では、行くぞ!」




