↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
F級適性〈観察〉持ちの凡才の俺は、才能不要の攻略法を作り出す  作者: にじいろウニ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/35

第15話 協会からの挑戦

 数週間後、国立探索安全協会から示された課題は、透の予想より一段厳しかった。


「C級区画?」


 協会の会議室で、透は思わず聞き返した。向かいの席で、今回の試験を担当する協会職員の橘が頷く。


「正確には、協会が管理している模擬C級区画です。実際のC級迷宮で採取した地形と生体情報を再現しています」


「参加するのはE級以下だけですか」


「探索者ランクはE以下。適性も、最高でD級までに絞ります」


 透の横で、榊が小さく息を吐いた。テーブルには学校から担当教員、協会側からは安全管理と医療の担当者が着き、さらに検証委員として三人の専門家が並んでいる。


「目的を確認させてください」


 透は橘に向き直った。


「COMMON ROUTEを使えば、低ランクの探索者が行ける範囲が広がるのか。それを見る、ということでしょうか」


「それだけではありません」


 橘は資料を一枚めくった。


「あなたは『条件を満たせば再現可能』という表現を多く使っています。では、その条件を事前に定義できるのか。作った本人が現場でいちいち指示しなくても機能するのか。この二点を見たいのです」


 透は資料に目を落とした。痛いところを突かれた。湾岸第四迷宮の救助では、透がその場で指示を出している。あれをCOMMON ROUTEの成功例に数えるなら、結局は透がいなければ成り立たない、ということになってしまう。


「外からの指示は禁止ですか」


「試験が始まったら、あなたは監視室で映像を見るだけです。緊急停止を除いて、通信はできません」


「分かりました」


「即答するのね」


 隣の九条が、ちらりと透を見た。今日は参考人として呼ばれている。


「やった方がいい」


「失敗したら?」


「直す」


「その答え、便利ね」


「否定はしない」



 参加者は、協会が公募で集めることになった。探索者ランクE以下、実務経験一年未満。COMMON ROUTEを使ったことのある人とない人を、意図して混ぜる。応募は一週間で千人を超え、最終候補は十二人に絞られた。


 並んだプロフィールは、経歴も能力の使い道もばらばらだった。透はその中から、とりわけ背景の違う六人の欄を何度も見返した。


 十九歳の大学生、河野。適性〈硬皮〉D。


 二十八歳の会社員、三島。適性〈方位感覚〉E。


 四十一歳の配送員、片岡。適性〈重量変化〉D。ただし対象は五キロ未満の物に限られる。


 二十歳の専門学校生、森。適性なし。


 二十四歳の看護助手、高梨。適性〈微温〉E。


 そして、佐伯千夏。


「応募したのか」


 学校で問いただすと、佐伯は悪びれもせずに頷いた。


「公募だったので」


「部活はどうする」


「顧問に許可もらいました。部長にも」


「神谷が?」


「はい。『行ってこい』って」


 透には意外な返事だった。


「先輩、私を外しますか」


「なぜだ」


「知り合いだから公平じゃない、とか」


「選考は協会がやる。俺は決めない」


「じゃあ、受かったら上手く使ってください」


「物みたいに言うな」


 候補者との面談では、能力の話より先に、なぜ応募したのかを聞いた。


 河野は、大学の探索サークルでいつも盾持ちしか任されないから。三島は、子どもが生まれる前に危ない探索からは手を引くつもりで、その前に一度、自分の限界を知っておきたいから。片岡は配送の副業として採取を続けていて、戦わずに深部まで行ける方法があれば収入になるから。森は、あっさり「面白そうだから」。高梨は看護助手として、低ランク探索者の救護の現場を何度も見てきたから。


 佐伯は「前にできなかったことが、今どこまでできるか試したいんです」と答えた。


 答えを並べてみると、目的によって引き際も変わってくるのが見えた。三島は家族を優先して、無理をしないだろう。河野は評価されたい気持ちが強い分、かえって無理をしやすい。透はそうした点も訓練記録に書き込んだ。


 最終的に、試験チームはその六人に決まった。誰一人として、C級の魔物を単独で倒せる能力は持っていない。


 選考と並行して、協会との最終説明会も開かれた。会議室には透たちのほかに職員が三人と外部の研究者が二人いて、机には試験要項と一緒に、これまでCOMMON ROUTEに寄せられた事故報告の一覧が置かれていた。


「先に、誤解を解いておきます」


 担当者の女性が、透に向かって口を開いた。


「私たちは、君の方法を潰したいわけではありません。再現性があるなら、むしろ初心者教育に使いたい。ただ、動画を見て成功した人が出ても、それだけで安全を確かめたことにはなりません」


「分かります」


「本当に?」


 透はすぐには答えず、机の上の事故報告に目をやった。


「……たぶん、分かったつもりでいました」


 担当者の口元がわずかにほころんだ。


「いい答えです」


 試験の前には、参加者の能力を透が確認できる。ただし当日のリアルタイムの指示は禁止で、経路も一部はランダムに変えられる。目標は敵を倒すことではない。指定の地点まで行き、全員で戻ってくることだった。


「討伐数は評価しないんですか」


「安全性の試験ですから」


 その答えは、透には好ましかった。強さを測る試験なら、低ランクの能力者をわざわざ集める意味は薄い。帰ってくることが目的なら、戦わずに済ませる工夫がそのまま評価される。


 それでも、要項に印字された〈リアルタイム助言禁止〉の一行だけは、紙の上で妙に重たく見えた。これまでは、誰かが失敗しかけても、透が横から止めることができた。今回はそれができない。


「作った手順だけで、どこまで持ちこたえるかを見るんですね」


「そうです。そして、持たないなら、持たなかった理由を見ます」


 透は要項を鞄に入れて持ち帰った。成功させたい。そう思う一方で、失敗しても何かが残る試験だということが、今度ははっきり分かっていた。



 訓練初日。透は六人の前に立った。


「最初に、できることを聞きます」


 何人かが、硬い表情のまま頷く。


「次に、できないことを聞きます。こちらの方が大事です」


 一人が戸惑ったように手を挙げた。


「弱点を聞くってことですか?」


「そうです。走れる距離。暗い場所が苦手かどうか。高いところが怖いか。人に指示された方が動きやすいか、自分で決めた方がいいか。全部です」


「それ、攻略に関係あります?」


「あります」


 透はホワイトボードに六人の名前を書き、その横に、能力名より先に空欄を作った。疲れやすい。音に弱い。狭い場所が怖い。判断に時間がかかる。槍なら扱える。地図は得意。荷物を持つのは平気。六人分の項目が、少しずつ埋まっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。