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はまゆうSF短編集  作者: はまゆう


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第2話 エイプリルフール

朝起きたら、スマホに自分の死亡通知が届いていた。


件名はこうだ。

「【市役所より】橘 恒一様 ご逝去のお知らせ」


「いやいやいや」


声に出してから、もう一度見た。

迷惑メールにしては妙にちゃんとしている。差出人は市役所の公式アドレス、本文もやたら丁寧だ。


「橘 恒一様は本日午前六時二分、死亡されました。これに伴い、各種行政手続きを自動で開始いたします」


その下には、


・住民票 失効済み

・健康保険 停止済み

・マイナンバー 凍結済み

・図書館カード 利用停止済み


と並んでいた。


図書館まで止める必要ある?


僕はとりあえず自分の腕をつねった。痛い。

痛いということは生きている。

生きているということは誤報だ。

でも図書館カードまで止まっているあたり、本気度が高い。


市役所に電話した。


「はい、死亡手続き窓口です」


窓口の名前からして縁起が悪い。


「あの、死亡したことになってるんですけど」


「かしこまりました。では死亡者様のお名前をお願いします」


「その言い方やめてもらえます?」


「失礼いたしました。故人様のお名前を」


「悪化してる!」


電話口の女性は、まったく動じなかった。


「確認いたしますので、生年月日をどうぞ」


「一九九八年七月十二日です」


カタカタとキーボードを打つ音。

少しして、女性は事務的に言った。


「確認できました。橘恒一様は本日死亡済みとなっております」


「だからその本人が今しゃべってるんですって」


「申し訳ありません。死亡済みの方とは長時間通話できない規定になっております」


「そんな規定ある!?」


「通話は三分以内でお願いいたします」


「カップ麺か!」


そのとき、玄関のチャイムが鳴った。


ドアを開けると、黒いスーツの男女が立っていた。

二人ともやたら愛想がいい。

胸元の名札にはこう書いてある。

• *死後手続き最適化課**


「来た!」


男のほうが深々と頭を下げた。


「橘恒一様ですね。このたびはご逝去、誠におめでとうございます」


「めでたくない!」


「あ、失礼しました。別部署の文言が混ざりました」


女のほうが小声で言った。

「出生届のテンプレですね」


「テンプレ使い回すなよ」


男はタブレットを見ながら説明を始めた。


「本日は、死後生活終了に関するご案内と、あの世への移行手続きを」


「待って。死後生活って何」


「亡くなったあとも、なんとなく日常を続けてしまう状態です」


「なんとなくで済ませるな」


「最近多いんですよ。出勤しようとする方とか、動画の続きを見ようとする方とか、ポイント失効だけ気にする方とか」


「最後のやつ、ちょっとわかるな……」


女の人がタブレットをのぞきこんだ。


「橘様、楽天ポイントが今月末までの期間限定で八百四十ポイント残っていますね」


「えっ」


「なお、死後はご利用いただけません」


「急に現実的!」


僕は思わず胸を押さえた。

いや、もう胸を押さえる段階は過ぎているのかもしれないが。


「ちょっと待ってください。僕、本当に死んでるんですか?」


「はい」


「いつ」


「昨夜十一時五十八分です」


「微妙!」


「帰宅途中、駅の階段で足を踏み外されました」


その瞬間、記憶が戻った。

酔っていた。

スマホを見ながら階段を下りていた。

プリンを買って帰って、動画の続き見ようと思って――


「あっ」


「思い出されましたか」


「プリン!」


「そこですか」


「冷蔵庫に入れてない!」


男女は顔を見合わせた。

男が少しだけ同情のこもった声で言う。


「お気の毒ですが、プリンはもう」


「だめか……」


「ちなみに、あの世への食品持ち込みも禁止です」


「なんでそんなルールだけしっかりしてるんですか」


女の人が書類を差し出した。


「ではこちら、死後同意書になります」


「死後なのに同意いるんですか?」


「最近うるさくて」


「どこが?」


「各方面が」


書類にはチェック欄が並んでいた。

• 自分が死亡したことを理解した

• 未練がプリン程度である

• SNSの下書きが残っていても諦める

• エイプリルフールだと思ったが違った


「最後の項目いる?」


「本日は特別仕様です」


僕は観念してサインした。


するとスマホが震えた。

新着通知だ。

• *【お詫び】先ほどの死亡通知は事実です。エイプリルフールではありません。混乱を招き申し訳ございません。**


「お詫びするところ、そこなんだ……」


男は営業スマイルでうなずいた。


「毎年クレームが多いもので」


「毎年あるの!?」


「四月一日は特に、『信じてもらえない故人様』が増えます」


女の人がやさしく言った。


「ご安心ください。向こうでもサポート窓口がございます」


「死後にもコールセンターあるんだ……」


「はい。ただし大変つながりにくくなっております」


「そこはこの世と一緒かよ」


エレベーターが着いた。

二人にうながされ、僕はしぶしぶ乗り込む。


扉が閉まる直前、僕は部屋の奥に目をやった。

テーブルの上に、コンビニのスプーンがぽつんと置いてある。


「……せめて一口だけ」


「申し訳ありません」


「ですよね」


扉が閉まる。

ゆっくり下降しながら、僕はため息をついた。


死んだことは、まあ仕方ない。

でも、プリンを食べ損ねたのは、どう考えても市役所の対応が遅いせいだと思う。


四月一日。

人生最後の日にしては、オチが弱い。



*エイプリルフール用にメモアプリに書いてて投稿するの忘れてました。

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