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地球軍特別防衛隊  作者: 悪魔神官長
第五章 最終決戦

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第50話(最終話) クリーン・アース

マザーの内部は、まるで生き物の胎内と冷徹な工廠(こうしょう)が混ざり合ったかのような、おぞましい狂気の空間だった。 侵入者である『雷電』を排除すべく、壁面という壁面から無数の触手型迎撃端末と、超高密度のエネルギー弾幕が狂い咲くように放たれる。


「くっ……! 攻撃の密度が、さっきまでと違いすぎる……!」


紙一重で猛攻をかいくぐる哲夫だったが、全方位からの物理的・精神的な圧迫に、雷電の侵攻速度が目に見えて落ち始めていた。


「兄さん、このままだと、核(コア)に辿り着けない……!」


コックピット内の液体の中で、亜理砂の焦燥に満ちた思考が響く。


「亜理砂ちゃん、落ち着いて! さぁ哲夫さん、行きましょう!」


由美がその精神を支えるように、強く、深くリンクを求めてきた。 哲夫は激痛に軋む脳の奥で、二人を、そして自分たちの未来を強く抱きしめるように意識を集中させた。


「由美、亜理砂、力を貸してくれ」

「「もちろん!」」


三人の意識が、戦術リンクの海を超え、雷電のシステムそのものへと完全に『一つ』に溶け合っていく。


「雷電! 俺に! 俺たちに、力を貸せ!!」


その瞬間、重々しい液体に満ちていたコックピットに、眩いばかりの純金の光が満ちた。 かつて『命を削る呪い』と呼ばれたシステムが、三人の絶対的な信頼の絆によって、限界を突破した超エネルギーへと反転する。外装のルナ・オリハルコンが共振し、雷電の機体全体がまばゆい黄金の輝きを放ち始めた。


「行くよ!」


その名の如く、黄金の『雷電(いなずま)』となった機体は、マザーの放つ絶望的な弾幕を直感のステップで完全に無効化し、空間を切り裂くような超速度で、ついに最深部に鎮座する巨大な『核』へと肉薄した。




脈動する漆黒の核。

その前に辿り着いた雷電のコックピットでは、八咫烏で聞いた凛の静かで確信に満ちた声が、脳裏をよぎった。


『結城隊長、このコードでAlogのマザーの掃除対象から、地球を外せます。ただ、今まで遠隔で試していて、敵に対策されてしまったようです。……コードを書き換えるには、マザーの核に直接打ち込むしか、方法がありません!』


「……分かった。これ以上、あの美しい地球(ほし)を好きにはさせない!」


雷電の黄金のマニピュレーターが駆動する。その指先には、凛が紡ぎ出し、岩蔵たちが命がけで送り届けた『地球圏はクリーンになった。本土に帰還せよ』のコードが満ちていた。


「これで!!」


雷電はすべてのエネルギーを右腕に集中させ、抵抗するように触手を伸ばす核の装甲を強引に引き裂きながら、その黄金の『手』をマザーの核の深部へと深く、深く突き刺し、そのプログラムを発動させる。


「終わりだァァァァッ!!」


次の瞬間、マザーの全空間を、光の網のような電子コードが駆け巡り始める――。



雷電の黄金の拳がマザーの核に深く突き刺さった瞬間、青白い電流となって脈動する核の神経網を一気に駆け巡った。 世界を埋め尽くしていたおぞましい咆哮が、嘘のように止む。 訪れたのは、完全な『静寂』だった。


マザーの核の明滅が、赤黒い破壊の光から、深海のような穏やかな藍色へと変化していく。プログラムは完全に書き換えられた。 マザーはゆっくりと、しかし確実に、その巨大な艦体の舳先を地球から――数千年の間、掃除対象として見据えていた美しい青い星から、何もかもが遠い『外宇宙の深淵』へと向け直した。


それに呼応するように、木星全域、そして地球圏の防衛線で牙を剥いていた無数のAlogの群れが、一斉に攻撃を停止した。彼らは一瞥もくれず、ただ大いなる母の導きに従うように、外宇宙の闇に向けて一斉に飛び立っていった。


「……勝った、のか?」


不死鳥のブリッジで、誰かが呆然と呟いた。

地球は、救われたのだ。




しかし、マザーの内部にいる『雷電』のコックピットには、別の、そして決定的な変化が訪れていた。

おびただしい数の警告表示が出ていた。


「これは、まさか……雷電が、Alogになろうとしているのか!?」


哲夫は目を見張った。黄金に輝いていたルナ・オリハルコンの装甲が、まるで生き物のように蠢き、マザーの組織と同じ漆黒の有機金属へと変貌を始めていた。


『兄さん! 雷電のコアが、マザーのコードを受け取っている!』

『まずい、強制上書きされているのか?』

『いいえ、雷電が望んでいるみたい』

『雷電のブラックボックス、いや、まさか』

『……嘘、これ、初めから……雷電のコアは、Alogの細胞そのものだったんだわ……!』


三人の悲鳴のような思考が走る。

マザーという親を書き換えた代償として、その一部であった雷電もまた、元の姿――Alogへと還ろうとしていた。漆黒の侵食は、すでにコックピットの隔壁にまで迫っている。


「このままだと、二人も巻き込んでしまう……!」


哲夫は迫り来る黒い波を見つめながら、かつて月基地で、さやかが遺した最期の言葉を思い出していた。


『哲夫くん。もし、いつか世界が救われて、その代わりに重い選択を迫られたら……迷わず、あなたの信じる“生”を選んで』


さやかが雷電の液体呼吸システムに仕込んでいたのは、哲夫の命を削る呪いなどではなかった。Alogの侵食から彼の肉体を、脳を、限界まで守り抜くための、あまりにも不器用で必死な『愛の防壁』だったのだ。 誰も辿り着けなかった真意に、哲夫は今、すべてを理解した。


「さやか……。俺は、行くよ」


哲夫の瞳に迷いはなかった。彼は守るべき二人の手を強く握ると、コンソールの最下部にある、赤く塗られた物理的な非常脱出レバーを力任せに引き上げた。


「緊急、コックピット・ブロック、強制パージ!!」


バツンッ! と物理火薬が炸裂する力強い衝撃。 侵食されゆく漆黒の巨躯から、コックピット・ブロックだけが、宇宙空間へと勢いよく弾き出された。


(さよなら、雷電。……ありがとう)


漆黒へと姿を変えた巨体は、一度だけゆっくりと振り返るようにその巨躯を傾けた。

それが偶然だったのか。

それとも別れの挨拶だったのか。

哲夫には、もう分からなかった。


遠ざかっていく。

コックピットのキャノピー越しに、哲夫は静かに見つめていた。

かつて自分を乗せ、岩蔵に研ぎ澄まされ、数々の戦場を駆け抜けた黄金の戦士は、今や完全にマザーの一部――一匹の美しい、巨大なAlogへと姿を変え、誇らしげに外宇宙の旅路へと就いていく。


コックピット内の液体がシュウシュウと音を立てて排出され、新鮮な空気が満ちていく。 その中で、哲夫、亜理砂、由美の三人は、お互いの手の温もりを確かめ合うように寄り添いながら、ゆっくりと、人類の待つ『不死鳥』へと漂流を始めた。

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