表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球軍特別防衛隊  作者: 悪魔神官長
第三章 月基地セレーネ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/49

第40話 見極めと不満

「おらおらおらおら」


カイルの思念波が、エレーナの頭の中を駆け巡る。


(うるさい。でも、安心)


そう思いながら、止まることなく内蔵エネルギー砲を撃てる喜びをかみしめていた。


二人の思念波が重なった瞬間、コクピット内の時間は濃密なものへと変わった。


(……カイル、3秒後に、この座標を通る『隙間』を作って)


エレーナの思考が、冷たい水のような静けさでカイルの脳に直接染み込む。彼女の脳裏には、数手先までの敵の配置と、その中心を撃ち抜く『勝利の一閃』の軌道が見えていた。


「(ハッ、無茶言いやがる……! だが、見えるぜ。その先にあるお前の弾道が!)……分かった、3秒だな。全速フルでこじ開けてやる。お前はそのコース、絶対外すんじゃねえぞ!」


カイルは思考だけでエンジンのスラスターを制御する。 物理的な操縦桿を動かすよりも早く、彼の『行きたい』という意志が、ルナ・オリハルコンの骨格を通じて重厚な機体を弾丸のように加速させた。


「……3、2、1。……今よ」


カイルが限界まで機体を傾け、ミサイルコンテナをパージして視界を開いた刹那。 エレーナの内蔵エネルギー砲が、カイルの残像を掠めるような至近距離を通り抜け、標的を粉砕した。


「……息ピッタリじゃねえか、あの馬鹿共」


岩蔵がモニターを見上げ、苦笑しながら煙草を噛む。

(艦内は禁煙だが、彼だけは誰も止められない)


(これなら、いける)

(ははっ、すげぇな。快感だぜ!)


次々と小型を弾き飛ばして行くケルベロス・ゲート。

強化したバルダー・ゲートは、今までのバルダー・ゲートでは数秒しか維持できなかった連続射撃が可能になっている。

だが、中型に対しては、倒せるときもあれば、倒しきれないこともあった。


(何で!? 火力は上がっているのに、何故倒せないの?)


両手に装備した電磁コイル実弾砲改とライフル型エネルギー砲を撃ちながら、


(二発、三発、四発)


ようやく一体を撃破する。

しかし、そのコアを完全に破壊するまでの数秒の間に、別の中型がすぐさま隊列へ復帰し、傷口を塞ぐように肉壁となっていた。


(遅い)


エレーナの端正な眉がピクリと動く。

さらに、戦場の奥に鎮座する大型Alogへ砲撃を集中させた。


ドガァァァァン!


と、空間を震わせる巨大な爆発。

大型Alogの分厚い外殻装甲がベキベキと剥がれ落ちる。確かな損傷。手応えはある。

だが。

大型はなおもその質量を維持したまま、平然と前進を続けていた。


(足りない)


エレーナの感情が、アルテミス・フルードを通じて激しく揺れる。


(火力が足りない)


エレーナの切迫した焦りが、ダイレクトにカイルの脳へ伝播した。


(おいおい! 十分強ぇだろ!)

(違う)

(何が?)

(小型しか確実に倒せない)

(中型も倒してるじゃねぇか)

(時間がかかる。……大型にも効いてるけれど、倒せてない。これじゃ、フィールドを展開されたら――)


ガシャリ、と冷酷な残弾ゼロの警告音が脳内に響く。


(くっ、カートリッジが空になった。残りの武装は、内蔵エネルギー砲だけね)

(もっと。もっと、火力が欲しい)

(贅沢言うな、突撃は任せな! 撃ち漏らしも俺のサーベルでとどめを刺すぜ!)


ノリノリなカイルによる突撃で、敵の主力が集まる一角に、大きな穴が開いていた。


その瞬間を、戦場の後方で見極めていた男がいた。2番艦『流星』のブリッジで、ミラーが鋭く吠える。


「ケルベロス・ゲートが突破した穴を、こじ開けるぞ! 全艦ミサイル発射準備! リバースグラビティシールド全開! 突撃する!」


ミラーは流星をトップにし、明星艦隊が矢のようになって一斉突撃することを願っていた。だが、現実は甘くない。実戦の恐怖と宇宙空間での三次元機動の練度不足から、艦隊の足並みが揃わない。突撃の動きに追従できたのは、流星を含めてわずか4艦だけだった。


「チッ、4番艦、5番艦、6番艦は続け! 残りは無理をするな、ポイントオメガにて迎撃準備!」


ミラーは冷静に部下たちが無駄死にをしないよう、即座に命令を切り替えた。

数は減ってしまったが、息の合った4艦の突撃は、ケルベロスがこじ開けた穴をさらに押し広げることに成功する。

だが、突出した明星4艦の側面を突くように、別の大型Alogが角を向けてきた。


「――そこまでよ、化け物ども」


ミラーたちの窮地を救うように、満を持して新生『不死鳥』が戦場に降臨した。

魁の完璧な操艦により、不死鳥は敵の防衛網の隙間をすり抜けるように最前線へと突入。


「特装砲A、通常モード発射! 明星艦隊の退路を確保しなさい!」


春花の命令が下ると同時に、新設された特装砲が火を噴いた。


ズドォォォン!


「さらに、主砲・副砲も随時発射! 大型を中心に、中型も狙いなさい! 小型はミサイルやバルカン砲を使って追い払うが、ジャック隊にもやってもらう!」


と、今までの不死鳥では考えられないテンポで放たれる特装砲、主砲・副砲の弾幕が、明星4艦に迫っていた中型・大型の群れを次々と消滅させていく。岩蔵の調整したジェネレーターの恩恵が、不死鳥の巨体を文字通りの『不落の要塞』へと変えていた。


「特装砲のチャージ急げ! 万里子は射角の算出を! 回避は魁に任せる!」


春花の凛とした指示がブリッジに飛び交うなか、ジャック隊は、不死鳥に群がる小型と中型を相手に、善戦していた。


「かっかっか。またまた、いっぱい来たぞ! 野郎ども、不死鳥に近づけるなよ!」


ジャックの思念波が伊沢隊・伏見隊に届く。


「よっしゃー、俺が行くぜ!」

「無論、俺も行く!」


突撃トリオから、コンビになった、大輔と和彦が飛び出した。


「また、行っちゃいましたね」

「そうですね。我々は彼らが孤立しない様に援護しますか」


智則と恵美が苦笑しつつ、愛香と利花と共に、先行する二人を絶妙なポジショニングでフォローしに行く。

大輔と和彦は激しいドッグファイトの最中、Alogの群れに突撃し、小型を一撃で爆散させることに成功していた。


「よし! 一撃で小型を倒せるようになった!」


大輔が会心の戦果に歓喜していると、その前方で、カイル達のケルベロス・ゲートが巨大な中型Alogを一撃で粉々に爆散させる光景が視界に飛び込んできた。


「何なんだよあれは! おやっさん! 俺にも、あんなオモチャを造ってくれよ!」


大輔はあまりの火力の差にボヤきながらも、すぐに気持ちを切り替えて次のAlogへと猛烈に突撃していった。


(何で護衛対象の不死鳥から離れるんだ、ガキどもは!)


ジャックはヒヤヒヤしながら呼び戻そうか悩んだが、不死鳥周辺の戦況を冷静に見極め、その必要がないと悟る。

殺到するAlogのほとんどが、不死鳥から、目覚ましい暴れっぷりを見せる突撃コンビへと照準を切り替えていたのだ。たまに不死鳥へ抜けようとしてくる個体も、突撃コンビの突進によって動きを大きく制限され、後方を固める智則たちの的確な射撃か、不死鳥からの迎撃砲火によって確実に爆散していった。


(まぁ、結果が良いから、このまま好きにやらせるか)


ジャックはフッと笑い、自身は不死鳥の周囲にがっちりと張り付き、不慮の事故が起こらないよう完璧な防衛線を維持していた。




一方その頃、別方向――『八咫烏』が鎮座する防衛ラインにも、敵の別働隊が迫っていた。


「八咫烏防衛のため、雷電、急行する!」


その背中には、最後のRGバスターカノンがアタッチメントに装着されている。

これで、内蔵ビーム砲、左手に電磁コイル実弾砲改、右手にライフル型エネルギー砲、背中に、電磁コイル実弾砲とRGバスターカノンが、腰には、ビームサーベルが搭載され、さらにはバルカンや、ミサイルが搭載されていて、まさに動く火薬庫となった雷電の姿が、八咫烏のブリッジのモニターに映し出される。


また、八咫烏の姿も、雷電の由美を通して見えてきた。


「見えた!」


見えてきた八咫烏は、Alogの攻撃を凌いでいる所だった。


「凄い! 大型のビーム砲を防ぎきっているわ」

「あの中型に当てているビームは、RGバスターカノンなの!?」

「それに、ハエの様に、小型を追い回す物も、出ているようだな」


哲夫たちはその圧倒的な防衛力に感心しながらも、迷わず無数のミサイルを放ち、敵陣へと突撃する。


「援護します。八咫烏はそのままの進路で!」


雷電の由美からの通信が八咫烏のブリッジへ滑り込み、八咫烏は寸分のブレもなくそのままの進路を維持した。

そのすぐ側を、無数の迎撃ミサイルの群れを引き連れた雷電が、凄まじい速度で通過していく。


ズドドドドドド


八咫烏に群がっていた小型に対し、雷電からのミサイルと、八咫烏からのミサイルを捕まえた亜理紗が、どんどんぶつけていった。


「哲夫さん、援護射撃が来ます!」


八咫烏からの射撃が来るタイミングで、雷電が動く。

その動きに釣られた中型が、八咫烏の射線に飛び込む形になる。

雷電は、そのまま、後方から長距離射撃を繰り返している大型に、肉薄しようとしていた。


「中型が、大型を援護する様に突撃してきます」


由美の悲鳴のようなアナウンス。


「八咫烏からの援護は?」

「クールタイム的に不可能です」

「了解」

「兄さん、ビームサーベルを投げて!」


亜理紗の突拍子もない声が響いた。


「何をする気だ!?」

「いいから!」


亜理紗の願いを聞いた哲夫は、ビームサーベルを放出した。


「これで! えい! えい!」


亜理紗は自らの強力な思念波でビームサーベルを遠隔で掴み、まるで目に見えない巨人が振り回しているかのように、真空の宇宙で猛烈にぶん回した。光の斬撃が防御壁のようになり、中型Alogの突撃に一瞬の『迷い』と『隙』が生じる。


「くらえ!」


その瞬間を、哲夫が逃すはずがなかった。

哲夫は雷電の両腕を突き出し、『電磁コイル実弾砲・改』と『ライフル型エネルギー砲』の全火力を、隙だらけになった中型Alogに一斉に叩き込んだ。

至近距離からの容赦ない連続求弾が、敵のコアを粉々に粉砕する。


「後は、大型を叩く!」


八咫烏に群がっていたAlogの包囲網は、雷電の圧倒的な奮闘によって、完全に蹴散らされていった。




その頃、八咫烏の演算室で、凛は冷徹に戦況を見つめていた。不死鳥に居る岩蔵が、各艦から送られてくる悲鳴のような機体ダメージログを睨みつけている様子が、モニター越しに見ることが出来た。


「岩蔵さん。個別の主砲を束ねるだけじゃ、空間そのものを『核』に持つ大型は潰せないわ。……必要なのは、破壊ではなく『圧縮』よ」

「……あァ? 4つの砲撃を一点でぶつけて、空間を逃げ場のない『箱』にするってか。……理論上は可能だろうが、0.001ミリの誤差も許されねえぞ。少しでもズレりゃ、味方の艦を焼き払う」

「だから、私の『アルテミス・リンク』と、岩蔵さんが研いだ『ルナ・オリハルコンの受光部』が必要なの。4艦までなら、私のリンクに耐えられる」


二人の視線の先では、流星を筆頭とする精鋭4艦が、必死に大型Alogの猛攻を凌いでいた。


「へっ……分かった。月を背負って戦うこいつらには、まだこの『劇薬』は早すぎる。……これは火星の地獄で、あのカブトムシ共に叩きつけてやるための、とっておきにしておこうじゃねえか」


岩蔵が不敵に笑った、その時だった。


不死鳥の特装砲連射と、雷電・ケルベロスの凄まじい大無双によって完全に戦力を削ぎ落とされたAlogの残存勢力が、にわかにその触手を翻した。これ以上の戦闘は不毛と判断したのか、あるいは人類の想定以上の新火力に恐怖したのか、残された数千の群れは、一斉に火星方向へと反転――撤退を開始したのだ。


(何だ……?)


Alogたちが反転した瞬間、雷電の機体を通して奇妙な波が流れ込んできた。


言葉ではない。


だが、どこか「戻れ」と命じているような意思だけが伝わってくる。


(今のは……)


「兄さん、どうしたの?」


心配そうな亜理砂に、


「何でもないよ」


と、誤魔化した。



「……敵の退行を確認。月面防空圏の防衛、成功しました!」


万里子の声が響き渡り、セレーネ基地周辺にようやく静寂が戻る。人類は、月での最初の防衛戦を、完全なる勝利で飾った。




――数時間後。

不死鳥のドッグでは、エレーナの不満が爆発していた。


「納得いかない」


薄暗い格納庫の中、調整中の機体を見上げながらエレーナが呟く。


「まだ言ってんのか」


カイルが呆れる。


「大型を撃破できなかった」

「十分活躍しただろ」

「違う」


エレーナは冷たい目で、ハッチの向こうに広がる赤い火星を見上げる。


「次は撃ち抜く」

「だがよ」

「凛ちゃん、真壁のおっちゃん、力が欲しい」


エレーナの強い願いに、


「わかった」


と、凛と岩蔵が力強くうなずいた。

火星に到着する前に、ケルベロス・ゲートがさらなるパワーアップを遂げるのは、もはや確実となった。

そこに、大輔や和彦等も、愛機の火力を更に上げろと岩蔵に迫っていた。




静まり返った月基地セレーネを背景に、息を呑むような光景が広がっていた。 漆黒の宇宙空間に整然と並ぶ、人類の最高戦力。


「流星、朧月、暁月、彗星」


ミラーが名前を呼ぶ。


「以上四艦を遠征艦隊に指定する」


静まり返る通信回線。

選ばれた者。選ばれなかった者。その差は残酷だった。

新造艦の若きクルーたちの間に、悔しさと沈黙が広がる。


「……次は、俺たちも行きます」


回線の向こうから、選ばれなかった艦の若き艦長が、声を震わせながらも決意を口にした。


「ああ。だから帰ってくるまで生き延びていてくれ」


ミラーが返した。




青白きルナ・オリハルコンの光を纏った、総旗艦『不死鳥』。 そして、その巨大な腹空に、先ほどの戦闘で見事な練度を見せ、火星遠征への切符(資格)を勝ち取った精鋭4艦――『流星』『朧月』『暁月』『彗星』を完全に格納し終えた、超大型母艦『八咫烏』。



艦隊旗艦回線に、総司令である杏の声が響く。


「これより本艦隊は、火星軌道への遠征へと移行する」


杏の気高き号令とともに、不死鳥と八咫烏のジェネレーターが臨界まで跳ね上がる。

杏の言葉を聞いた春花が、全艦に通達する。


「全艦――針路、火星! 最大加速マックス・スラスター!!」


ドォォォォォン!!


と、真空の宇宙にまばゆい光の尾を引きながら、6隻の決戦艦隊は月軌道を離脱。神の領域(火星)へと向けて、その針路を力強く変更した。進発する艦隊の姿は、まさに人類の『反撃ののろし』そのものだった。




その艦隊の最後尾、並走する『雷電』のコックピットの中で。 結城哲夫は、液体呼吸の闇の奥から、遥か彼方で赤く妖しく輝く火星を見つめていた。


すると、哲夫の脳裏に、ノイズ混じりの『声』が直接響いてきた。


(……来るのか)


(誰だ)


わずかな沈黙。

そして。


(遅いぞ)


哲夫の背筋が凍る。


その声を知っている。忘れるはずがない。あの地獄の地球で、自分たちを導き、そして散っていった男の響き。


(隊長……?)


返事はない。

ただ。


(待っている)


その声だけが、火星の闇の向こうから響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ