第38話 宇宙での希望と悪夢
「特装砲のテストをするぞ!」
改装作業を終え、テストのため、一時セレーネ基地を飛び立つ不死鳥。
アステロイドベルト方面に照準を向ける。
「まずは、通常の砲撃を2連射からじゃ!」
「万里子、特装砲、圧縮粒子での発射準備!」
「エネルギー充填95%、98%、100%、臨界点……ホールド! 凄い、100%まで、しかもエネルギー効率が前回とは大違い」
春花は、岩蔵の方を見る。
「RG圧縮率、臨界点でのホールドで安定しておる。他はどうじゃ?」
「砲身温度、正常域! 伝達管に異常なし!」
整備員たちの声が次々と飛び交う。
主砲制御席では、春花が静かに腕を組み、正面モニターを見据えていた。
『不死鳥』の艦首。
新たに増設されたRG圧縮チャンバーが、低い唸りを上げながら青白く発光していく。
艦内部を巡るRG粒子の光が、血流のように伝達管を駆け抜けた。
「通常圧縮モード、第一射、いけるぞ!」
岩蔵の怒鳴り声。
「特装砲、発射準備完了」
その瞬間、ブリッジ全体の空気が凍りついた。
巨大な砲身の周囲に、青白い粒子リングが幾重にも展開される。
「撃てぇッ!!」
閃光。
次の瞬間、
不死鳥の前方空間そのものが歪み、
圧縮RG粒子の奔流が一直線に走った。
遥か前方――
アステロイドベルト宙域の巨大岩塊が、
音もなく蒸発する。
遅れて、衝撃波のような振動が艦全体を揺らした。
「……っ!」
新人整備兵たちが思わず息を呑む。
モニターに映るのは、
直径数キロに及ぶ空白地帯。
そこにあったはずの小惑星群が、
まとめて消滅していた。
「……通常モードでこれかよ」
隆が乾いた声を漏らす。
だが岩蔵は笑わなかった。
険しい顔のまま、計器を睨み続けている。
「砲身温度は」
「上昇中! ですが想定範囲内です!」
「チャンバー歪率は!?」
「0.02以下、安定しています!」
そこで初めて、
岩蔵はニヤリと口角を吊り上げた。
「へっ……。ようやく“兵器”になりやがったな」
そして、春花が、
「2射目、スタンバイ!」
春花の鋭い声がブリッジに響き渡る。 通常、特装砲のような高エネルギー兵器は、一射ごとに膨大な排熱と再充填のための『空白の時間』を必要とする。しかし、ルナ・オリハルコン製の冷却リブと、凛が構築した新たなエネルギー循環理論は、その常識を過去のものにしようとしていた。
「エネルギー再充填開始! 圧縮チャンバー、バイパス開け! 第二射まで……10、9、8……」
「(信じられない、この短時間でチャージが完了するなんて……!)」
万里子はコンソールを叩きながら、機材が悲鳴を上げないことに戦慄していた。以前の『不死鳥』なら、今頃回路のあちこちから火花が散っていたはずだ。
「……3、2、1。臨界点到達!」
「放てッ!!」
二条目の閃光。 一射目によって生まれた真空のトンネルをなぞるように、更なる高密度粒子が宇宙を貫く。 蒸発しきれなかった小惑星の残骸が、二射目の熱波を受けてプラズマの雲へと変わり、漆黒の空間に淡い極光を描き出した。
「……命中。目標宙域、完全沈黙」
万里子の報告に、ブリッジに安堵の溜息が漏れる。だが、岩蔵の視線はすでに『次』を向いていた。
「RG粒子の消費が激しいな。三連射は不死鳥単艦では不可能なようだ」
「やはり、八咫烏から補給するしか、ないのかしら?」
「そうじゃな。その為の八咫烏なんじゃからな」
特装砲のダメージを記録しつつ、エネルギーの流れなどを確認した岩蔵は、
「よし、引き上げるぞ。通常モードの連射に耐えたのは上出来だ。だがな……本当の地獄は、ここから先の『高濃度圧縮モード』だ。あれを使えば、今見た光景の数倍の負荷がこの艦を襲う」
「今、テストしなくて良いの?」
「必要じゃ。しかし今ではない」
岩蔵は砲身データを表示する。
そこには赤い警告ラインが並んでいた。
「高濃度圧縮粒子は、砲身寿命を一発で数%削る」
ブリッジが静まる。
「しかもRG粒子の消費量は通常の十倍以上じゃ」
「……」
「撃てるぞ。だが連発は出来ん」
岩蔵はコンソールから手を離すと、煤けたタオルで顔を拭った。
春花の号令により、『不死鳥』は優雅に転回し、セレーネ基地へと針路を取った。その翼には、かつての傷跡を覆い隠すように、ルナ・オリハルコンの静かな輝きが宿っていた。
「隆、帰還次第ドックを空けておけ。次は艦載機共の番だ。紫雲、雹花、それにグラディエーター……凛の小娘が描いた“無茶な設計図”を、俺たちの手で現実に叩き込んでやるぞ」
「了解です、おやっさん! パイロットたちがひっくり返るような代物に仕上げてやりますよ」
その後数日間。
セレーネ基地では、火星攻略作戦に向けた準備が急ピッチで進められていた。
新たな明星型が次々と到着し、各機体にはルナ・オリハルコンの搭載作業が進められていた。
液体呼吸訓練も連日行われ、八咫烏には火星遠征用の補給物資が積み込まれていく。
人類は来るべき決戦に向けて、持てる力の全てを集めていた。
火星攻略作戦の最終ブリーフィング。
哲夫たち主要メンバーが会議室に集まっていた。
その時だった。
突如、会議室のモニターに緊急警報が表示される。
火星方面へ先行偵察として送り出していた無人観測機『八咫』からの通信だった。
万里子がモニターへ目を向けた瞬間、その顔色が変わった。
『Alog反応を確認』
『数、測定不能』
『推定規模』
『過去最大』
会議室から音が消えた。
誰も言葉を発しない。
ただ警報音だけが、異様なほど大きく響いていた。
哲夫は表示されたデータを見つめたまま、小さく呟く。
「来たか……」




