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地球軍特別防衛隊  作者: 悪魔神官長
第三章 月基地セレーネ

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第35話 重なる魂

岩蔵の怒号が響き、火花が舞う『不死鳥』の改修現場。その凄まじい熱気を見つめながら、隆は手元のタブレットに表示された、もう一つの『未完成の設計図』に目を落とした。


「……おやっさん。不死鳥の改修が終わったら、いよいよ『ケルベロス型(ケルベロス・ハウル)』の本格的な建造ですね。……正直、構想段階の図面を見ただけで目眩がしてきましたよ。これ『ケルベロス・ハウル』とバルダー・ゲートを合わせて、2機合体してケルベロス・ゲートになるなんて、本当に出来るんですか?」


岩蔵はフンと鼻を鳴らし、油にまみれたタオルで首筋を拭った。


「理論上は可能じゃ。だが、現場『リアル』を完全に舐めとる。宇宙空間の相対速度の中で、2つの機体を物理的にドッキングさせるなんざ、神業を通り越してただの自殺志願じゃ」

「やっぱりそうですよね。普通に近づくだけでも装甲が激突して大破するか、結合部が千切れるのがオチですよね。だから守屋さんが、今、合体専用の誘導モーション・プログラムを必死に書き換えているようですが……問題はハードウェア、つまり『繋ぎ止める力』だと思います」


隆は画面をスクロールし、2機のドッキング軸を指し示した。


「そこで俺からの提案なんですが、結合の瞬間に、強力なマニュピレーターで掴むのはやめましょう。破損するのが落ちですよ。代わりに、おやっさんが前に考案していた『高出力磁気収束レーザー《ドッキング・テザー》』をロック機構に使えませんか? レーザーを互いの結合部に照射し、磁場で強制的に引き寄せて軸を固定するんです」

「……ほう。キャッチするんじゃなく、磁気のレーザーで『縛り付ける』か。面白い、それならコンマ数秒のズレがあっても、強引に軸を合わせられるな。よし、そのレーザー装置の設計はわしが引き受ける。一ミリもブレん強固な奴を作ってやるわい」


岩蔵は納得したように頷いたが、すぐにその表情を険しく曇らせた。


「だがな、隆。ハードが繋がり、凛のソフトが走ったとしても……本当の地獄はその先にあるぞ」

「……パイロットの、精神リンク(同調)ですね」

「そうだ」


岩蔵は、建造中の『ケルベロス・ハウル』のコックピットブロックを見上げた。


「ケルベロスを完全に制御するには、『2人同時』の液体呼吸リキッド・ブリージングによるリキッド注入が必要不可欠じゃ。そして、声が出せないプールの中で、2人の思念波を完全に同調させて1つの機体を動かす。……だが、人間の脳はそんな風にはできておらん」


隆はログの予測データを思い出し、身震いした。


「初期テストのシミュレーションじゃ、お互いの記憶や感情、恐怖心が濁流のように混ざり合って、脳内に凄まじい『精神的ノイズ』が発生していました。拒絶反応が酷すぎて、まともに機体を維持できるのは、現状じゃ『わずか数分』が限界です」

「個の境界線が溶ける恐怖、か。それに耐えながら機体を操るなんざ、並大抵の精神じゃねえ。下手をすれば2人とも廃人(スクラップ)だ。凛の小娘がどれだけリンクプログラムを最適化しようが、こればかりは乗る奴らの『絆』と『覚悟』にかかっとる」


岩蔵はそう言うと、隆の肩をバシッと叩いた。


「だからこそ、わしらの仕事がある。命を削って飛ぶあいつらのために、レンチ一本入らねぇような欠陥機(スクラップ)を渡すわけにはいかん。1秒でも長く、1キロでも速く、安全に戦える機体を組む。それが整備兵のプライドだろうが!」

「そして、この守屋さんから、ドッキング後の接続部についての注文なんですが、これを『直接繋がず無線経由にして』無くせば、その、感情が混ざり合う事が無く、戦闘することが出来るのではないのですか?」


隆の言葉に、岩蔵はわらいながら、


「そこに目が行くとは、流石隆じゃな」

「それでは!」

「じゃが、それは凛の嬢ちゃんに確認済みじゃ」

「守屋さんは何と答えてくれたのですか?」

「雷電が使用している戦術リン『無線でのリンク》は、コンマ数秒の遅延があるそうじゃ。じゃが、雷電のコクピット内『直接リンク』であれば、その遅延が発生しないとの事じゃ」


岩蔵は、驚き目を見開いている隆を見ながら、話を続ける。


「通信の遅延は、コンマ数秒でも命取りになる。それで、実際に乗るカイルとエレーナに確認してみたのじゃ。その遅延で後悔するくらいなら、精神リンクを乗りこなして見せる、とな」

「すでに、そこまで話を進めていたのですね」

「と、いう訳じゃから、ドッキング後の接続系統は、お主に任せるぞ?」

「……はい! すぐにドッキング後の接続部分の基本設計に入ります!」

「おう、へばるんじゃねぇぞ! 野郎ども、次はケルベロスの外骨格の強度テストだ! ルナ・オリハルコンの配合比率を3%上げろ!!」


岩蔵の新たな怒号がドックに響き渡り、整備兵たちが再び一斉に動き出す。 人類の希望となる補給整備艦『八咫烏』の胎内で、最強の矛たる『不死鳥』、そして未知の可能性を秘めた『ケルベロス・ハウル』が、今まさにその牙を研ぎ澄まそうとしていた。




――そして数週間後。 ついに、鋭利な戦闘機の様な形状を持つ明星型カスタム機『ケルベロス・ハウル』が完成した。 臨時のハンガーに並べられた青き新鋭機を前に、岩蔵によるパイロットたちへのレクチャーが始まる。


「カイル、エレーナ。この『ケルベロス・ハウル』は、『バルダー・ゲート』の背面を覆うようにドッキングして戦うだけでなく、そのまま『ケルベロス・ハウル』の単体状態でも、戦闘できる設計になっている」


カイルが手元のタブレットで『ケルベロス・ハウル』の仕様データを確認し、感嘆の息を漏らす。


「さらに、二機が合体した時、『バルダー・ゲート』の背面にあるエンジン部分から、そのエネルギーを提供され、二機分の推進力を得ることが出来るのじゃ」


空間に投影されたホログラムに、バルダー・ゲートからケルベロス・ハウルへ、奔流のようなRGエネルギーが流れ込んでいくシミュレーションが映し出された。


「この状態になれば、新しい雷電並みの速度を出すことが出来るのじゃ」

「新しい雷電?」


カイルが眉を上げた。


「そうじゃ。雷電もまた、ルナ・オリハルコンを組み込むことによって、以前の雷電より、全てがパワーアップしておるからな」

「二人がかりで、ようやく追いつくのかよ」


カイルが苦笑すると、隣のエレーナが静かに首を振った。


「いいえ、向こうは三人よ!」

「そうじゃな。じゃが、『ケルベロス・ゲート』が二機で出す速度を、『雷電』一機で出せるほどの出力を、持っている化け物じゃと思うしか無かろうて」


エレーナはモニターから目を離し、カイルを見つめた。


「よその機体の事よりも、私たちの機体をブラッシュアップして行きましょう」

「そうだな。俺たちには、俺たちの良さがあるからな」

「そうよ」


二人の意志が固まったのを見届け、岩蔵がニヤリと笑った。


「それなら、ドッキングの訓練を開始するか?」


「はい!」


二人の返事が美しくリンクした。




訓練用シミュレーター・プール。 カイルとエレーナはそれぞれのコックピットに乗り込み、濃密なアルテミス・フルードに完全に身を沈めていた。視界がグリーンの液体に染まり、呼吸が肺のフルードを通じて機械に同期される。


『これより、ドッキングおよび精神リンクの耐久訓練を開始するわ。……2人とも、無理だけはしないでね』


『不死鳥』から来る音声データは、アルテミス・フルード内で直接感じることができる信号へと変換され、脳に直接流れ込んでくる。その、はっきりと脳裏に響く春花の心配そうな声を合図に、訓練が始まった。

――ここからは、声なき世界。肺まで満たしたフルードの海で、交わされるのは思考そのもの、すなわち『思念波』での会話となる。


『エレーナ、聞こえるか?……なんだか変な感覚だな。頭の中に直接お前の気配があるみたいだ』

先行する『ケルベロス・ハウル』のシートで、カイルの思考が電波のように放たれた。


『ええ、聞こえているわ、カイル。私のおもいも届いているかしら?……少し気恥ずかしいけれど、今は目の前のシミュレーションに集中しましょう』


後方から肉薄する『バルダー・ゲート』のエレーナから、凛とした思念が返る。



仮想空間の宇宙。隆が提案し、岩蔵が形にした『高出力磁気収束レーザー(ドッキング・テザー)』が起動し、眩い光のロープがバルダー・ゲートを捉えた。強力な磁場が2機を強引に引き寄せ、結合軸が一分の狂いもなくガチリと固定される。物理的なドッキングは完璧だった。

しかし、真の試練はそこからだった。


『――システム直結。両機、戦術リンク開始』


凛の冷徹なシステム音声が脳内に直接滑り込んできた直後、2人のコックピットが有線系統で完全に一本へと繋がる。


『(が、あぁぁぁぁぁっ……!!)』

『(う、く……あ、頭が……、割れる……っ!!)』


思念の回路を、凄まじい嵐が吹き荒れた。 遅延を無くすために直結された精神。そこへ、お互いの過去の記憶、戦闘への恐怖、奥底に隠していたトラウマ、そして『自分』という個の境界線が溶けていく圧倒的な恐怖が、濁流のような『精神的ノイズ』となって脳内へ直接なだれ込んできたのだ。

モニターに表示された同調グラフが狂ったように乱高下し、アラートが赤く脳裏を明滅させる。


『脳波に強烈な拒絶反応! ノイズレベル限界突破。このままでは精神崩壊スクラップを起こすわ! 訓練を中止して――』


外部から流れ込む凛の通信すらもノイズに掻き消えそうになる中、カイルは脳が焼き切れるような激痛に耐え、思考の腕を必死に伸ばした。


『クソが……負けるかよ……! エレーナ! 俺の意識うしろにしっかり乗っかれ!! 弾いてんじゃねえ、俺を信じろ!!』

『カイル……っ、ごめんなさい、怖い、個が消えていくのが、凄く怖い……! でも、あなたとなら……! 私を、あなたにシンクロさせて……!!』


お互いの魂を強く抱きしめ合うような、命がけの歩み寄り。 エレーナが恐怖を払い、カイルという存在を全開で受け入れたその瞬間、荒れ狂っていた精神的ノイズの嵐が、奇跡のようにふっと凪いだ。


『――リンク・バースト。二人の鼓動、完全同期。プログラム『アルテミス・リンク』、安定多数を確保。……信じられない、ノイズを力に変換しているわ』


凛の驚愕を含んだ声が脳裏に響くとともに、仮想空間のケルベロス・ゲートが爆発的なRG粒子の光を纏う。

限界維持時間は、現状わずか『数分』。 だが、フルードの海の中で、2人の思念は完全に一つに重なっていた。


『やったな、エレーナ……!』

『ええ、カイル。私たち、いけるわ……!』


声は出せない。しかし2人は確かに、全く同じタイミングで、信頼に満ちた笑みを脳内で交わし合っていた。


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