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地球軍特別防衛隊  作者: 悪魔神官長
第三章 月基地セレーネ

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第30話 星屑の散華

春花の指令を聞いた凛が基地の起動シークエンスを開始した。


「——システム、オールグリーン。RG炉、点火!!」


凛がエンターキーを叩きつけると、これまで死の静寂を保っていた月面基地に、一斉に明かりが灯る。

メインシステムの再起動と共に、地下のRG炉が青白い光を放ち、その莫大なエネルギーがセレーネ基地の貯蔵庫にと流れ込み始めた。


「真壁さん、セレーネ基地のRG貯蔵庫へのエネルギーバイパス、完全に接続されました! 『月読』の方は、どうですか?」

「凛の嬢ちゃん、こっちでもエネルギーの流入を確認した! よくやった! 月読の最終同調はわしらに任せるのじゃ。お前さんは自分の仕事をしろ!」


岩蔵の野太い返事を聞きながら、凛はすぐさま次のオペレーションへ移行した。電源が入ったことで、セレーネ基地の防衛・電子制御セクターが次々と覚醒し、彼女のコンソールへ流れ込む情報量が爆発的に増大する。

(やはり、電源が入ると掌握できる範囲が段違いに広がったわね……! 急がないと!)

凛は冷や汗を流しながら、基地内部のセキュリティ制圧を急いだ。



その時、戦域の索敵を行っていた雷電の由美が、悲鳴のような警告を通信に叩き込んだ。


「Alog来ます!」


月面のクレーター、あの黒い結晶体に覆われたデコイ(囮)基地の中心。5キロメートルを超える巨大な黒いリングオブジェクトの周囲に待機していた、角突きのカブトムシ型、そして無数のカナブン型が一斉にその翅を広げ、星屑の群れとなって飛び立った。


「万里子、こちらでも捉えているかしら?」


不死鳥のブリッジで春花が叫ぶ。オペレーターシートに座る万里子は、押し寄せる光点の数に息を呑んだ。


「そ、そうですね、敵が一斉に動き出したようです」


だが、もしここに凛が座っていれば、あるいは気が付いたかもしれない。万里子には、巨大リングの中心部で、空間が不気味に歪み、エネルギー波形が異常な変異を起こしていることに気が付く余裕がなかった。


「迷っている暇はないわ! ミラー准将、一撃離脱で敵の先陣をかく乱してください! 不死鳥も最大戦速で続きます!」

「了解した! ミラー艦隊! 発進する!」


リングの防衛圏へと果敢に接近していたミラー准将の突撃艦隊が、押し寄せるAlogの鼻先をかすめるように、鋭く宇宙空間をスライドしていく。

「左60度回頭、Alogの目の前を滑り抜けるぞ! すれ違いざまにミサイルを忘れずに叩き込め!」


最大速度で突進するミラー艦隊は、迫り来るAlogの群れの直前で左へと急速転舵。空間に放射状にばら撒かれた無数のミサイルの雨の中に、中型・小型で構成されたAlogの先遣隊が、自ら飛び込む形となった。


ズガガガガガン!!


と真空の宇宙で音もなく広がる爆煙。

小型Alogが次々と爆散し、敵の陣形に混乱が生じる。その瞬間を、流星の後方で虎視眈々と狙っていた春花は見逃さなかった。


「主砲! 副砲! 撃てー!」


いつも凛が操作するときよりも、コンマ数秒、照準の固定が遅れた。だが、不死鳥の誇る圧倒的な火力が宇宙の闇を切り裂く。

主砲の直撃により、中型も跡形もなく吹き飛び、小型もミサイルやバルカンで爆散し、周囲はAlogの体液が、周囲の真空に不気味な霧となって充満していった。




その頃、地下の本物セレーネ基地の周辺空域では、別の死闘が始まっていた。


「こっちにも、来ます! 大量です!!」


由美の警告通り、月面の地平線の向こうから、不死鳥の網をすり抜けた別働隊のAlogが、地を這うような低空飛行で押し寄せてくるのが見えた。


「かっかっか! うじゃうじゃと湧き出てきやがったな! ここが踏ん張りどころだぞ、若造ども!」


ジャックの豪快な怒号が響く。


「よっしゃ! 突撃だ!」


その声を合図に、智則、和彦、そしてカイルの『突撃三人組』が、リバースグラビティブースターを爆えさせながら、敵の群れのど真ん中へと飛び出していった。


「ちょっと! 基地を防衛するって、わかっているのかしら?」

「まぁ、いつもの事です。我々でフォローしましょう」


智則が冷静に機体を滑らせ、突出した三人組の背後をカバーするべく、正確な援護射撃を開始した。


「私は、後方へ回ります」

通信兵の奈津子は、激しいジャミングが飛び交うこの戦場で、セレーネ基地と、遥か上空の不死鳥のいる空域との通信リンクを維持するため、両者の中間地点へと移動を開始。戦場の情報を命懸けで中継する。


「狙い、撃つ!」


エレーナもバルダー・ゲートにて、明星が月面基地に降りているため『RGバスターカノン』が使用できない中、大型内蔵ライフルで中型をメインに狙い撃っていた。

(撃ち落とせなくても大丈夫。カイルやみんなが落としきってくれる)

だが、その時、バルダー・ゲートの巨体に目を付けた無数の小型Alogが、羽虫のように周囲に群がり始めた。

(このままでは、精密射撃が出来ない)

エレーナの心に焦りが生じたその瞬間、彼女の視界で、纏わりつこうとしていた小型Alogが次々と背後から撃ち抜かれ、爆散していった。


「バルダー・ゲートに纏わりついた小型は、私たちが追い払うわ!」

「エレーナは射線に集中してください!」


愛香と利花の二機が、バルダー・ゲートの死角を完璧にカバーし、小型の群れをバルカンで掃射していた。


「助かる」


エレーナは短く応じると、再び中型Alogへの致命の精密射撃を再開した。


セレーネ基地のドッグへの侵入こそ許してはいないものの、敵の数は文字通り桁違いであり、ジャック隊は徐々に月面へと押し込まれ始めていた。

だが、突撃三人組はAlogの編隊飛行のド真ん中に肉薄し、その美しい連携で隊列を滅茶苦茶に乱し続けている。


「おらおらおらぁ!」

「行くぜぇ! 宇宙の藻屑になりな!」

「堕ちろぉぉぉ!!」


三人が力任せに押し広げた混沌の空域に、エレーナの正確無比な狙撃と、恵美・智則の的確なクロスファイアが突き刺さり、確実に敵の数を減らしていく。


「かっかっか! この歳になって、これほど血が騒ぐ本物の戦場に出られるとはな!」


老兵ジャックは、体内で沸き返る高揚感を必死に冷徹な理性で抑え込みながら、周囲の戦況を俯瞰し、的確な指示と極小の無駄もない援護を飛ばし続けていた。


「……だが、だいぶ押し込まれてきましたね」


智則の苦渋の声が漏れた、その時。



セレーネ基地の『月読』から、雷電のコクピットへ通信が入った。


「いいかボウズ、突貫で作ったんで試射はしていない。弾丸も、ルナ・オリハルコンをかき集めてやっと10発しか作れなかった!」


そう言って送られてきたのは、ルナ・オリハルコンの超金属弾を発射可能にした『外付け電磁コイル実弾砲改』。

哲夫は、元々の装備である『従来の外付け電磁コイル実弾砲』を背中の武器アタッチメントにワンタッチで装着し、代わりに『改』を左手に装備し、右手には外部エネルギーライフルを装備し、武器アタッチメントを切り換えて使い分けながら戦うこととなった。


「岩蔵さん、最高の武器をありがとう……! 雷電、出撃する!」


セレーネ基地のゲートが開き、雷電が真空の闇へと飛び出した。

背部に追加された大型バーニアが、青白い咆哮をあげる。

大気抵抗が一切存在しない宇宙空間において、雷電の機動性は地球上でのそれを遥かに凌駕し、まるで虚空を瞬間移動するかのような鋭さを見せた。


「亜理紗、由美、行くよ?」

「はい! 兄さん」

「了解です!」


二人の完璧なサポートを得た哲夫の一撃が、あの日の悪夢を払拭する雪辱戦の第一歩となった。


「邪魔だ!」

「左小型3、右小型2、前方手前に小型2、前方奥に中型1、攻撃態勢」

「この位置なら、当てる!」

「突っ込むぞ!」


哲夫はリバースグラビティシールドを最大展開し、突撃してくる小型Alogを真っ向から弾き飛ばして粉砕。亜理紗のばら撒いたミサイルで周囲を更地に変えつつ、中型Alogの鋭い突撃を紙一重の宙返りで回避——その瞬間、すれ違いざまにその無防備などてっぱらへエネルギー砲を叩き込む。

三人の息があった雷電は、かつての戦闘力を凌駕し始めていた。


「この調子だ! このまま、敵の大型を狙うぞ!」


哲夫の鋭い声に応じ、由美が広域索敵画面を更新する。

だが、彼女が近距離の敵を捕捉している最中、遠方の宇宙空間で、あり得ないレベルのエネルギー異常を検知した。

さらに、そのすぐ傍にいるミラー艦隊の挙動が、明らかに狂っているのを捉える。


「哲夫さん、リングの周囲に異常発生! さらに、ミラー艦隊の動きが変です」


セレーネ基地に群がるAlogを撃破していると、由美がリングの異変とミラー艦隊の挙動を捉えていた。




その頃、大型リングオブジェクトの周辺空域で、凄まじい戦果を挙げていたミラー准将は、歓喜の絶頂にいた。


「よし! 素晴らしいぞ! 最初の突撃は完璧だ!」


ミラーは、Alogの先遣隊の隊列を自らの戦術で大きく突き崩したことに、完全に酔いしれていた。


「これほどの手応えなら、もう一度突入し、化け物どもの頭を完全に叩き潰すぞ!」

「……よろしいのですか、准将?」


通信画面越しに、明星型3番艦『魁星かいせい』の艦長であるカノープスが、懸念の声をあげる。


「現状のままなら問題なかろう。我々は頭を抑えられない限りは、突き抜けられる」


ミラーの心に、確かな慢心が生じていた。

いつもなら、次の戦術行動に移る前に必ず不死鳥へ報告を入れていた彼だったが、自らの戦功に目が眩み、独断で再度Alogの群れへの突入を開始してしまった。


不死鳥のブリッジでは、慣れないオペレーター業務をこなす万里子が、主砲や副砲の照準制御、さらには艦内の熱管理に完全に追われていた。彼女がミラー艦隊の『再突撃』に気が付いたのは、彼らが既にスラスターを全開にし、あろうことか不死鳥の主砲の『射線上』に割り込んできた瞬間だった。


「なっ!? 流星が、ミラー艦隊が……! 不死鳥の主砲の射線上に突撃してくるなんて、嘘でしょ!?」

「何ですって!?」


春花が驚愕して立ち上がる。

ミラー艦隊が射線を塞いでしまった結果、不死鳥からの強力な主砲援護射撃が、一瞬にして薄くなってしまった。

前方の攻撃圧力が目に見えて弱まったことに、ミラーが『なぜ援護が薄い!?』と疑問を感じた、まさにその瞬間だった。

5キロメートルの巨大リングの周囲に、空間が悲鳴をあげるほどの、異常な重力力場が発生した。。


「艦長! リングに動きがあります! 信じられないエネルギーの質量が、周辺に出現します!」


万里子の焦燥しきった警告が響く。


「何ですって!? 何が起きているの!?」


春花が叫んだ次の瞬間、ミラー艦隊の目の前の真空に、まるで虚空が割れるかのようにして、漆黒のAlogの増援が『出現』した。

リングが完全に作動し、異次元の彼方から、新たな精鋭部隊が送り込まれてきたのだ。


「——しまっ、あの位置はまずい!! 我々の頭が、完全に抑えられるぞ!!」


ミラーの顔から血の気が引いた。

ミラー艦隊の前に現れた増援は、大型1、中型10がカブトムシ型で構成され、それらはすべて突撃に特化した装甲を持つ宇宙適応型であり、小型は各種揃っていた。


「ミラー准将! このまま直進すれば、あの大型の角に真っ向から突っ込むことになります! 反転しましょう!」


ブリッジに居る副長から、弱音を聞いたミラーは、


「馬鹿者、この超高速域で下手に反転してみろ、速度が死んで一網打尽にされる! このまま……このまま最大出力で突撃し、突き抜けるしか道はない!!」

「ですが!」


「くどい! このまま空域を直進する! 全艦、下げ舵15! 最大火力をお見舞いしながら走り抜けろ! リバースグラビティシールド最大! 化け物どもを吹き飛ばせぇ!!」


ミラーの命令に従い、3番艦『魁星』と4番艦『暁月』は、即座に下げ舵15をあて、下方へと退避を試みた。しかし、旗艦『流星』の総舵手が、あまりの恐怖にトチったのか、それとも慣性制御のミスか、下げ舵の角度が決定的に足りなかった。

結果として、流星だけが単艦で、突っ込んでくる大型Alogの正面へと、真っ直ぐに突き進む形になってしまったのだ。


「なんということだ……! ここに来て、宇宙空間での練度不足が、こんな形で出るなど……!!」


ミラーは絶望に歯を噛み締めた。地球であれば、地球の重力が機体を自然と引き下げてくれただろう。だが、ここには上下のない宇宙空間。地上と同じ感覚で舵を切っても、重力の補助がない流星は、思うように高度を下げることができなかった。


「ミラー准将——!!!」


3番艦の艦長、カノープスの悲痛な叫びが、無線を通じて全艦隊に響き渡った。




その頃、セレーネ基地周辺

大型リングオブジェクトの起動と同時に、セレーネ基地周辺の宇宙空域にも、最悪の絶望が顕現していた。 その異変に、誰よりも早く反応したのは由美だった。


「哲夫さん、まずいです。増援が、周囲にも展開されました」

「なんだって!? どこから接近していたんだ?」

「突然空間から現れました……! 間違いなく、あのリングが一時的に起動した影響です!!」


ミラー艦隊の正面に未知の部隊が現れたのと完全に同時に、このセレーネ基地上空にも、空間の歪みから大型Alogが2、中型が20、そして視界を埋め尽くすほどの小型多数が出現した。


「まずい、この距離からの大型の攻撃は、セレーネ基地に直撃する」


哲夫の額に冷や汗がにじむ。基地には今、命懸けで『月読』を調整している岩蔵や隆、そしてシステムを掌握しようとしている凛がいるのだ。


「あの大型の強固なリバースグラビティフィールドと装甲を、岩蔵さんの『外付け電磁コイル実弾砲改』のルナ・オリハルコン実弾で吹き飛ばしてください! その後、装甲の剥げた箇所に、内蔵エネルギー砲と、外部ライフル、従来の実弾砲の全火力を叩き込んで、一気に削り切るんです!!」


由美の鋭い声が、焦る哲夫の意識を繋ぎ止める。


「……分かった! 最高の戦術だ! 亜理紗、ミサイルを全弾バラ撒いて周囲の小型を排除してくれ! それと同時に、左側の大型に向けて『改』を叩き込む。そのまま零距離まで突っ込むぞ!!」

「了解!」


その作戦を聞いていたジャックが、即座に割って入る。


「かっかっか! 面白い、右側のもう一体の大型は、俺たちが意地でも攪乱し、足止めしておいてやる! 突撃三人組、あのクソデカいカブトムシの目を引くぞ!」


そう言って、突撃三人組にかく乱指示を出した。


「了解!」

「任せな!」

「おうよ!」


大輔、和彦、カイルが叫び、右側の大型Alogへと特攻気味の機動で襲いかかる。


「残りは、エレーナの援護だ!」


ここに来て、宇宙空間での激しい乱戦の中、旋回性と制動性に劣る重火力型『バルダー・ゲート』の弱点が、完全にさらけ出されようとしていた。



「亜理紗、由美、いくぞ!」


哲夫は雷電のバーニアを吹かした。射線を確保するため、周囲のAlogを吹き飛ばしながら道を作っているなか、歯を食いしばりながらレーダーを見ていた由美が、


「今です!」


その合図とともに、大型にロックオンしていた雷電の外付け電磁コイル実弾砲改から、ルナ・オリハルコンの実弾が、周囲を切り裂きながら大型に直撃した。

リバースグラビティフィールドで守っていたにも関わらず、大型Alogの装甲が数枚はじけ飛び、周囲のリバースグラビティフィールドも多少薄くなっていた。


「装甲! 弾け飛んでいます!」


その合図と同時に、ロックオンしたままの外付け電磁コイル実弾砲改が、火を噴いた。


ズドォォォン!!!


放たれたルナ・オリハルコンの超金属実弾が、真空の空間を切り裂くような凄まじい衝撃波(RG粒子の摩擦)を伴って、大型Alogの残っていた装甲部分に直撃した。

いかなるエネルギー攻撃をも減衰・無効化するはずの、大型特有の強力なリバースグラビティフィールド。しかし、装甲が数枚はじけ飛び、周囲のリバースグラビティフィールドも多少薄くなっていたその守りを、物理的に『引き裂き』、その奥にある強固な外殻装甲を、派手な火花とともに粉々に弾き飛ばした。


「装甲、大破! フィールドの出力、臨界点を下回りました!」


亜理紗が叫ぶ。


「おおぉぉぉ!!」


哲夫は即座に左腕の『改』を従来型電磁コイル実弾砲に持ち替え、さらに右腕の外部エネルギーライフルを構え直した。内蔵エネルギー砲のチャージを完了させながら、装甲のはじけ飛んだ大型Alogの傷口に向けて、文字通り肉薄していく。

敵が放つ反撃の光線が雷電のシールドを削るが、哲夫は構わず突っ込んだ。リバースグラビティフィールドの干渉による減衰率を完全に無視できる、超至近距離。


「ここからなら、有効打を期待できます!」


由美の合図に、


「喰らいやがれ、化け物おおぉぉぉ!!!」


哲夫は、トリガーを限界まで引き絞った。

従来型実弾砲の超高速連射、そしてライフル・胸部から放たれる最大出力のRGエネルギー砲が、大型Alogの剥き出しの肉体に、至近距離から一斉に叩き込まれた。


ドガガガガ、ドグゥゥゥン!!!


いくら強固な宇宙適応型の大型といえど、至近距離でこれほどの暴力的火力を浴びせられては、防ぎきる術などなかった。その巨体が内側からRG粒子の過負荷で青白く膨れ上がり、次の瞬間、凄まじい大爆発を起こして宇宙のチリへと変鳴り果てた。


「まずは、一つ!」


雷電の周囲にAlogの体液が飛散していたが、それを吹き飛ばすかのように、すぐさま次の戦場へと機体を躍らせた。




そのころ、リング方面の不死鳥のブリッジでは、


「流石ミラー艦隊です、敵を紙一重で回避しつつ、突き抜けるようです! ……って、あれ!?」


コンソールを監視していた万里子が、突如、声を裏返した。


「万里子? どうしたの?」


春花が身を乗り出す。


「流星だけ……! 何故か、流星だけが大型Alogの突撃コースに真っ向から向かっています!」

「なんですって!?」


「流石にあの大型カブトムシの、突撃特化の角を受けたら、明星型の装甲でも防御しきれません! 貫かれます!!」


万里子の必死の警告に、春花は顔を青ざめさせた。


「あの大型に対して、特装砲の射線は取れないの!?」

「だ、駄目です! 丁度、流星の巨体が敵との間に挟まっていて、完全に射線を塞いでいます! 撃てません!」


春花たちが激しい焦燥に駆られていた、その時だった。通信ウィンドウに凛の鋭い顔が割り込んできた。


「——艦長! それなら艦を急激に横に振って、その慣性で実弾主砲の弾道をカーブさせてください!!」

「な、何言ってるの凛!? 宇宙空間で実弾をカーブさせるなんて……!」

「この不死鳥の質量と、現在のRG粒子の展開速度、そして魁の操艦技術なら……理論上は弾道を曲げて、流星を避けて大型の側面に当てられます! 計算データ、送ります!」


凛からの無茶苦茶な要求と、膨大な弾道計算データが不死鳥のブリッジに雪崩れ込む。


「私に……そんな高度な制御ができるかしら……」


万里子が恐怖に手を震わせる。


「大丈夫です、タイミングよく、発射するだけです。魁、艦の制御は出来る?」

「当たり前だ!」


凛の発破に、魁が答えた。


「よし! ミラー准将を救うわよ! 特装砲の発射準備と共に、実弾主砲の発射準備。魁、タイミングは任せるわ。でも、急いでね!」


しかし、無情にも不死鳥の周囲にも、ミラー艦隊をすり抜けた中型・小型のAlogが牙を剥いて襲いかかってきた。


「ミラー艦隊を突破してきたAlogの別働隊が、本艦に接近中です!」

「万里子、迎撃! 回避は魁に任せる! 凛、流星を援護する主砲のカーブコースの算出、まだ引っぱれる!?」

「迎撃します!」


万里子が泣きそうな顔で叫ぶ。


「小型なら、弾き飛ばせるぜ!」

「やってみます!」


凛は、魁の小型を弾き飛ばす運動性を盛り込み、相対位置の割り出しと、力加減などを加味した最適解を、スパイダーに計算させていった。


不死鳥が周囲の敵との激しい乱戦に突入した、まさにその瞬間。

流星はすでに大型Alogの目の前まで接近してしまっていた。

流星のブリッジの大型メインスクリーンには、迫り来る大型カブトムシ型Alogの、空間を切り裂くような巨大な『角』が、視界を埋め尽くすほどの大きさで映し出されていた。

突撃の速度はすでに臨界点。もはや、いかなる制動をかけようとも、回避不可能な絶対の距離で、その死の角が『流星』を捉えていた。


准将であるミラーは、己の慢心が招いた結末を悟り、静かに死を覚悟して目を閉じた——。

だが。 数秒が経っても、衝撃は訪れなかった。代わりに、彼の視界が、網膜を焼き切らんばかりの、凄絶な『真っ白な光』に包まれた。


「……!? 何だ……この光は……!!」


ミラーが驚愕して目を開けると、彼の目に信じられない光景が飛び込んできた。

三番艦『魁星』がその母艦が、メインスラスターを臨界点を超えて爆発させながら、流星と大型Alogのわずかな隙間に、横から無理やり割り込んでいたのだ。


ギチギチギチ、ドゴォォォン!!!


大型Alogの巨大な角が、魁星の左舷装甲を深く、深くえぐり抜く。引き裂かれた船体の亀裂から、高濃度に圧縮されていたRG粒子の奔流が、眩い燐光となって宇宙に吹き荒れる。


流星の大型スクリーンに、激しい火花と警報が鳴り響く魁星のブリッジ、そして血を流しながらも不敵に笑うカノープス艦長の姿が映し出された。


「准将……申し訳ありません……。我々の練度不足です。……ですが、この艦を、盾にします! ——総員、退艦!! 間に合わない者は……衝撃に備えろぉ!!!」


魁星は爆発する艦体を無理やり推進剤代わりにし、流星を優しく突き飛ばすようにして、その死の射線から引き離した。

月面に咲いた青白い『散華』の巨大な光球。

その凄絶な輝きが、旗艦流星のブリッジにいるミラーの顔を、自らの慢みに対する激しい屈辱と、友を失った深い悲しみで照らし出した。


「ノーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」


准将の、肺腑を抉るような、血を吐くような絶叫が、真空の戦場に響き渡った。


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