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地球軍特別防衛隊  作者: 悪魔神官長
第三章 月基地セレーネ

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第29話 悪魔の剣、ルナ・オリハルコン


セレーネ基地のドッグにて


そのころ、凛は焦っていた。

「……電力が来てないせいで、信号が減衰して届かないじゃない。スパイダー、予備のルートをこじ開けて! 制御チップの残留電荷をかき集めて、無理やり一瞬だけ演算回路を起動させるのよ!」

(なに、この基地のセキュリティは。今までのEasdpのザルだったセキュリティとはダンチなんだけど。この経路はループっぽいし、こっちはバックアタックでリソースを削られる。何て嫌らしいセキュリティなのかしら)

そう思いながら、ドッグの端末を鳴らしていた。


しばらくして、凛がハッとした。


「まさか!?」


そういって、端末を操作すると、


「よしきた!」


ついに、そのセキュリティを突破した。くしくも、哲夫がさやかのホログラムに泣かされている時と同じであった。


さやかの導きか、セレーネ基地を掌握していた凛が、それを発見した。


さやかのコメントが付いた月読の設計図であった。

【兵器名:対Alog用位相崩壊砲『月読ツクヨミ』】

【さやかの注釈:この砲は、RG粒子の位相を反転させることで、対象の分子構造そのものを空間ごと崩壊させる。けれど、射撃の瞬間に発生する「空間の歪み」は、この砲そのものを飲み込むほどの次元干渉を起こす可能性がある……。私はこれを完成させない。これは、誰も持ってはいけない悪魔の剣だから。】


「これ、セレーネ基地にある武装? 『月読』ですって? そんな武器、聞いたこと無いですよ。艦長! 真壁さん!」


凛が、慌てて不死鳥にデータを送った。

凛から送られてきたデータを見た、岩蔵は、


「なんちゅう恐ろしい兵器を考えていたのじゃ、Easdpのバカ者どもは。これを地球に放ったら、下手したら大陸が消し飛ぶぞ!」


かなり、憤っていた。


「どうやら、建造途中だったようですがさやかさんが反対したようですね。その後、開発にかかわっていた、さやかさんが亡くなったために、開発速度が大幅に低下し、途中で放棄されたとあります」


凛からの報告に、


「こんな悪魔の兵器、放棄されて当然じゃ。誰が建造を許可するっていうんじゃ!」


激怒する岩蔵に向かって、杏が静かに、そして強く言った。


「……私が許可します。岩蔵さん。」


冷静な杏の言葉が響き、岩蔵がたじろぎながら言い返そうとする、


「杏さん……あんた、これが何かわかって……」


杏はその言葉を遮り、


「わかっています。これは夫が、そして火星に散った多くの命が、最後に恐れた『破壊』そのもの。けれど、今これを使わなければ、彼らが守りたかった『未来』さえも、Alogに食い尽くされる。」


杏は、春花と岩蔵を交互に見て、


「罪は私が背負います。歴史に『悪魔を呼び覚ました女』と記されても構わない。……だから、二人とも。どうか今はこの剣を、人類を救うために振るって」


その決意に春花が答える。


「これを使いましょう!」


「お前さんまで、馬鹿げたことを言うでないわ! この悪魔の兵器を使おうというのか!!」


岩蔵が激怒した。

その怒りを真正面から受け止めた春花は、冷静に凛に聞いた。


「凛、これを使えば、月面にある大型のリングを吹き飛ばせるかしら?」


凛は、再計算しなおすと、


「これを使えば、間違いなく、あのリングのリバースグラビティフィールドごと、消滅させられます」

「じゃが!」


「岩蔵さん。一度だけ。一度だけで良いの。私たちには、他に選択肢が無いの」


岩蔵は乱暴に頭をかき、


「ぐぬぬ」


と、唸る。そこに、春花はたたみかける。


「悪魔の兵器だっていうなら、なおさらあなたの力が必要よ! このまま誰にも制御されずに暴走すれば、それこそ地球が消えるわ。……でも、あなたなら、この荒馬を乗りこなせるはず。岩蔵さん、あなたは『造る』プロでしょう? 破壊するためじゃなく、私たちを守り抜いて、無事に地球へ帰すための『道具』として、月読を飼い慣らして見せてよ!」


岩蔵は、春花の目をしっかりと見ながら、


「……へっ、簡単に言ってくれるじゃねえか。……いいか、一回だけだ。一回撃ったら、俺の手でこいつを二度と使えねえ鉄屑にしてやるからな!」


と、にやりと笑った。そして、隆に向かって、


「……隆! 聞いたか! 杏さんに、あんな顔をさせちまった、春花の嬢ちゃんが、俺たちに悪魔の首輪を付けろってよ! ならば、俺たちの腕で、あの『悪魔』にせめて『天使の羽』の端っこでも付けてやらねえと、男がすたるぞ!」

「……おやっさん。やりましょう。さやかさんが遺したデータを僕が見た限り、これ、凄いシステムですよ! 今までのリバースグラビティ粒子の制御方法を加えれば、空間の歪みは最小限に抑えられます。……僕たちなら、制御できます!」

「……フン。若造に先を越されちゃ、面目がねえな。……いいか春花の嬢ちゃん! 月読は俺たちが預かる。その代わり、狙いは一ミリも外すんじゃねえぞ! 皆が命懸けで作る『一瞬の隙』……そこに、人類の意地を叩き込んでやれ!」


岩蔵が、動き出した。


「しかし、このリバースグラビティ粒子をエネルギーに変換して貯蓄する場所に使われている素材は何だ? こんなもの、地球には無かったぞ?」


「この素材は凄いですね。ここまでリバースグラビティ粒子を圧縮、貯蓄することが出来るなんて」

「さらには、この砲身にも使用しているな」

「これは。データ上では、エネルギー的には特装砲の数倍の威力を弾きだせそうです。」

「じゃが、それだと砲身ははじけ飛ぶぞ」

「そうですね。この強化されている砲身でも特装砲の5倍が限界ですね」

「・・・・・一発か」

「おやっさん?」

「一発撃つだけなら、最大パワーでぶっ放すか!?」

「いやいや、月基地のエネルギーだけじゃ、一発分のリバースグラビティ粒子を貯めるのにも、時間がかかりますよ」

「それなら、明星を使うか」

「確かに! 明星があれば、だいぶ時間を短縮出来ますね」

「ふむ、この素材、手に入りそうか?」

「そうですね、月の裏側に、かなりの量があると書いてありますね。」

「この素材で、哲夫の実弾はおろか、特装砲や艦載機を強化出来そうじゃな」

「おやっさん。まずは、『月読』に全力を尽くしましょうよ」

「ふん。隆に正論を言われる日が来るとはな。野郎ども! 仕事に取り掛かるぞ!」




整備兵達は岩蔵と隆のもとで、月読の最終調整と超金属(ルナ・オリハルコンと命名)の採掘に分かれ、Alogに気づかれない様にサイレントにそして大胆に取り掛かっていた。

岩蔵BOX(自動工作コンテナ)を使用し、砲身のチェックや、ルナ・オリハルコンの採掘がおこなわれていた。


数時間が経過し、月読の建造が佳境に差し掛かったころ、哲夫と由美が、さやかの部屋から出てきた。


「……。さやか、君の想いは受け取った。もう迷わない。……君が遺したこの思いを、今度こそ僕たちが引き継ぐ! 世界の平和を実現するという思いを!」


哲夫はイヤリングを強く握りしめ、首にかけ直した。

その行動を横で見ていた由美は、もう、大丈夫だと感じ取っていた。


「……行こう、さやか。君の愛した世界を、今度は俺たちが守る番だ」


二人が雷電の待つドッグへ戻ると、そこにはドッグのメイン端末に新たなバイパスケーブルを繋いでいる凛の姿があった。


「亜理紗、守屋さんの状況は?」


凛の邪魔をしない様に、横で不死鳥と連絡を取っていた亜理紗に聞いた。


「セレーネ基地の主電力発生装置の掌握には、もう少し時間がかかるようです」

「結構、かかるのだな」


「何故か、雷電からの演算リソースの割り当てがなくなったとかで、処理速度が激減したとぼやいてました」

「え……?」


哲夫が自分の機体を見上げる。


「きっと、本物のさやかさんが私を認めてくれたのだと思う。いつまでも、雷電に頼るなって……『ここから先は、あなたの腕でやってみなさい』って、言われた気がするわ」


凛はそう言いながら、手元のコンソールを力強く叩いた。画面上では、彼女が独自に構築した蜘蛛型のハッキング・ウイルス――通称『スパイダー』――が、雷電の補助なしでセレーネの強固な防壁を次々と食い破っていく。そこには、せわしなく動き回る蜘蛛しか、映っていなかった。


しばらくして、緑色のコンプリートランプが点灯する。


「現時点での主電源の掌握が終わりました! 起動しますか?」


凛の声に春花たちが反応する。


「基地を起動したら、Alogに気が付かれるわ」

「じゃが、月読のチャージには、基地の起動は不可欠じゃぞ?」

「ここからは、時間との勝負になりそうね。凛、戻って来られる?」

「主電源を起動させてからも、基地全体の完全掌握があります。現在起動していない生命維持区画や防衛セクターは、起動後に順次掌握する予定なので、もう少し時間が欲しいです!」

「坊やは戻って来られる?」

「雷電は出られます。出られますが、それでは、ここで作業している守屋さんや岩蔵さんを、丸裸で敵地に放置することになりますが?」

「それは、まずいわね」


春花たちの言葉に、ミラーも加わる。


「陽動するしか、なさそうだな」

「そうですね。不死鳥とミラー艦隊で陽動をかけ、ジャックさんや坊やには、セレーネ基地を防衛してもらうしか無さそうね」

「ですが、それでは不死鳥とミラー艦隊が危険です」

「そうだな。それなら、ミラー艦隊だけで、一撃離脱を繰り返す方が、陽動になるのではないか?」

「それでは、さらに危険ですよ」

「だが、不死鳥には、正規のオペレータが不在なのだろう?」

「それはそうですが」

「我々の艦隊も、宇宙での実践を経験しておく必要があるのですよ」


春花は激しく葛藤した。全員の命が、自分の決断にかかっている。


「……分かりました。ミラー准将、突撃艦隊の指揮を任せます。ただし、無茶な特攻だけは厳禁ですよ。私たち不死鳥も、後方から援護します」

春花が苦渋の決断を下した。


「任せろ!」


ミラーが春花にウインクをして通信を切った。


「基地の主電源の再起動と同時に、明星をセレーネ基地の『月読』付近へ降下させます。さすがにこれだけのエネルギーが発生し、明星が降下し始めればAlogに察知されるでしょう。全機発進! ミラー艦隊は一撃離脱を最優先に! 敵を引き付けてください」

「了解した!」

「芹沢隊、伏見隊はジャックの指揮にもと、セレーネ基地の前面に展開! Alogを寄せ付けないで! 坊やも基地の防衛に!」

「かっかっか! 了解した。若造ども! 出番だぞ!」


ジャックの豪快な笑いが響く。


「了解です! 姉さん!」


哲夫が叫ぶ。

ジャックたちが配置についたのを確認した春花は、


「凛、基地の起動を! 同時に、明星を降下するように! 亜理紗さん、キャッチをお願いね」

「わかりました!」


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