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地球軍特別防衛隊  作者: 悪魔神官長
第三章 月基地セレーネ

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第28話 亡き人のラスト・コード

「凛、どうしたの? 何か見つかった?」

「艦長。これを見てください」


凛はそう言って、コンソールの情報を、メインスクリーンに映し出した。


「この場所は? って、まさか! セレーネ!?」

「そうです、他の地形を照らし合わせると、現在見えている月面のクレーターは、昔のセレーネの場所と違うのですよ」

「つまり、あの月面のクレーターにあるのは、ダミーという事なの?」

「はい! 形状を解析する限り、かつて私たちが使っていた展望室の残骸などを集めて、Alogが急速に組み上げた『デコイ』……囮です。本物のセレーネ基地は、この偽物の遥か斜め後方、月面の地下大空洞ラバチューブの奥深くへ、丸ごと隠蔽されています!」

「それだけ離れているのなら、セレーネ基地に行くことは出来そうね」

「問題があるとすれば、Alogが気づかないでいてくれるか、って、事ですね」


春花と凛の会話に、岩蔵が反応した。


「不死鳥で接近すれば、厳しいじゃろうな」


さらに春花と凛は続ける、


「そうですよね」


春花はため息をつき、ふと疑問を口にした。

「そういえば凛、その隠蔽された本物の位置情報、どこから入手したの?」

「それが……この情報の発信元、不死鳥のレーダーじゃありません。……雷電のメインフレームを経由して、セレーネ基地の深部から直接送られてきたんです。……あっ、さらに、テキストメッセージが添付されています!」



画面の隅に、ノイズ混じりの文字が浮かび上がる。

【哲夫をこのポイントに連れてきて。きっと役に立つから。それと、システムのサポートをして欲しいので、システムに強い者も一緒に来て欲しい】



メッセージを見た春花が、驚愕に目を見開いた。


「これは……さやかからなの!?」

「わかりません! わかりませんが、月が近づいてきた瞬間、雷電が共鳴するようにして、セレーネ基地からの暗号を自動復号したんです!」


春花はため息をつきながら、


「坊やをご所望なのね」

「システムに強いって事は、私の出番ですね」


凛が眼鏡を押し上げる。


「俺を呼んでいるのであれば、雷電で行きましょうか?」


哲夫の言葉に、凛が情けない声を出す。


「私も、雷電に乗るのですか? あの、液体呼吸のコクピットに!?」

「もちろん私たちも行きますよ!」


由美と亜理紗が力強く宣言した。

こうして、Alogの目を盗み、隠蔽された本物のセレーネ基地へと、哲夫、亜理紗、由美、そして凛の4人が潜入することとなった。



——月面の静寂。

雷電の背部に非戦闘用の小型シャトルをワイヤーで連結し、慣性飛行だけで月面の影を滑るように進む。


「ここまで来ても、旧月面基地の入り口が、わからないな」


セレーネ基地の隠蔽率はかなり高く、月面に到着しても、その入り口がわからなかった。

シャトルに乗った凛は、コンソールを確認しながら、雷電がオートマチックで特定のルートをトレースした事を確認した。


「大丈夫です。雷電経由で基地に案内されています」

「そうか、このまま誘導に任せよう」


雷電とシャトルは、まるで月面に吸い込まれるように、偽装された岩肌の裂け目——セレーネ基地の秘密ドッグへと、静かに吸収されていった。



そのころ、不死鳥では、凛の代わりに万里子が画面を見つめていた。

殆どは、オート、もしくは、凛の遠隔で操作する予定だが、不測の事態に陥ったときの為に、万里子に頼んでいた。


「やはり、雹花のコンソールとはけた違いの情報量ですね。」


万里子は目を白黒させながらつぶやいた。


「雷電たちが、セレーネ基地に侵入したようね。Alogたちの動きも、無いようですね」


さらに万里子は、緊張した面持ちでレーダーを確認していた。


「頼んだわよ! 坊やたち!」


春花は、祈るように送りだした。




セレーネ基地内


セレーネ基地の内部は、完全な死の世界だった。 主電源は落ち、非常灯すら点いていない。外部から差し込むかすかな月光だけが、脱出時の混乱のまま凍りついた瓦礫や、散乱した書類を照らしていた。


雷電とシャトルから降りた哲夫たちは、二手に分かれた。

哲夫と由美がセレーネ基地内部に突入し、凛と亜理紗がドッグに残り、凛がドッグの端末についていた非常用電源を起動し、そこからセレーネ基地の電源施設のセキュリティを改変していった。その間、亜理紗は凛の安全を守りつつ、哲夫達に進むルートを指示していった。

そのころ、Alogが一瞬だけ反応したが、移動してくることはなかった。


「由美さん、その先を右です。Alogが一瞬だけ反応しましたが、こちらへ移動してくる気配はありません」


基地内部は、脱出時の混乱がそのまま凍りついたかのような静寂に包まれていた。

亜理紗から情報を受けた由美が、


「こっちのようね」


哲夫は由美と共に瓦礫や散乱したケーブル等をどかしながら、進んで行くと、隔離された区画にたどり着いた。


「セレーネ基地に、こんな区画があったのだな」


哲夫達も知らない、上層部だけが知る秘密の区画であった。

そこには、生々しいAlogの生体パーツを使った実験の跡や、リバースグラビティ粒子が初めてここで精製されたことを示すデータが残されていた。


導かれるように進んだ先。ひときわ荒らされた、小さな部屋に到着した。

『その場所から、強いシグナルが出ているようです!』

亜理紗の声が響く。


「まさか……さやかの部屋なのか!?」


哲夫の身体が震えた。


「何か、感じるの?」


由美が顔を覗き込む。


「いや……そんな気がするんだ」


哲夫はふらふらと部屋に入り、激しく荒らされた室内の中で、なぜか『そこだけが塵一つなく綺麗なテーブル』に手を突いた。


「こ、ここに……さやかが居たのか……」

『兄さん、その部屋に何かありませんか?』


周囲を見渡すが、何か特定のデバイスがあるようには見えない。


「ねぇ哲夫さん。部屋の中がこれだけ荒れているのに、そのテーブルだけが綺麗なのは、何か意味があるのかしら」


由美の言葉に、哲夫はハッとしてテーブルの表面を入念に指でなぞった。すると、中央に不自然に抉られたような、小さな『穴』が見つかった。



「ここだけ、抉られている」

「破壊しようとしたのかしら」


哲夫がじっと、その穴を見ていると、ある事にひらめいた。


「もしかしたら」


そう言って、鎖でつないで首から下げていた、さやかの形見のイヤリングを取り出した。


「それって、さやかさんのイヤリング?」

「そうだ。その穴は、このイヤリングを贈った時の箱にあった台座と同じような気がするんだ」


そう言って、イヤリングを穴に近づけると、ぴったりとその穴にはまった。

すると、テーブルの一部が光りだした。


「この光り方、手形の様にも見えますね?」

「手を置けばよいのか?」


哲夫は躊躇うことなく、その光の手形に、己の手を重ねた。


その瞬間、テーブルの上部がスライドしていき、中から出てきた立体映像装置が青白い光が形を成し、かつての恋人が現れる。


さやか(ホログラム)

『……あ、映ってる? よしっ!』


そこに映っていたのは、軍人としての冷徹な顔ではない。 カメラに向かっておどけて見せたり、照れくさそうに髪をいじったりする、哲夫だけが知っている『一人の少女』としてのさやかだった。


『――ええと、これを哲夫くんが見てるってことは、私の作戦は成功したのかな? おめでとう! でも、私の許可なく見ているのであれば、私はそこに居ないって事だよね。……うん、わかってた。わかっていたけど……やっぱり、ちょっと悔しいな』


彼女は寂しそうに笑い、それから意を決したようにこちらを真っ直ぐに見つめた。


『……哲夫くん、元気にしてる? ちゃんと野菜食べてるかな。……本当はね、こんな映像、一生見られないまま終わるのが一番だったんだけど。……もしあなたがこれを見ているなら、私はもう、あなたの隣で笑うことはできないんだよね。……ごめんね、約束守れなくて』

「さやか……っ」


哲夫の目から、大粒の涙がボロボロと溢れ出した。由美はそっと顔を背け、涙を堪える。


『でも、これだけは覚えておいて。私が雷電に込めたのは、世界を壊す力じゃない。あなたを、あなたが生きる世界を守るための力。……だから、すぐに私のもとに来ようとしちゃダメだよ。絶対にダメ。哲夫くんはちゃんと生きて、誰かを愛して、いっぱい幸せになって。じゃないと化けて出るからね!』


さやかは最後におどけて見せ、そして消え入りそうな声で呟いた。


『大好きだよ、哲夫くん。――私の代わりに、明日を、生きて』


そこでメッセージが終わり、ホログラムも固まっていた。


「さ、さやかあぁぁぁ!!」


哲夫は声にならない叫びをあげ、伸ばしかけた手で、さやかのホログラムを抱きしめようと、激しく掻きむしった。

さやかに触れられないと感情が決壊した。哲夫はその場に崩れ落ち、子供のように大声を上げて泣き続けた。さやかの想いが、遺されたラスト・コードが、彼の魂に完全な火を灯した瞬間だった。


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