第25話 質量弾(楔)、再来
不死鳥はメキシコ湾を低空飛行で抜け、大西洋側からワシントンD.C.へと肉薄していた艦隊は、霧の深いワシントン沖へと到達した。そこは人類の敗北を象徴する『鉄の墓場』だった。先行していたミラー准将の明星型2隻と流星が、重苦しい沈黙を保ったまま不死鳥を迎える。
暗い顔のミラーが、
「……来たか、春花艦長。見てくれ、これが人類が持てる『力』をすべて注ぎ込んだ結末だ」
不死鳥のメインスクリーンに映る富士の同型艦『リバティ・プライム』の残骸。哲夫は拳を握りしめ、さやかが命を懸けて繋いだ技術(RG圧縮炉)の重みを再確認する。
それを見た春花は、
「……ひどい。あれが、富士の同型艦だというの……?」
コンソールのデータを見た凛が、
「はい。核融合エンジンを搭載した旧時代の極致です。出力は、主砲を撃つだけで精一杯のようです。……私たちの不死鳥とは、もはや別の時代の乗り物です」
哲夫は拳を握り締めながら、
「……富士も、もしあのまま換装が終わらなければ、同じ運命を辿っていたのかもしれない。……さやかが、命を懸けて守った技術がなければ」
不死鳥に搭載された『RG圧縮炉』は、さやかのレポートを岩蔵が形にした、いわば彼女の魂そのものだ。リバティ・プライムの残骸に群がる小型Alogたちは、自分たちよりも圧倒的な『重力』を放つ不死鳥の接近に気づき、不気味な鳴き声を上げ始めた。
その頃、地下数百メートルの司令部。ガリクソン元帥は、スクリーンに映る『輝く不死鳥』の姿を、血走った目で見つめていた。
「……日本人の分際で、我が領土を好きにさせるな! 全軍発進! 不死鳥を撃沈し、その技術を接収せよ!!」
ワシントン近郊の EasdpA 基地から、ボロボロの旧式戦艦と艦載機隊が無理やり発進する。しかし、彼らが不死鳥に接触するよりも早く、街に鎮座していた超大型Alogが動き出した。
「……! 艦長、アメリカ軍が超大型に捕まったわ! 一方的な蹂躙です……!」
凛の報告通り、ワシントンの空は悲鳴と爆炎に包まれた。大型・中型の群れが、羽虫を払うようにアメリカ軍を追い散らし、不死鳥には指一本触れさせない。それは『守っている』のではなく、単に『邪魔者を排除した』だけの、無慈悲な光景だった。
それを見ていたガリクソン元帥は、狂気にかられた目で、
「……おのれぇぇ! ならば、貴様らもろとも地獄へ落ちろ!!」
自軍の壊滅を目の当たりにしたガリクソンは、ついに完全オフラインの核ミサイル発射レバーを叩き込んだ。
核ミサイルの発射台が出現したのを、不死鳥のレーダーがとらえた。
「あ、あれは、核ミサイルです!」
「なんですって!?」
さらに、不死鳥のレーダーが、空から超巨大な飛来物を察知した。
「……! 艦長、上空に重力異常感知! 月軌道から、巨大な『質量弾』が来ます! 目標は……、ガリクソン元帥のいる地下司令部直上!!」
報告を聞いた春花は、
「なんですって!? そうか! ガリクソンが核を動かそうとしたから……奴らが反応したのね!」
それを聞いていた杏は、
「奴らは『核』を呼び水にしているのよ! 以前と同じ……人類が抵抗しようとするその場所に、楔を撃ち込んでいるんだわ!」
上空の雲が渦を巻き、激しい雷鳴と共に、巨大な『1000m級の楔』が大気圏を切り裂いて出現した。
コンソールで数値を見ていた凛が、
「……重力、さらに異常! 楔が、核施設に直撃しました! ガリクソン元帥……核施設や基地もろとも消滅です」
核の火を灯そうとしたガリクソンの野望は、その火種ごと数百万トンの質量に押し潰された。ブリッジに戦慄が走る。
発進準備で雷電に乗り込んでいた由美が、
「……来るわ。核爆発の衝撃波と、放射能汚染が……!」
春花が慌てて全艦隊に警告する。
「全艦! 耐衝撃防御! 凛、シールド最大!」
しかし、予想された爆発は起きなかった。 施設内の核エネルギーは、ワシントンに鎮座する超大型Alogの核へと、吸い寄せられるように収束していったのだ。
その光景を見ていた岩蔵が鼻を鳴らしながら、
「……へっ、あいつら、核を『エサ』にしやがった。あのデカブツ、人間のエネルギーを丸呑みして、自分のエネルギー砲に転用しやがったぞ!」
さらに、周囲では信じられない光景が広がる。
数千、数万の中型・小型Alogが次々と自爆し、その青白い体液を大気中に撒き散らしたのだ。
それを観測していた凛が、
「……信じられません。奴ら、爆散して放射能を中和しています。……これが、奴らの『目的』……?」
あまりに圧倒的な、そして美しいまでの『掃除』。
呆然とする一同を、春花の鋭い声が引き戻した。
「……呆けている暇はないわ! あの超大型は今、核エネルギーを充填した最大の脅威よ! 撃たれる前に、こちらから仕掛けるわよ!! 岩蔵さん、特装砲は!?」
春花の質問に岩蔵は、
「おう、冷却・圧縮・砲身強化、すべて完了だ! エネルギー的に2連は撃てる。だが、それ以上になると、冷却が追い付かなくなるし、そもそも、エネルギーが足りなくなるぞ。凛の小娘、特装砲の照準を固定しろ! ……本物の『力』ってやつを、Alogの野郎に刻み込んでやれ!」
凛が、特装砲の発射シークエンスを開始する。
「エネルギー充填95%、臨界点……ホールド! 凄い! 充填率が! あっ、発射準備、完了です!」
不死鳥の艦首が、現存の超大型へと向けられる。
凛の制御により、特装砲の奥底で圧縮されたリバースグラビティ粒子が、青白い雷光となって溢れ出した。
凛の報告を聞いた春花は、
「特装砲、最大出力……撃てぇぇぇッ!!」
放たれたのは、青白い光の柱。
それは、かつてリバティ・プライムの主砲が傷一つつけられなかった超大型の装甲を、まるで熱したナイフでバターを斬るように貫通した。
ズガァァァァァァン!!
特装砲の暴力的な破壊力は、超大型の内部コアを瞬時に蒸発させ、その巨体を木端微塵に粉砕した。




