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地球軍特別防衛隊  作者: 悪魔神官長
第二章 アメリカ奪還編

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第19話 月は綺麗ですか?

その夜、テラスでは、治療を終えたカイルが、他のパイロットたちと話をしていた。

ハワイの夜風はどこまでも穏やかで、Alogを退けた後の空気は、今までの抑圧されていた空気を押し流したかのように澄み渡っていた。

カイルは大きく深呼吸をして、夜空を見上げていた。


「しっかし、今夜は月が良く見えるぜ! 今まで見てきた月よりも、遥かに綺麗だ。……なあ、そう思わないか?」


カイルが、炊き出しを手伝っていた日本の避難民の女性たちに爽やかな笑顔を向けると、彼女たちは一瞬顔を見合わせ、頬を赤らめてそっぽを向いてしまった。

カイルは首をかしげて、


「……おや? どうしたんだい、お嬢さんたち。俺、何か変なこと言ったかい?」


ナンパに失敗したような顔で困惑するカイルを見かねて、横でコーヒーを飲んでいた智則が肩をすくめた。


「カイルよ……。不憫だから教えてやるが、その言い回しは、日本では有名なプロポーズの言葉の一つなんだ。それも、かなり風流な部類のな」


カイルは驚きのあまり、大きな声を上げていた。


「なんだって!? 月を褒めただけで結婚を申し込んだことになるのか!? ジャパニーズ・カルチャー、ミステリアスすぎるだろ!」


そんなカイルを見て、大輔は苦笑しながら、


「……まあ、それだけ今の空気が澄んでいて、月が綺麗に見えるってことだよ。カイルさん、あんたが無自覚にそんなこと言うから、余計にたちが悪いんだ」


カイルは肩をすくめながら、


「おいおい、勘弁してくれよ! 俺の愛機『ワイルドスピード』が嫉妬しちまうぜ。……ったく、俺はただ、Alogを掃除した後の空気はうまいし、月もよく見えるって言いたかっただけなのによ!」


カイルの叫びに、テラスのあちこちから笑い声が漏れる。

カイルの叫びが響き渡る中、哲夫は、


「そんな深い意味があったのか……」


と感心したように夜空を仰いだ。


「月を褒めるのがプロポーズだなんて、昔の日本人は風流なんだな。確かに、今夜の月は本当に綺麗だ……」


その呟きを、すぐ隣で聞いていた亜理紗の耳がピクリと動く。そのまま、哲夫の腕をぎゅっと掴んで、


「……兄さん。今、私に向かって言ったの? そうなのね? 漱石のその逸話、私知ってるわ。……確か返事は、死んでもいいわ。だったかしら。嬉しい、兄さんと結婚できるなら、私、Alogなんて全部一人で倒してくる!」


そんな亜理紗に慌てて、


「わ、わわっ! 違うよ亜理紗、独り言だよ! しかも俺たちは兄妹だろ!?」


少し離れたところで炊き出しの鍋を洗いながら二人を見ていた由美は、静かに、しかし鋭い視線を向けて、


「……哲夫さん。私は、月よりも、三食きちんと食べて健康でいてくれる姿の方が好きですけれど」


と、低い声なのに、何故か腹の底まで冷えるような声が響いてきた。


「由美さんまで!? い、いや、本当にただ月を見てただけで……!」


さらに焦った哲夫の視界(網膜投影)にさやかがひょっこりと現れる。彼女はニヤニヤしながら、タブレットの文字でこう告げた。


『テツオ、モテモテ。サヤカ、ヤキモチ。コンパス(方位磁針)、グルグル回シテ狂ワセチャオウカナ?』


「さやかまで冗談はやめてくれ! 磁気センサーが狂ったら明日飛べないだろ!」


一人でパニックになっている哲夫を見て、杏は呆れたように、でも少しだけ楽しそうにクスクスと笑った。


「ふふっ。哲夫さんの周りは、月を見る暇もないくらい賑やかね。……でも、それだけ皆、あなたのことを頼りにしているってことだわ」

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