第16話 救済の咆哮
全整備が完了し、全乗員が配置に就いている。静寂の中に重低音が響く。
艦の計器を見ていた春花は、
「全部署、報告。発進予定時刻まで残り180秒。……岩蔵さん、準備は?」
「最高だ。粒子炉の脈動は安定、出力誤差は0.02%以内。いつでも踏めるぜ、艦長」
岩蔵の返答に春花はさらに続ける。
「凛、発進プロセス移行。フェーズ1から24まで、全項目チェック。……魁、準備はいい?」
「ああ、……いつでもいけるぜ」
「RG粒子炉、一次臨界。重力バランサー作動、艦内の重力1.0Gで固定。……周囲の重力分布図展開、異常なし」
魁と凛の報告を聞いていた岩蔵が補足する。
「主機始動。リバースグラビティ、段階的上昇開始」
「了解。RG粒子、アキュムレーターへ充填。20%……40%……。固定クランプ、順次開放」
凛が、順調に上がっていく計器を見ながら、最終チェックを終え、
「艦体、出航準備完了」
凛の報告に魁が続ける。
「粒子出力、定格に到達。RGフィールド展開、艦の質量がマイナス値へ反転します。……3、2、1、テイクオフ」
艦体がわずかに震えた。
一連の作業を見ていた春花は、
「……魁、前進微速。ハワイ基地に信号を。 ――『不死鳥』、出るわよ!」
艦体の震えが大きくなり、巨艦が静かに港を離れる。
重力制御の唸りが低く響き、黒い海面がゆっくりと遠ざかっていった。
巨艦はゆっくりと港を離れ、推力を上げていく。
「離水上昇、不死鳥、発進!」
不死鳥は、EasdpJに反旗を翻すものからの救援を受け、元日本の民であったAlogの大型を倒すために、ハワイ基地を飛び立った。
「大型機、不死鳥の索敵範囲に入りました。超光学映像、出ます」
不死鳥のスクリーンに映し出された大型Alogは、通常の個体とはそれほど変わりはなかった。
「来たわね、EasdpJは?」
「そっちも、シグナルを確認、残り5機ほど、あっ、今、4機になりました」
「ギリギリの様ね。坊や、行ってくれる?」
雷電で待機していた哲夫は、
「了解です。姉さん」
そういうと、雷電を発進させた。
伊沢隊・伏見隊も発信し、残っていたジャックに、
「あの子たちを頼みます」
「承知した」
そう言って、グラディエーターを発進させた。
全機の発進を見届けたのち、スクリーンの中で蜘蛛を操っているさやかに、
「坊やたちを頼むわ」
と、呟いた。
「スクリーン上のさやかは、親指を立ててウインクを返していた」
ふっ、と、口元が緩んだ春花は、
「不死鳥もいくわよ!」
「総員、戦闘配備! 配置についてください」
凛の放送が流れ、クルーの気が引き締まっていった。
伊沢隊に、
「二人を先行させてくれ、囮を引き継がせてくれ」
と、戦術リンクを送り、受け取った万里子は、
「了解です」
と返しつつ、智則に伝える、
「佐々木さんと、カイルさんを先行させて、囮を引き継いで欲しいとの事です」
「聞いたな二人とも」
「了解!」
「がってん!」
「目的は、先に着くことではなく、囮を引き継ぐのだぞ!?」
「「お。おう」」
二人の声はリンクしながら、二機は大型の方へ、飛んで行った。
「全く」
そう言いながら、智則は額を抑えた。
「こっちには、突撃の指示はないのか?」
うずうずしている和彦が、奈津子に聞いていた。
「こちらはこの宙域に待機ですね。大型の注意を引くことになっています」
「うーん。この血がさわぐ。Alogを倒せと!」
「隊長、落ち着いて」
そう言って、和彦の進路をエレーナが塞いだ。
「ぐぬぬ」
こんな感じで、和彦の暴走を抑えるのであった。
救援に向かった二人は、
「「うぉぉぉぉおおおお」」
もはや、言葉を話すことが出来ない速度まであげ、さらに、
「「うぉぉぉぉおおおお」」
と、我先にとリバースグラビティブースターを連続使用しながら飛んで行った。
満身創痍なEasdpJとすれ違い、そのまま、大型の近くまで、接近していった。
ほとんど同時に到着した二人だったが、
「おりゃぁ!」
と、大輔が先にエネルギー砲を叩き込んだ。
「あっ、ずりいぞ! 飛び道具なんて使うなよ!」
そう言いながら、RGブースターの残光を引きずりながら、大型の触手を紙一重で回避。大型の皮膚を滑走するように超接近し、一瞬だけ展開したビームサーベルを突き刺すのではなく、速度を乗せて切り裂いた。
「あの、馬鹿どもが、こっちに誘導する予定が、あの場で戦うつもりか?」
智則が頭を振っていると、
「道を開けるように、と、指示が来ています」
後方では、エレーナがバルダー・ゲートのエネルギー砲が充填されていく。
(すごい、いつもなら照準がブレだす頃なのに、全然ブレる感じがしない)
リバースグラビティのアンカーにより、照準がブレることなく、エネルギーを貯めていった。
だが、それも長くは続かなかった。
(くっ。ブレ始めた、そろそろ撃たないと、外れる)
エレーナが焦っていると、
「私が支えます」
と、雷電から亜理紗の声と共に、思念波による機体の捕まえを、バルダー・ゲートに行った。
(ブレが収まった。エネルギーも、最大までチャージ完了!)
「狙い撃つ!」
静かな声と共に、物凄いエネルギーが発射された。
その頃、大型に突っ込んだ二人は、
「くっそ、硬すぎる」
「このままでは、先にエネルギーが尽きちまう」
と、近距離で戦っていたが、そこへ、大型の攻撃が行われる。
「ふん。そんな足での攻撃なんか、当たらんよ」
「カイル! 奴の後ろに行くな!」
調子に乗って避けていたカイルであったが、大型の後ろ側に避けてしまった。
「なにが?」
その瞬間、大型のけつから、大量の粒子が噴出した。
「ぐぅぅぅぅうう」
物凄い量のリバースグラビティ粒子と、Alogの体液を受け、白い煙を大量に上げながら、空域を脱出しようとしていた。
「なにっ、この重圧は……!? 機体が、重い……!」
機体の損傷と、Alogのリバースグラビティ粒子による重力攻撃により、運動性能が極端に低下してしまっていた。
そこへ、大型の足が迫る。
「やめろー」
大輔が叫びながら、足に攻撃を仕掛ける。
だが、無情にも、ダメージを受ける様子はなく、攻撃は止まらなかった。
「ジーザス」
カイルが神に祈りをささげていると、
「かっかっか。全く、世話の焼ける餓鬼どもだ」
ジャックはそう言いながら、カイルと大型の足の間に機体をすべり込ませ、大型の足を受け止めた。
「しっかし、小僧の戦術は恐ろしいな。ここまで当たるものなのか?」
そう言いながら、由美からくる戦術リンクを勝手に受け取りながら、対応していた。
「カイル、動けるか?」
「かなり遅いが、行ける」
「佐々木のボウズも行けるな?」
「無論です!」
「それなら二人とも俺に続け、そろそろエレーナがしびれを切らせて撃ってくるぞ」
そう忠告しながら、大型から距離を取っていった。
カイルは全力で、大輔はそんなカイルを援護しながら、ジャックはしんがりで大型の注意を引きつつ、後退していった。
そこに、バルダー・ゲートからの射撃が大型に直撃した。
「ぐるぁあああああああああああ」
悲鳴ともとれる叫び声が、周囲を包み込む。
「なんだ、この、気色悪い感じは」
ジャックのつぶやきに、雷電の中の三人が、一瞬苦しんだ。
「うぐっ」
「きゃぁ」
「うっ」
そう、人の心の叫びが、ダイレクトに三人を襲った。
雷電が瞬時に思念波を閉じたため、苦痛は一瞬であった。そのおかげで、脳へのダメージは皆無であった。
だが、一度遮断された思念波をもう一度放出するまで、時間がかかるため、それ以降は、雷電の戦術リンクは、使えなくなっていた。
だが、バルダー・ゲートからのエネルギー砲が直撃し、大型は熱量を逃がすために、翅を広げ、弱点をさらけ出していた。
「流石坊やね。主砲、一斉射!」
「撃てー!」
エネルギー、実弾共に発射し、正確にさらけ出していた弱点に、命中させていた。
その、圧倒的火力により、
「ぐろろぉぉぉぉ」
大型は、その場で爆散した。
「救援、感謝する」
4機となったEasdpJは、不死鳥に接近していた。
雷電のコクピット内では、
「雷電、助かったよ。亜理紗、由美大丈夫か?」
「に、兄さん」
「わ、私は、へ、平気です」
二人とも、震えながら哲夫に抱き着いていた。
哲夫も、操縦桿を握っていた手が震えていた。
哲夫にしがみついた亜理紗が、
「あの『叫び』。あれは一体・・・」
反対側の由美が、
「……救いを求める声だった。私たちは、彼らを救ったのよね?」
真ん中の哲夫は、
「そう、願いたいものだ」
そう言い合いながら、不死鳥へ帰投した。
ボロボロになったカイル機を収容し、全機帰投、さらには、EasdpJの四機も収容し、ハワイ基地に進路を向けた。




