第14話 ハワイ基地再編、黄金の翼の休息
その頃、整備ドックでは、
「とにかく、火を消せ! 機械類を出来るだけ守るのだ! 急げ!」
NEasdpの整備兵達が、手分けをして消火と機械類の搬出を行っていた。
「おい、ここには、アメリカの整備兵は居ないのか?」
岩蔵の言葉に、整備ドックに居た若者が、
「申し訳ありません。現在ほとんどの整備兵は、第三格納庫かメイン格納庫の方へ行っていて、この整備ドックには、我われ数名しか待機しておりません」
「なぁ、その数名も一緒になって、作業を開始しろ! とにかく、手を動かせ!」
「イエス! サー!」
啓礼をして、NEasdpの整備兵に交じり、消火と搬出作業を開始した。
あらかた消火が終わり、搬出も終えたところで、岩蔵が整備ドックに居た若造に聞いた。
「ここは、これで良いじゃろう。さて、先ほど話していたメインと第三は、どっちが近いのだ?」
NEasdpの整備兵と共に座り込んでいたアメリカの整備兵は、
「第三格納庫であります」
「よし、そこまで車を出してくれ」
と、ニカッと笑みを浮かべた。
それを聞いたNEasdpの整備兵は、揃った動きで立ち上がり、駆け足で、整備ドック内にあった動かせそうな車を数台持ってきた。
「な、なんという、揃った動きなんだ」
アメリカの整備兵は、NEasdpの整備兵達の動きに、驚いていた。
「ほれ、はやく乗れ。案内してくれねぇと、わからんだろう」
岩蔵たちが第三格納庫に到着した時は、整備兵が少女に一方的に詰め寄っていた。
「だから、無理ですって。これを修理するのは。どう考えてももう飛べないし、撃てないですよ」
アメリカの若手整備兵と共に到着した岩蔵たちは、その場へ向かった。
「なんだ、お前たちは!」
「そんな事より、わしに見せてみろ」
第三格納庫の整備兵に止められそうになっていたが、その止めた整備兵ごと、第三格納庫に横たわるバルダー・ゲートを眺めていた。
「これはまた、大きいのぅ。雷電ほどではないが、紫雲の2倍以上、雹花の5倍の大きさがあるのぅ」
その姿は、紫雲クラスの戦闘機に、不死鳥の副砲(明星の主砲)クラスの銃身が付き、その機体の周囲を、恐ろしい量の装甲版で守っていた。
岩蔵が、バルダー・ゲートに近づくと、
「ダメ。近づかないで」
詰め寄られていた少女が、機体の前に出てきた。
「ふん。なんだこの不細工な鉄屑は。重すぎて飛びもしねえだろうが。嬢ちゃんのおもちゃか?」
エレーナは静かに言い返す。
「……飛ばなくていい。ここから動かずに、敵の眉間を撃ち抜くだけだから」
岩蔵は少し驚いた顔をした後、不敵に笑う。
「へっ、気に入った。ボロだが筋はいい。……おい、凛の小娘に連絡しろ! 雷電のシステムを使って、このデカブツにリバースグラビティのブースターを組み込む計算をしろとな。この狙撃手に『翼』を付けてやる」
と、目の前の少女に、にかっと笑った。
岩蔵がバルダー・ゲートの脚部に蹴りを入れ、金属音を確かめる。
(面白い構造だな。荒々しいがこの子を守ろうとする意志を感じられる。だが、その思いのせいで、アンバランスな機体になっちまったか。だが、わしならば!)
「おい、そこの無口なスナイパー嬢。この鉄塊、飛ばした時は、お前の腕で何秒固定してられる?」
エレーナはコックピットから身を乗り出し、静かに答えた。
「……最大出力で制動して3秒。それ以上は反動で軸がズレる」
「3秒か、上等だ。これも凛の小娘に伝えろ。この機体の重心位置にRGジェネレーターを直結させる。重力を消して『反動そのもの』を空間に逃がすんだ」
通信を聞いた凛が、驚いたように声を上げた。
「無茶言わないでくださいませ! そんなことしたら、機体フレームが持ちませんわよ!?」
「持たせるのがわしの仕事だ。……いいか、これが成功すれば、雹花も紫雲も『空飛ぶ戦艦』に化けるぞ。哲夫の坊主をただの囮で終わらせねえための、最強の盾と矛だ!」
雷電を使った改修案を受け取った凛が、焦っていた。
「まさか、その機体だけでなく、雹花や紫雲にも、リバースグラビティエンジンを搭載させるのですか? それは、無茶ですよ」
だが、凛のタブレットでは、さやかがガッツポーズを見せ、雷電のシステムを稼働させているのが、描写されていた。
「本当に、大丈夫なんでしょうか? でも、確かにこれならこうすれば搭載できそうですね?」
凛の問いかけに、さやかはピースマークを向けていた。
凛から、リバースグラビティエンジンの追加案を受け取った岩蔵は、
「さすが、凛の小娘だな。よくわしの考えをここまで落とし込んでくれる。これなら、リバースグラビティエンジンを追加することが出来る。ただしよ、嬢ちゃん。このバルダー・ゲートのフレームじゃあ、雷電みたいな『本物のリバースグラビティエンジン』の加速には耐えられん。積めるのはあくまで、砲撃の反動を殺すためのバランサーと、緊急回避用の瞬間ブースターだ。じゃがな、リバースグラビティってのはな、空に浮くためだけのモンじゃねえ。……砲撃の衝撃を地面に逃がさず、空間そのものに固定する『究極のアンカー』にもなるんだよ……これなら、お前の『目』を支える最高の足場になるぜ」
と説明すると、
「……空間を、固定する? それができれば……今の3倍の出力でも、視界がぶれない」
エレーナの目が輝きだしていた。
岩蔵は満足げに鼻を鳴らすと、手元の端末を乱暴に操作した。
「凛の小娘! 今のデータを受け取れ。さっきの『答え合わせ』だ。バルダー・ゲートのフレーム剛性を、重力波で仮想的に補強する。……計算は、そっちの『相棒』に任せるぜ」
「……! 計算……いえ、シミュレーションを開始しますわ」
凛の持つタブレットの端で、小さなドット絵のようなさやかが、楽しげにピースサインを掲げる。それは凛にしか見えない、雷電のシステムが生成した『意志の可視化』だった。
(……さやか様。本当に、無茶な計算を通しますのね。でも、これなら……)
指令室のメインモニターに、再構成された各機のスペックが並んでいく。 『雹花(和彦機)』『紫雲(大輔機)』……。 岩蔵の『空間アンカー』という発想を、凛が雷電の演算能力で最適化し、凛がそれを兵装データへと落とし込む。
「……真壁さん。データの転送を完了しましたわ。……バルダー・ゲート、および伊沢隊各機への『簡易リバースグラビティ・バランサー』の搭載、理論上は可能です。……ただし、燃料消費は度外視ですわよ?」
設計図を見た岩蔵は満足げに鼻を鳴らすと、
「はっ! 燃料なんざ、勝ってから心配しやがれ! ……さあ、野郎ども、作業再開だ! 哲夫の坊主が宇宙で独りぼっちにならないように、最高の『土台』を築いてやるぞ!!」
その改修案を作っていた凛は、一抹の不安を覚えていたが、雷電のシステムを使用して作成した案を岩蔵が形にするのであれば、問題は無いと判断し、思考を指令室に戻していた。
岩蔵が凛からの改修案をバルダー・ゲートに組み込むために、指示を飛ばしていると、基地内に放送が入った。
ミラー准将の演説と、Easdpの腐敗した映像が映し出されていた。
そんな腐敗したEasdpの重鎮の姿を見て、
「ふん。結局どこも同じようなものなんだな」
と、岩蔵が鼻を鳴らしていた。
ここで、岩蔵は杏に呼び出され、本格的な改修作業を行う前に、アメリカの者たちとの顔合わせを行った。
岩蔵は、ハワイ基地に眠る三機のデータを受け取り、
「ほう。まだこの『鉄の獣』が現役で動いているのか。見るのが楽しみじゃな。それにしても、こっちのワイルドスピードは、出鱈目にもほどがあるな。大きさは紫雲ほどじゃが、かなりの速度を出せるようにしておるな、じゃが、これでは肝心の攻撃力が豆鉄砲ではないか。嬢ちゃんの機体といい、ぶっ飛んでおるの」
と、呟いた。
岩蔵が、グラディエーターの改修をしていると、カイルが声をかけてきた。
「俺のワイルドスピードも、強くしてくれねぇか?」
そんな若者の目を見て、
「ふん。実物を見てみねぇことには、何とも言えねぇよ。どんな機体にしたいのか良く考えながら、少し待ってろ」
そう言って、グラディエーターの改修作業を行っていた。
「……おいおい、岩蔵。俺のグラディエーターに何を積んでやがる。この不恰好な箱は何だ?」
不審がるジャックに、
「これが無きゃあ、お前のポンコツじゃ雷電の『声』が聞き取れねえんだよ。雷電の戦術リンクは情報量が多すぎる。お前の機体のOSじゃパンクしちまうから、外付けの演算機を積んでやったのさ」
「……かっかっか! 俺の機体には通訳機が必要か。いいぜ、若造たちの話し相手くらいは務めてやるよ」
「……ただの通訳じゃねえ。そのプロセッサは、雷電の予測データを『ベテランの勘』に変換して表示するように、凛の小娘に調整させた。お前の身体が覚えている戦い方と、雷電の計算を無理やり同期させる……。それに、リバースグラビティエンジンを搭載することに成功した。狙撃手の小娘の機体ほどではないが、装甲を追加し、リバースグラビティシールドも搭載した。これで、哲夫たちを守ってやってくれ。つまり、死ぬまで現役でいろってことだ、大佐」
(少し黙ってから、不敵に笑う)
「……そいつは、墓場まで持っていくには重すぎる土産だな。やってやるよ」
そんな話をタブレット越しに聞いていた凛は、
「……アナログ? 今さらそんな旧時代の電波、戦場でノイズに埋もれて消えてしまいますわよ」
岩蔵は、鼻を鳴らしながら、
「へっ、分かってねえな。デジタルは0か1かだ。だが、アナログは0.1でも残ってりゃ『声』が聞こえるんだよ。哲夫の計算が届かなくなった時、最後に頼りになるのは、大佐の野太い罵声だ。……それが、このチームの『最後の戦術リンク』になるのさ。良いかよく聞けよ凛の小娘、雷電の戦術リンクは確かに凄えが、いざって時にポシャったら、あの若造どもは全滅だ。だから、ジャックのポンコツには『アナログの太い回線』を無理やり中継局としてぶち込んだのだ」
そう言いながら作業を続け、作業を引き継げるところまで来た。
次に、カイルの機体がある第二格納庫に来ると、カイルがすっ飛んできた。
「親父さん! 俺の機体を、あの金ぴかみたいに飛ばしてくれ!」
「……ほう、こいつは驚いた。外見は紫雲と同じだが、中身はまるで別物じゃねえか。ミサイルポッドを全部取っ払って、空いたスペースに無理やり大型の圧縮燃焼器をぶち込みおって……。攻撃力をドブに捨ててまで、そんなに速く飛びたいのか、このバカ野郎は!」
「へへっ、最高の褒め言葉だぜ、親父さん! 俺にとって、当たらないミサイル100発より、誰にも追いつけない1秒の方が価値があるんだよ!」
「それで、攻撃しても倒せなければ、意味がないじゃろうに」
「うぐぅ」
「それに、雷電のトップスピードを出したら、この機体では、お主はミンチになるぞ?」
その言葉に、カイルは引きつった顔で、
「それじゃぁ、無理なのか?」
と、落ち込んだ。
だが、そんなカイルを見て、岩蔵はにかっと笑い、
「不可能を可能にするのが、わしの務めじゃ」
そう言って、岩蔵の考えを雷電を通して形にしていった。
「カイル、お前のワイルドスピードには『瞬間冷却機能付きのリバースグラビティブースター』を外付けしてやる。……ただし、一度に使えるのは3秒だ。それ以上は、お前の背骨が悲鳴を上げるかミンチなるかじゃな」
「それを使えば、金ぴか並みに早くなるのか?」
「そうじゃ。後は訓練で、どの程度の間が必要になるのかを、体に叩き込んでおくのじゃな」
カイルは目を輝かせて、
「そういえば、攻撃力はどうなるんだ?」
「無論、追加することは出来る、ただ、まずは、3秒の加速に慣れてからじゃな、それが出来てから、どんな武装を追加するのが良いか、考えておこう」
三機の改修作業と同じく、不死鳥に搭載していた、雹花や紫雲に対しても、改修作業を開始していた。
「雹花と紫雲に関しては、リバースグラビティ粒子を明星からも補給できるようにしておく、さらには、出力が上昇したので、外付けのエネルギー砲か、ミサイルを追加することが出来るぞ」
その為のセンサーと粒子貯蔵庫を改修した。
「いいか、お前らの小さなタンクじゃRG粒子はすぐに空になる。だから、空に浮いてる『明星』を巨大なバッテリーにするんじゃ。明星から粒子を指向性ビームで受け取れ。……名付けて『リバースグラビティワイヤレス・リンク』じゃ!」
岩蔵の説明に、慌てた凛は、
「なんですって? それじゃあ、雷電の由美さんが、戦闘中に全機の位置を把握して、ピンポイントで粒子を供給するポイントを割り出す必要があるってことですの!?」
さやかがタブレットの中で親指を立てて余裕のウインクをしながら、複数の機体をロックオンして粒子を注ぎ込む複雑なシミュレーション画面がモニターに流れた。
そんな画面を察した岩蔵は。
「へっ、あの雷電ならやってのけるさ。カイル、お前の『3秒の魔法』も、明星からの供給が繋がっている間なら『30秒』まで伸ばせるかもしれねえぞ。……ただし、お前の身体がもてば、の話だがな!」
と、にかっと笑った。
改修作業中に、不死鳥に乗艦していた民間人が、ハワイ基地の民間施設に移住することが決まり、整備兵の家族たちがそれぞれ割り振られた部屋に移っていった。
ハワイ基地に居た民間人たちも、本土の帰る場所を失ったため、同じようにハワイの民間施設に移住することとなった。
ここに、NEasdpの本拠地が完成した。




