第12話 太平洋の孤島、救難のシグナル
不死鳥は、そのまま南東へ進み、ハワイ諸島に近づいてきた。
「超光学映像出ます」
凛の声と共に、メインスクリーンが太平洋の青を映し出した。だが、その美しい海原の一部が、黒い染みのような影に覆われていた。
「あれは、Alog?」
立ち上る黒煙と、黒い染みが爆ぜるのと同時に時々起こる爆発の光、そして混乱した全方位に向けた混乱の声であった。
「我々は、EasdpA、ハワイ基地! 本部! 至急救援を! 至急救援を! もう、もちません! 本部! 救援を!」
アメリカ本土から来る、Alog中隊と交戦し続けているようだった。
杏は、スクリーンを見ながら、
「孤立無援の戦いを、ここでもやっているのね」
春花は、
「杏、介入するわよ! 凛、通信を!」
「了解」
コンソールを操作する事数秒。
「EasdpAの通信網、ぶんどりました」
EasdpAハワイ基地のスクリーンに、強制介入し、杏の映像が翻訳付きで映し出された。
「な、なんだ? 通信がジャックされている。この女性は誰だ?」
「ようやくEasdp本部から? いや、違う? 見たこともない紋章だ」
混乱しているハワイ基地をしり目に、
「こちらは、NEasdpです。救難信号をキャッチしました。我々は、同盟組織NEasdpとして、あなたたちを救援する準備がある。我々を受け入れてくれますか?」
杏の言葉に、基地司令は少し考え、
「わかった、あなた方を同盟組織として、受け入れよう」
そう言って、コンタクトを取って来た。
「承知したわ。後は、こちらに任せなさい」
杏の言葉を待ってから、
「これより不死鳥は、ハワイ基地の救援に向かいます。魁、頼むわね」
春花の号令と共に、不死鳥は速度を上げていった。
「特装砲は使えないわ。基地に被害が出てしまう。主砲と副砲をうまく使って、対応しなさい。また、ミサイルも、極力控えるように」
春花の指示に、
「基地に被害を出さない様にだと、少々手間なんだよな」
とぼやきながらも、コンソールに指示を入力し、最適解を導き出していった。
「Alogを殲滅します。坊や、作戦プランを示してくれる?」
「了解です」
いつも通りに、プランを提示し、
「このプランなら、被害を抑えられそうね」
そう言って、作戦プランを選び出した。
「このプランで行きます」
「総員、戦闘配備! 配置についてください。繰り返す、総員、戦闘配備!」
哲夫は、いつものように伊沢隊・伏見隊を発進させてから、飛び出した。
「作戦プランはこれだけど、何か嫌な予感がするのだよな。雷電、状況予測に、敵増援を追加してくれ」
そう言って、プランを昇華させていった。
「智則、和彦。ハワイ上空のAlogは両隊で殲滅可能か?」
「はい。不死鳥からの援護射撃があるのであれば、問題ありません」
「そうだな。こちらも、問題ないぞ、何かあるのか?」
二人の返事に、
「嫌な予感がするので、雷電は不死鳥の直掩にまわろうと思う」
「隊長の勘ですか?」
「歴戦のパイロットとしての勘なら、仕方が無いな」
「ブリッジ、聞こえているな。そんな訳で、2隊で殲滅に行かせる、援護射撃は任せるよ」
そう言って、雷電の高度を上げていった。
「この空は静かすぎる。由美、上空の索敵を厳に。頼む。」
「了解。不死鳥のレーダーとも、リンクしておきます」
そう言いながら、上空の索敵を厳しくしていった。
「行きますよ?」
智則の声に、
「突っ込むぜ!」
と、大輔と和彦が同時に答え、二機で突撃していった。
智則があっけに取られていると、
「お互い、苦労しているようですね」
と、美恵からの通信が入った。
「あ、あぁ。そのようですね」
と、茫然としていたが、
「隊長。援護射撃が来ますよ? この機に乗じないのですか?」
愛香の通信に、智則は我を取り戻し、
「大輔と、伏見隊長がこじ開けた穴を、さらに広げて、不死鳥の射線を中型まで通すぞ」
と、各員に指示を出して、Alogに向けて突撃していった。
大輔と和彦が機体の性能をフルに生かし、風になりながら小型Alogの編隊に突撃し、風穴を開け突き抜けると、突き抜けた二機を追うように小型Alogが編隊を崩し反転したところに、智則や恵美たちが突入し、
「そこです。全機敵を殲滅!」
智則、恵美の号令により、十字砲火が空を埋め尽くし、逃げ場を失った小型Alogたちが次々と黒い炭となって霧散していった。
「不死鳥からの援護射撃が来ます」
万里子、奈津子両名から、不死鳥からの通信を両隊にコースと共に伝えた
不死鳥からの射撃が、智則や恵美たちが広げた穴を通過し、その先を飛んでいる大輔、和彦の傍を、エネルギーの奔流が突き抜けていった。
小型の編隊に穴が開いたことにより、不死鳥からの主砲が中型Alogに命中し、撃破、あるいは弱点をさらけ出して熱を放出している所を、大輔と和彦が攻撃を加えていった。
そのころ、上空を旋回していた雷電では、
「なに、あれ?」
由美の言葉に、哲夫たちはその光景を見て、驚いていた。
「ブリッジ!! 左上空に新たな敵が出現! 明星をこちらへ! 特装砲の準備を!」
哲夫の切羽詰まった声に、
「雷電からの映像を出します!」
凛がブリッジのスクリーンにそれを映し出した。
「あの巨大な物体は何? まさか、巣?」
そう、大型のAlogの腹に巣が寄生したような姿で、大型についている巣には、大型の腹から血管のような不気味な管が出て巣を覆い、そこから無数の「卵」のような突起が脈動している。
そして、周囲には、中型、小型が大型を守る様に編隊飛行でこちらへやって来ていた。
「ああやって巣を移動させAlogを増やして、地球を侵略しているのか!」
凛がタブレットを操作しながら、
「日本に居た大型よりも、大きい個体ですね。超大型よりは小さいのですが。さらに、Alogが巣を移動させている所は、初めて観測されました」
それを聞いた杏は、
「そういえば、Alogが地球圏に来た当初は、地球に降り注いだ数匹の超大型が、分裂して増殖していったと仮定していたのに、まさか、巣があったとは、予想外だわ」
呆気にとられた春花が、
「とにかく、明星を発進! 不死鳥の進路を敵大型に向けなさい!」
そのころ哲夫は、ハワイ基地のAlogを殲滅し終えた伊沢隊・伏見隊に、
「両隊とも、状況は?」
「Alogの殲滅完了。こちらの損害は軽微、エネルギーが半分以下ですが、ミサイルは豊富です」
エネルギー砲が主体だったため、全機ともエネルギーの消費がかなり多かった。
哲夫は少し考えてから、
「一度不死鳥へ帰投し、大至急補給を! 補給が出来次第、こちらに加わってくれ」
と、補給を優先させていた。
「本当に良いの?」
雷電のコクピット内で、由美が不安そうに聞いてきた。
「途中でエネルギーが切れる方が厳しいからな」
「それに、私たちも、守られてばかりではありませんし」
亜理紗が覚悟を決めた顔をしていた。
「そうだったわね。結城隊長。明星を救い出した時の様な高速戦闘をしても、私たちは大丈夫よ。あれから、高速戦闘時にかかる重力に対応するために、日々訓練していたのだから」
と、由美に言われた。
確かに、明星を救援したときのハイスピードからの、エネルギー砲直撃の急制動により亜理紗は重力に耐え切れず、肋骨にひびが入る怪我を負っていたのであった。
本人は初陣で極度の緊張のため、戦闘終了まで気が付かなかったのだが、戦闘終了後に、慶子から動きがおかしいことを指摘され、発覚したのであった。
由美の方も、危うく意識を手放すところで、改めて雷電の操縦に恐怖を覚えていた。
それ以来、哲夫は無意識に雷電の速度を抑えるような戦いを、行うようになっていたのであった。
そんな哲夫の負担を減らすため、二人は高重力に耐える訓練を行うようになっていたのであった。
哲夫は不安ではあったが、二人を信頼することにした。
「了解した。雷電、作戦プランを!」
哲夫は、雷電が提示したプランの中から、一つのプランを選び出した。
それを見た由美が、
「そ、そんなことが可能なの?」
そのプランには、明星を戦術リンクで動かすと言う物であった。
同じようにそのプランを見た亜理紗は、
「明星クラスを捕まえなくて良いなら、かなりの数を制御することが出来る」
そう、そのプランは、不死鳥と雷電から多数のミサイルを絶え間なく放ち。小型と中型を撃破、翻弄し、大型の動きを固定し、大型のエネルギー砲を明星方向へ撃たせた状態で、不死鳥の特装砲で大型を撃ち抜く作戦であった。
不死鳥から援護射撃と共に、大量のミサイルが追い抜いていった。さらにその後方からは、明星がこちらにやって来ていた。
「由美、戦術リンクだ!」
今までにない膨大な思念波を使い、なんとか明星をキャッチしていた。
(亜理紗ちゃんは、こんな質量を制御していたの?)
眉をひそめながら、明星を制御していった。
「兄さん! 接近して!」
由美からのフィードバックを活かし、雷電のバックアップを受けて亜理紗が次々とミサイルを奪ってはぶつけ奪ってはぶつけと、一度に操るミサイルは多くはないが、連続で操ることにより、多くのAlogを爆散させていった。
哲夫が雷電を動かすと、今まで以上の重力がコクピットを襲う。
「くっ」
二人は歯を食いしばりながら、思念波で援護を続けていた。
哲夫の方も、
「一つ、また一つ!」
と、すれ違いざまに次々とAlogを切り裂いていっていた。
中型から来るエネルギー砲を、緊急回避するたびに、視界がブラックアウトしそうなほどの重力が、二人の体に牙を剥く。だが、前回のようにはさせない。
「まだよ! 落ちなさい!」
捕まえたミサイルを、どんどんぶつけていった。
「大隊長、お待たせしました」
小型Alogをあらかた片付けて、後は中型と大型というときに、補給を終えた伊沢隊・伏見隊が合流した。
「間・・・・か! 智・・・彦、中型・・・・か?」
哲夫の途切れ途切れの通信の声に、
「了解!」
伊沢隊・伏見隊が中型という単語を聞いて、中型機に突撃していった。
Alogを倒した宙域には、Alogの体液が浮遊していて、その中にリバースグラビティ粒子や、その他謎の粒子が含まれている。さやかは、リバースグラビティ粒子がこちらのエネルギーとしても使えると精製・圧縮に成功し、それをEasdpJが兵器に転用したのであった。
そのAlogの体液が高濃度で散布されていると、通常回線では通信が途切れ途切れもしくは、通じなくなるので、思念波による戦術リンクが、確立されたのであった。
(どうやら、ちゃんと通じたようだな)
哲夫は安堵していた。
その横では、
(私が、もっと思念波を操れていたら)
と、由美が悔しがっていた。
大型への道が開いた雷電が、大型へ肉薄していく。
「くらいやがれ!」
哲夫が雷電の内蔵エネルギー砲を大型に向けて発射した。
大型は、お腹を守る様にゆっくりと動き、エネルギー砲を弾き飛ばすのと同時に、顔をこちらに向けてエネルギー砲を発射する体制を取っていた。
「由美、明星を雷電に前に出すぞ!」
「了解!」
哲夫は、雷電のリバースグラビティシールドを展開しながら、防御態勢を取っていった。
「来ます!」
由美の警告と同時に大型からエネルギー砲が発射された。
由美は、雷電が表示する角度になる様に、明星を動かしていた。
(くっ。やはり、重い)
それを見ていた亜理紗が、
「私が、引き継ぎます」
そう言って、思念波を上書きし、明星をコントロールしていった。
大型からのエネルギー砲は、明星に弾かれ、地球の外に飛び出していった。
(やはり、こういう思念波は、亜理紗ちゃんの方が、優秀ね)
由美は、亜理紗の思念波を認めていた。
「いまだ! 姉さん!」
「特装砲! 撃て!」
哲夫の叫びと共に、不死鳥からの特装砲が、大型を捉えていた。
流石の大型でも、不死鳥の特装砲には耐えきれず、お腹に抱えていた巣ごと、爆散していた。
その光景を見ていたハワイ基地の兵士たちは、
「あれは、神の一撃なのか?」
と、不死鳥の威力を目の当たりにし、恐怖し、味方であることに、安堵していた。
不死鳥の巨大な影が、煙の上がるハワイ基地の港を覆った。
完全に沈黙した「移動する巣」の残骸が海へ沈んでいく中、ハワイ基地の司令官、アーサー・ミラー准将は、タラップから降りてくる一団を、複雑な表情で見つめていた。
「……信じられん。日本支部は壊滅したと聞いていたが、あんな『化け物』を隠し持っていたのか」
ミラー准将の前に立ったのは、まだ少女の面影を残す杏だった。




