49話 決断
俺は学校中を探し回り、流川さんが居そうな場所にはほとんど行ったけど、それでも彼女の姿は見当たらなかった。
そこで今日彼女が空き教室に来ないのは何かしら理由があるのだと悟った。
何としてでも見つけ出さないと……もうこれ以上彼女に無理をさせない為にも。
そう思った矢先、学校のどこからか聞き覚えのある綺麗な歌声が聞こえてくる。
透き通ったその歌声は、紛れもなく一度俺のことを虜にした彼女によるものだ。
学校全体に響いていた流川さんの声は、居場所を知る材料としてはもってこいだった。
その場所とは、校舎の最上階――屋上である。
気づいた瞬間に俺は屋上までの階段を駆け上がる。
目的地に近づくほど、声との距離も徐々に近づいていく。だというのに、なぜだか声量は小さくなっていく一方。
流川さんの歌声は、俺が屋上に到着した時にはもう学校全体には聞こえない声量にまで小さくなっていた。否、既に俺以外の人には聞こえない声量だった。
その原因は屋上の扉を開けると明らかになる。
「流川さっ——」
扉を開けると共に差し込んできた光が視界を覆い、まるでステージの幕開けかのように彼女の姿が視界を塗り替える。
そこには目に涙を浮かべる流川さんの姿があった。
無神経にも泣いている彼女の姿は美しいと思ってしまう。
今の場面をアイドル用語で例えるなる卒業ライブのようだった。
瞬間に儚い笑みを浮かべる流川さんの顔が視界に飛び込んできて、その考えが間違っていることに気がつく。
違う。これは卒業なんかではなく、
「ごめん、小林。私やっぱりアイドル辞めたくないみたい」
復活ライブだった。
◇◇◇
少し涼しくなり始めた風が俺たち二人の呼吸の速度を同じにさせる。
「せっかく小林と両思いになれたのに……好きな人と繋がれて嬉しいはずなのに……とうしてもこの数ヶ月間、素直に楽しめなかった」
その呼吸は、彼女が喋ったことにより一瞬でズレが生じる。
「ずっとずっとこんな感情を抱いて小林に申し訳なさを感じてた。私はこのままでいいのかなって……小林に失礼なんじゃないかって……でもっ――」
今にも泣き出しそうな流川さんの声が俺の心に決断という焼きを入れる。
俺は意を決して目の前の彼女に想いを伝える。
「流川さん。もう俺たち――」
もうこれ以上彼女を悲しめないためにも……
「会うのは辞めよう」
空気を読んだなんて思われたくなかった。もしもそう思われたら彼女は絶対に別れようとはしないから……。
流川さんは前々から自分よりも俺の気持ちを優先する節があった。
だから……今は、今だけは自分の気持ちを優先してほしい。
憂いに満ちた彼女の瞳は全てを察しているようだった。
「ごめんね、小林。私やっぱりアイドルが好きみたい……メンバーの皆もファンの皆も……やっぱりアイドル辞めたくない」
それはつまり彼女がこの数ヶ月間、俺のためにアイドルを辞めるか否かを考えていた。一人でずっと悩みに悩んでいたということを意味していた。
「小林が好きなのも事実……だけど、どっちもなんて贅沢すぎるよね。どっちかは手放さないとだよね」
「――大丈夫。俺はずっと待ってるから」
気がつけばそんな言葉が口から漏れ出ていた。
「いつまでも君を待ち続けるから……だから存分にアイドルしてきて」
「ごめん、ありがとう。小林」
微笑む彼女の顔を一瞬だけひとり占めしたいと思ってしまった。
だけどそれが叶わないのは俺が一番分かっている。
これでいい。きっとこれで良かったんだ。
そうして俺たちは最後の逢瀬を屋上で過ごした。




