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クラスのアイドルは俺にだけ嘘をつく  作者: 砂糖流


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46話 再会

 推しから家に誘われた。


 そんなの推しとファンの範疇を超えた完全なるプライベートだった。


 確かに今までも彼女と様々な所に行くことはあったけど、推しの家は……何だかラインを大幅に超えているような気がした。


 それでも俺は気がつけば、教えられた住所へと足を進めていた。


 それはきっと、俺の中で揺るぎない覚悟があったからだろう。


 俺が君のファンだということ……君に恋をしてしまったということ……。


 これまで彼女についてきた数々の()を言う覚悟が、アイドルと推しの境界線を越えようとしていた。


 大丈夫。ただ伝えるだけだ。それが終わったら俺はもう——


 そうこうしているうちに目的地のすぐそばまで来ていた。


 残り数分で推しの家に着く道は何の変哲もない普通の道なはずなのに、今の俺からすれば異様なまでに特別感があった。


 手がいつもより少し冷たく感じて、胸の高鳴りが収まってくれない。


 例えるなら面接前の道中のような緊張感があった。


 それも気がつけば終わりへと近づいていた。


 スマホには『目的地に到着しました』の文字が映し出されていて、流川さんの家に着いたことを表していた。


 とうとう着いてしまった。推しの家に……。


 おそるおそる表を上げて、現在推しが住んでいる家を確認する。


 目の前にはどこか見覚えがあるような、だけどどうしても思い出せない、あまり思い出したくない一軒家が立っていた。


 少しの違和感を抱きながらインターホンに手を伸ばしたところで、その違和感の正体が明らかになる。


 ——渡辺。


 その家の表札に『流川』という文字はなく、代わりにその姓が記載されていた。


「もしかして住所間違えた?」


 そんな俺の疑問は、開かれた扉から出てくる彼女によって解決することとなった。


「いや、合ってるよ」


「流川さ――」


 俺は彼女の名前を呼び切る前で言葉を止める。


 なぜだが妙な胸騒ぎがしたから。


 何かを悟ったような表情をする彼女は、いつもの自然な笑みではなく、あの懐かしい笑みを浮かべながらこう言った。


「久しぶりだね。小林()()


 ◇◇◇


 中学の頃、仲良くしていた女の子――渡辺彩花。


 学校で一番初めに「おはよう」と言って、一番最後に「さよなら」を言う、大切な存在だった。


 そんな彼女に俺は期待をして告白してしまった。


『俺と付き合ってくださいっ!』


『ごめんなさい――私ね。アイドルになりたいんだよね』


 地獄が始まったのはそれからだった。


 彼女に告白を断られてから裏でいじめられるようになり、次第に渡辺さんと関わることも少なくなっていき、最終的に渡辺さんとはお別れすら言えずに俺は転校することになった。


 せっかく消えかかっていた記憶がまた呼び起こされる。


 その理由は紛れもない、目の前の彼女が要因だった。


 なぜか過去に仲良かった渡辺さんの顔と目の前の流川さんの顔が重なって見えた。


 それにさっきの言葉――もしかして彼女は、


「渡辺さん……君なの?」


「正解」


 彼女は間髪入れずに答えてくれた。


 その瞬間、流川さんの顔が完全に過去の渡辺さんと合致する。


 彼女は正真正銘、俺が過去に好きになった人だった。


 それも彼女はどうやら最初から俺だと気づいていたようだ。


 どうやら俺は過去にあんなことがあったのに、また懲りずに同じ人を好きになってしまったらしい。


 どこまでも愚かで反省しない馬鹿者だとつくづく思い知る。


 また自分が傷つくかもしれないのに……。


 もしかして……俺はまた中学の時みたいに陥れられるのか……? これはその前座なんじゃないのか?


 過去の嫌な記憶たちが心の中で芽を出して、どんどん膨れ上がっていく。


 確かに考えてみれば、彼女との関係性は整合性がまるでない。


 どうして彼女は俺とつるむようになったのか……どうして俺なんかと一緒にいてくれるのか……。


 一度告白を断った相手にここまで尽くすのも意味が分からない。


 やっぱり、俺はまた……同じ過ちを繰り返すんだ。


「ごめん。流川さん。今日はっ――」


 俯きがちに、震えた声で発した瞬間だった。


 過去に一度感じた温もりが俺を包み込む。


 好きな香りと心地よい温かさが、俺の心を落ち着かせてくれる。


 そこで俺はようやく気がついた。


 分かってたろ……流川さんがそんなことをするわけがないって。


 トラウマから目覚めさせてくれたのは誰だ。夏祭りでいじめっ子から助けてくれたのは誰だ――全部……全部……流川さんだ。


 中学の頃から何も変わっていない優しい彼女だ。


 やっぱり自分の心には()をつけなかった。


 俺はアイドルとしての彼女ではなく、流川青澄――彼女自身が好きだ。


「流川さん」


 俺から離れる彼女の肩が一瞬震える。


「…………」


 それでも何も言わないのは、彼女も覚悟を決めているからだろう。


「流川さん――流川青澄さん。俺は君が好きです」

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