43話 君のファン
とあるアカウントのプロフ画面を見せてくる流川さんの顔が今では物凄い恐ろしく感じた。
自分のスマホを開けば今すぐにでもその事実を証明できてしまうことが後ろめたさを更に増幅させる。
でも、どうしてバレた? どうやって見つけた? フォロワーは二桁で名前も本名とはかけ離れている。
ツイートがバズったことはないし、そもそもまともにツイートをしたことすらない。精々ルミナスのツイートをリツイートするくらいだけど、無論そんなことでバレるとは考えにくい。
だったら一体なぜ……あっ。
その疑問は流川さんのスマホ画面に更に表示される文字が答えを示してくれた。
【おすすめユーザー】
そこには連絡先共有されているルミナスのメンバー、そして俺のアカウントが映し出されていた。
つまり流川さんはLINEを通じてこのアカウントに行き着いたということだ。
完全に不覚だった。
今まで気にしたことのなかった連絡先共有がここに来て牙を剥くことになるとは想像だにしていなかった。
もう隠し通すのは不可能なのかもしれない。
「どうして俺だと思ったの?」
それでも最後の抵抗だと言わんばかりに探りを入れてみる。
「だって他にLINE交換してる人で思い当たる人なんていないし……」
言われてみればそうだった。アイドルのプライベートの連絡先に男がいたらそれはそれでおかしなことだ。
でもそれじゃあどうして俺と連絡先を交換しているのか……何だか考えれば考えるほど分からなくなっていく。
もしもこれが『恋』という一文字で片付けられるのならどれだけ簡単な問題なのだろう。
でも勘違いしてはいけない。彼女はアイドル。俺はそのファン。
昔みたいに勘違いして浮かれてまたあんなことになったら……今回は学校の身内だけでは済まされない。
ルミナスのファンが……世の中の全ての人が牙を剝くことになる。そしてそれは、流川さんも例外じゃない。
それなら俺が今やることは、
「今まで隠しててごめん。実は俺……流川さんの言う通り、ルミナスの……流川青澄の――」
もう白状しようと思った。これまでの嘘を全て吐き出そうと思った。そして、最後に盛大に謝ろうと思った。
もうこれ以上、自分が勘違いしてしまわないように。
「私たちのライブを見てファンになっちゃったんでしょ?」
「えっ?」
流川さんが俺の言葉を遮って、まるで全て見透かしているかのように言い放った。
だけどそれは全くもって見当違いだった。
「結構前に紫乃からライブのチケット貰ってたよね? あの時からルミナスのファンになったんでしょ?」
流川さんの確信を持った言い方で本当にそうなんじゃないかと自分を疑いそうになる。が、そんなことは全くの無根。
流川さんはまるでまだこの関係性を終わらせまいとしているかのようだった。
「うん。そ、そうなんだよね」
「やっぱそうだったんだ」
「うん……」
自分に言い聞かせるように呟く。
まだ秘密がバレずに関係を続けられると思うと、否定することはできなかった。
こんな状況に安堵してしまう自分に嫌気がさす。無意識に肯定していた自分を呪いたくなる。
俺はまた嘘をついた。こんなの逃避に過ぎない。
俺は本当にこのままでいいのか? ずっと嘘をつき続けるのか?
そんなの嫌だ。
「俺はっ」
最後の勇気を振り絞った。
「ずっと前からあすみんのことが好きでしっ――」
またしてもだった。
またしても俺の口は彼女の手によって遮られてしまった。
口を塞がれてしまった俺に為す術はなかった。
だけど後悔もなかった。初めて自分の本当の気持ちを彼女に打ち明けることができたから。
まるで照れたような表情をした流川さんは、そのまま顔を下に向けながら息を切らす。
「今はダメっ。まだ待って。まだもうちょっとだけっ……」
初めはなんのことを言ってるのかさっぱりだった。
だけどそれは、手をこちらへと伸ばす流川さんの背後を見れば原因は明らかだった。
そこには腰まで伸ばされた紫髪の女の子、如月さんが立っていた。




