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クラスのアイドルは俺にだけ嘘をつく  作者: 砂糖流


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40話 ナンパ

 買い物を終え、赤音さんと共に拠点へ戻ると、流川さんたちは既にレジャーシートで休憩を取っていた。


 赤音さんが遊び疲れたであろう座っている三人に買ってきた飲食物を与える。


「はいこれ。みんなの分」


 三人が「ありがとう」とお礼しながら受け取った後、流川さんが訊いた。


「一人で行ったの?」


 おそらく念の為の確認だろう。


 赤音さんと俺は一緒に帰ってきたのだから、彼女たちからすれば二人で行ったのなんて周知の事実。


 なのに、なぜそんなことを聞いたのか……。


「いや、小林くんについてきてもらった」


「っそ」


 あくまでクールに返す流川さんの目は据わっていた。


 質問の意図を聞きたかったけど、皆の前で普通に話しかけるのも良くないと思い、俺は目を逸らすように辺りを見渡す。


 そこでそういえば、と思い出す。


 手に持っていた飲み物を渡すため如月さんを探すが、その姿は目に映る限りどこにもいない。


 右手に飲み物、左手にかき氷を持ちながら手持ち無沙汰になっていると、流川さんと目が合う。


 一瞬誰かに如月さんの居場所を聞こうか迷うが、なぜかそれだけはダメな気がした。


 なんだろう。流川さんからとんでもない視線を向けられるような気がしてならない。


 やむを得ず一人で探しに行くことに決める。が、彼女の声が振り向く俺の足を止めた。


「小林()()。どこか行くんですか?」


 聞き慣れない流川さんの敬語が、俺の背中を震わせる。


「ちょっとトイレに」


「そ。いってらっしゃい」


「いって、きます」


 言い淀みながらもようやくその場から離れることが叶う。


 やむを得ないとはいえ、また嘘をついてしまった。


 最近流川さんに嘘をつく頻度が増えた気がする。流川さんがそれに気づいているのかは今の俺には知る由もない。


 とにかく如月さんだった。もしかすると彼女もお手洗いの可能性があるけど……。


 その可能性は一瞬にして霧散することとなる。


 歩いて数分――俺の瞳には水着だというのに露出が少なめで、軽い変装を施した如月さんの姿が映っていた。


 彼女は見知らぬ男性と話していて、それはどこからどう見てもナンパだった。


 あからさまな二人の男性に囲まれている如月さんは、先程の俺のように手持ち無沙汰になっていて、為す術がないといった様子だ。


 いつもの彼女なら躊躇なく拒絶すると思うのだが、なぜだか今の彼女は身動き一つ取らない。


 正体がバレることを恐れているのか、はたまたナンパではないのか、それとも……


 とにもかくにも見つけたからには助けない理由はなかった。はずなのに、俺は自らブレーキをかけた。


 彼女のある言葉が頭で反響する。


『これ以上私に優しくしないで』


 それ即ち、余計なお世話はいらないということ。


 もしかすると今のこれはその優しさという行為に当たるのではないだろうか。


 もしそうなら一刻も早く四人を呼んできた方が……って、いやいや、他の四人を自ら危険に晒してどうする。思い出せ。今日の俺の役目は彼女たちの護衛をすることだ。


 なのに……俺は一体何を考えているんだ。


 ふと思った。こんなことで葛藤してるくらいなら俺はやっぱり優しい人間なんかじゃない。


 俺はただ、昔の自分と如月さんを重ねて見ているだけだ。だから同情して余計な世話を焼いてしまう。


 誰も助けてくれず、全員が見て見ぬふりをしていたあの一人ぼっちの過去。


 俺は見て見ぬふりをしていた人たちと同じにはなりたくないと思ったのだろう。


 気がつけばブレーキをかけていた足は迷いなく佇んでいる彼女の方へと歩みを進めていた。


「いいじゃん。俺たちといいことしようよ〜。あっ、いいことって言ってもただ遊ぶだけね?」


 案の定といったところか、ナンパされている如月さんは淡々と返す。


「何度も言ってますけど、友達と来てるので」


 正体がバレないためか、いつもよりワントーン高い如月さんの声はそれでも美しい音色を奏でていた。


「え〜、ちょっとだけ。ちょっとだけだから」


「だからっ――」


 もう見ていられなかった。


 後先考えもせずに俺は間に入って彼女の手を掴んだ。


「なんだよお前っ!?」


「小林くん!?」


「すみません。これから彼女とは予定があるので失礼します」


 それだけ言って、その場から颯爽と立ち去ろうとするが、一筋縄ではいかないようだ。


 如月さんの手を掴む俺の腕を男の人が強く握り、この場から逃がすまいと言い放った。


「ちょっと待てよ」


 そうしてもう一人の男性がこう訊いてきた。


「二人は付き合ってるのか?」


 それは口にするだけでも恐れ多い内容だった。


 俺がアイドルの紫乃ちゃんと付き合ってるだなんて……。


 それでもなぜか自然と言葉が出た。


「はい。彼女は俺のものなので」


 そんな歯が浮くようなセリフはどうやら効果抜群だったようで、彼はいとも簡単に掴んでいた手を離してくれた。


 そのまま俺は如月さんの顔を確認することもできずにただ彼女の手を引いた。

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