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クラスのアイドルは俺にだけ嘘をつく  作者: 砂糖流


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39話 優しい人

 真夏の熱を持った砂浜をビーチサンダルで踏みつける。


 それでも貫通してきそうな程に熱された砂は、今すぐにでもサンダルを溶かす勢いだった。


「暑いねー」


 その暑さを共有してくる赤音さんは片手に財布を持ちながら俺の隣を歩いていた。


「暑いですね」


 身バレ防止の変装で帽子をかぶっている赤音さんは、おそらく俺の数倍以上は暑いだろう。


「かき氷あるかな?」


「さすがにあると思います」


 否。あると思いたい。


「…………」


 数百メートル先に見える海の家へ向かう俺たちの間に沈黙が生まれる。


 そもそもどうして赤音さんと二人っきりで海の家に行くことになったのかは、今から数分前に遡る。



 レジャーシートで皆が休憩していると、赤音さんがふと呟く。


『ここって海の家あるかな?』


 それには流川さんが反応を示した。


『海の家ならここ来る前に見かけたけど。確か、あっちの方歩いていけばあると思う。私なんか買ってこようか?』


 流川さんの言葉に『いや』と否定したのはまだ遊ぶ気満々な萌黄ちゃんだった。


『青澄はそろそろ私たちと遊ばないと』


『それ、萌黄がただ遊びたいだけでしょ?』


『そ、そんなことないよー? ほら、ここみんも青澄と遊びたがってるし』


 『ね?』と圧をかける萌黄ちゃんに対し、心緑ちゃんは平然と答えてみせた。


『私は別にどっちでもいいけど〜』


 いつも通りの反応に焦った萌黄ちゃんは急いで二人の手を引いて海辺へ駆けていく。


 そして残される三人――近くのフェンスに体重を預けている如月さん。財布を取り出そうとする赤音さん。


 そんな中、座っていた俺はその場から立ち上がり声を上げた。


『俺、なんか買ってきますよ』


『私もついていく』


 財布を手に持った赤音さんは焦った様子でこちらに駆け寄ってくる。


『言ったら俺買ってきますけど……?』


『いや、みんなの分も買いたいからさ。ほら、五人分も買ったら持ってくるの大変でしょ?』


 最もな意見だった。



 そうして俺たちは如月さんを残して、二人で海の家へ行くことになった。


 如月さんは何もいらないらしいので、買うのは俺含め五人分の食べ物。


 如月さんは何もいらないって言ってたけど飲み物ぐらいは買っておいた方がいいだろうか?


 考えに耽っていると、突然隣にいる赤音さんが足を止める。そして、彼女はそのまま俺に向かって頭を下げた。


「改めて謝らせてください。せっかく私のことを信じてくれたのに結局最後までやり遂げられなかったし、皆の前で頭を下げさせた。巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」


 突然の謝罪に一瞬戸惑うが、それよりも先に理解する。


 そういうことか……赤音さんは俺に再度謝りたくてこうして二人っきりになったのだ。


 当然危険な選択をした俺が悪いのに、こうして律儀に謝ってくる彼女を優しい人だと思った。


「頭を上げてください。赤音さん」


 俺が告げると、彼女は恐る恐る顔を上げて上目遣いでこちらを見上げる。


 その視線はルミナスのファンなら誰しもがイチコロにされるものだったが、今の真剣な状況だから理性を保つことができた。


「今回、あの場面で受け入れた時点で俺も共犯です。なんでもう謝らないでください」


 こういう場面であまり笑うのは良くないかもしれないが、空気を和ませるためか自然と笑みがこぼれた。


 赤音さんは優しい人だからまだ自分を責めているかもしれない。それだったら笑顔で正直な気持ちを伝えた方が彼女にとっても安心できるだろう。


「…………」


 そう思っていたのだけど、すっかり上目遣いをやめてしまった赤音さんは今となっては俯いて完全に無言を貫いていた。


 もしかして気に障ることを言ってしまっただろうか?


 少し息遣いが荒くなる赤音さんに『まさかまだ熱が治ってないのか?』と心配するが、次の彼女の動作でそれは杞憂に終わる。


 突然顔を上げて、今回は上目遣いではなく対等な目線になった彼女の表情はどこか穏やかで吹っ切れてような笑みを浮かべていた。


「本当に君はっ」


 先程までのしおらしい雰囲気が今では打って変わって、満面な笑みを浮かべる彼女は軽やかな足取りで歩き出した。


 そのまま俺たちは雑談しながら海の家まで行き、五人分の飲食物と、念の為に如月さんのドリンクを買って、また熱々な地面を踏みしめた。

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