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クラスのアイドルは俺にだけ嘘をつく  作者: 砂糖流


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38/42

38話 正体

 長い長い全国ライブツアーが終わり、残り短い夏休みを満喫することにした。


 流川さんと海へ行く約束していた当日になったのだが……なぜこうなった?


 目前に大海原が映る俺の周辺には、五人の女の子たちの声が溢れ返っていた。


 そう。流川さんと二人っきりで来たのではなく、夏祭りの時同様にまたしても大人数で遊びに来ることになっていた。


 メンバーは言わずもがな、ルミナスの五人である。そこに場違いな男が一名加わる。


 言わば、打ち上げみたいなものだった。


 経緯としては、仕事用で使っているグループLINEで初めは五人だけで行くことになっていたのだが、原田さんから様子を見るため付き添いをお願いされた。


 相変わらず俺に対する扱いが雑だけど、確かに五人だけで海へ行かすのは……どう考えてもナンパされないわけがない。


 つまり今日の俺の仕事はマネージャー兼アイドルの護衛。


 無論、給料は発生しない。が、流川さんの水着姿が見られるのなら爆アド……なんて思ったり思わなかったり。


 少しの罪悪感に苛まれながら、海辺で百合漫画を繰り広げる四人を眺める。


 如月さん、赤音さん、萌黄ちゃん、心緑ちゃん。


 そして最後の一人は、


「お疲れ、小林」


 水着に身を包む流川さんは、レジャーシートに座る俺の隣にその綺麗な肌を置く。


「流川さんは行かないの?」


 海辺にいる四人を眺めながら言う。


「……私はいい」


 生じた少しの沈黙に疑問を抱きながら隣に目をやると、少々距離が近い流川さんと目が合う。


 周囲にバレないため念の為につけられた流川さんのメガネに反射して映る自分は心底不思議な面持ちをしていた。


 それの理由は自分が一番よく分かっていた。


「流川さん――LINEの『ファン』って、あれどういう意味?」


 あくまで自分がファンだという事実は隠す。


 正直訊く前からなんて言われるのかなんて予想がついていた。


 上手くはぐらかされるか、からかわれるかのどっちがだと思っていたのだが、妙に真剣なメガネの奥にある流川さんの瞳を見ていると到底誤魔化される気はしなかった。


「実は私さ……」


 流川さんが何か言おうとした瞬間だった。


「青澄、来ないのー?」


 海辺方面から聞こえてくる萌黄ちゃんの声が会話を遮る。


「今はいいー」


 声を張り上げる流川さんの美声は、もしかしたら周りに彼女の正体がバレてしまうのではないかと危惧するほどだった。


 だが当然、こんな所にルミナスがいるなんて想像だにしない通行人は滞りなく過ぎ去っていく。


「今日はごめんね。本当は二人で来るつもりだったのに」


 突然の謝罪に先程の質問はなかったことになってしまうが、気にせず俺は返す。


「大丈夫。これはこれで楽しいし」


「ふ〜ん」


 なんだか意味深な『ふ〜ん』だな……。


「まぁ、確かにさっきからずっと四人のことをいやらしい目で見てるしね」


 そう思った矢先とんでもないことを口にする流川さん。


「確かに眺めてはいるけど、いやらしい目はしてない。断言する」


 四人を眺めていたのは、目のやり場に困っていただけだ。


「私の方は見ないくせに?」


 だからそんなことを言われても何も言い返せないわけで……なんなら流川さんを見ないために彼女たちを眺めていたわけで……。


 だけどそれをそのまま口にするのは、あまりにも気恥ずかしかった。


「見てもいいよ」


 そう聞こえてきた瞬間、目線が下がりそうになるがギリギリ堪える。


「ってか、もっと見て」


 薄ら聞こえる「何のために水着買ったと思ってるの……」という言葉で完全に視線を下げて感想を述べる。


「凄く可愛いと、思います」


「なんで敬語なのっ」


 笑いながら言う流川さんの声で、自分が推しの衣装に感想を述べている感覚に陥っていることに気がつく。


「ごめん。思わず……」


 あくまで理由は言わないけど、なぜだか彼女には全て見透かされているように感じた。


「…………」


 まるで徐々に流川さんの()()の正体に迫っていくようだった。

 

 そう。俺の知らない流川さんの本性。


 今更ながら俺は流川さんのことを全く知らないな、と感じる。アイドル姿の彼女は知っているけど過去は知らない。


 どのような経緯でどのような動機でアイドルを始めたのかも、俺は知らない。


 隣で嬉しそうに海辺の四人を見守る流川さんは、謎に包まれていて何を考えているのか今の俺には想像だにしなかった。

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