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クラスのアイドルは俺にだけ嘘をつく  作者: 砂糖流


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37話 ファンとアイドルの距離感

 俺の姿に真っ先に反応を示したのはベッドで上半身だけ起こしている赤音さんだった。


 申し訳なさそうにしている赤音さんは今すぐにでも謝ってきそうだった。


 だから俺はその前に頭を下げて先手を打ってやった。


「誠に申し訳ありませんでした!」


 視界には真っ白な床しか映っていないせいで、彼女たちの表情は視認できなかったものの、無言だということはちゃんと流川さんが説明してくれたことを意味していた。


「全て俺の責任です。流川さんから聞いた通り、俺は赤音さんの体調不良を知っていてなお、皆さんにそれを話しませんでした。言うタイミングはいつでもあったのに言いませんでした」


 『なんで言わなかったの?』そう訊かれると身構えていたが、今の彼女たちがそんなことを言うはずもなかった。


 到底誰かを責めるような雰囲気ではなかったからだ。それでも俺は何かしらの報いを受けるべきだと思った。


「何らかの処分を受ける覚悟はできています」


 俺は未来あるアイドルにそれだけのことをしたのだから当然だろう。


 なんだって覚悟はできている。


「いや、その必要はいらないよ」


 決意表明をしたところで、ある男性の声が後方から聞こえてくる。原田さんの声だった。


「メンバーの体調不良に気づけなかった私たちにも責任はあるからね。むしろありがとう。赤音さんを信じてくれて」


 なぜか許されるどころか感謝される始末だった。


 俺の判断ミスのせいで赤音さんは危険を犯したわけで……俺はもっと責められないといけないはずなのに……この場で誰一人として俺を責めるような目では見ていなかった。


 もしここが中学の教室なら違っていただろう。きっと誰もが俺を責め立てていた。


『お前が悪い』『今すぐ謝れ』『二度と学校に来るな』


 だけど今は、


「君は何も悪くない」


 優しい赤音さんの一言に救われる。


「原田さんの言った通り、私を信じてくれてありがとう。他のマネージャーさんだったらきっと安全第一で話してると思うから」


 話さないのが正解だとも思わないけど、俺があの場面で誰かに伝えるのは不可能だったと思う。


「それはそれでどうなの?」


 ボソッと呟く萌黄ちゃんの声が病室内に響く。


 空気が悪くなることはなく、日常といった様子で流川さんが呆れ気味に言った。


「萌黄……ちょっとは空気読もうね」


「何それ。まるで萌黄が空気読めない奴みたいじゃん」


「大丈夫。その認識で間違いないから」


 その一言で荒ぶる萌黄ちゃんを隣にいる心緑ちゃんが宥める。


 これも何気ないいつもの光景なはずなのに、なぜだか俺には前よりも固い絆で結ばれているように見えた。


 ファンとして遠目から彼女たちのことを眺めていると、いつの間にか隣まで来ていた原田さんがある提案をしてくる。


「それでなんだけど、小林くん。これからもうちで働く気はないかな?」


 それは驚くべき内容だった。


「君がいればメンバーの皆も安心すると思うから。他のバイトと比べて給料も良いし悪くない話だと思うんだけど」


 確かに原田さんの言う通り、給料は良いしそれにやりがいもある。断る理由なんてないだろう。


 それでも俺は……


「お気持ちは嬉しいのですが、お断りさせていただきます。赤音さんはあのように言ってましたけど、今回の件全面的に見てもやっぱり自分にも非がありますので……」


 アイドルの彼女たちを危険に晒す俺がマネージャーなんかになってはいけない。それに少なくとも俺はルミナスのファン。


 ファンとアイドルは一定数の距離感が保てなければその関係は破綻する。


「だからすみませんが断らさせていただきます」


「うーん。少し真面目な気もするけど分かったよ。一応名刺渡しておくから、また気持ちが変わったらここに書いてる番号に連絡して」


 原田さんから名刺を受け取り、俺は病室を後にした。


 五人の空間に水を差したくなかったからだ。


 ◇◇◇


 その後、ホテルの部屋で一人荷造りをしていると、静かすぎる部屋に通知音が鳴った。


『原田さんからの誘い断ったんだって?』


 相手は流川さんからだった。


『うん』

『聞いたの?』


『うん』

『聴いてた』


 それだと意味が変わってくる気がするけと。


『それで、なんで断ったの?』


『聴いてたんでしょ?』

『今回の件は俺にも非がある』


『嘘』

『ファンとの距離感を考えた結果だよね』

『それに前も言ったけど自分を責めすぎないこと』

『分かった?』


『分かった、けど』


 え? ファン?


『よし。それじゃあ残りの夏休みは存分に遊ぼっか』


『いやいや、え?』


『せっかく全てのライブが終わったんだよ?』

『遊ばないとやってらんないでしょ』


『確かにそれはそうかもしれないけど』


『じゃあ決まりね。帰ったら早速海行こ』


 今の流川さんには何を言ってもはぐらかされる気がした。


 それでも俺の中からその疑問が消えてくれることはなかった。


 流川さんはどうして俺がファンだということを知っているんだ。

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