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【書籍化&コミカライズ】神獣連れの契約妃~加護を疑われ婚約破棄されたので、帝国皇子の右腕に再就職しました【角川ビーンズ文庫】  作者: 潮海璃月/神楽圭
第二章

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43.血筋と矜持

 ああ、なんて馬鹿馬鹿しい。ヴィオラ様はそう言いたげに、軽く髪を払い、腕を組んだ。


「執政の中枢に携わる方法はいくらでもある――ええ、その通りです。そして我々公爵家は、そうなるように下積みをしてきた。それでも、我々は公爵家に過ぎない。国の主となる器ではないと臣籍に下った。それがどれほど我々にとっての矜持を傷つけるか、それが貴女には分からないのでしょう?」

「わ……分かりません。誰が統治者であっても、いいではありませんか」


 そんなのはただの形の問題だ。実際、歴史には傀儡政権だってある。それを肯定するつもりはないけれど、殺して乗っ取るほうがいいだろうと言われると、頷くことはできない。


「それに……確かに、現王家にもアラリック王子にも不安はあります。私はアラリック王子が王子として優秀だなんて思っていません。でも大なり小なり、人が統治する以上、そこには不安があるものです」


 あのラウレンツ様だって、一人ですべてを完璧にこなすことはできない。それは容量の問題ではなく、ラウレンツ様にだって見えないことはある。たった一人で国を動かすなんて危険に決まっている。それを臣下が支えるのだ。


「その不安が大きいからといって、その人を排除することを決めなくてもいいではありませんか。いくらでも根気よく支えていけば」

「それは人の下に就くことしかできぬ者の言い訳です。愚かな君主に従うよりも、なんて理屈の話ではありません。クラウヴァルト家はただ、エーデンタール国の頂点に立つものとして、玉座を望んだ。それは私達の矜持です」


 もし本当にそれが理屈ではないというのなら、私には本当に分からない話だった。わざわざ王だの、女王にだのならなくたっていい。誰かのもとで働く幸せだってある。


 でもそれが、平民生まれには――原初から貴族に統治される者として生まれた者には分からないことだと言われると、そうかもしれないとも思う。そればっかりは、分からないことだ。


 ヴィオラ様は、「ま、そんなことを貴女に語ったところで無意味ですが」と、視線を切って続けた。


「そうでなくとも、あの王家に仕える価値なんてなかった。王家の愚かさは、我々の次に貴女が理解していることでしょう?」

「……王家は既得権益を重視し、国が変わらないことを望んでいました」

「ええ、その通り。しかし国にとって停滞は滅亡です。国は決して立ち止まらず、常に強大に、そして強力になって行かねばならない。安寧を好むからこそ、時には混沌に飛び込むことも躊躇ってはならない。既得権益に胡坐をかく者など、王家にふさわしくない」


 それを排除しようと試みて、何が悪い。


 ヴィオラ様と私の話は、その平行線だった。


 ヴィオラ様は、組んでいた足をほどく。たとえ罪人であっても、これからは姓すらない者として生きていかねばならないとしても、公爵令嬢であったときから全く変わらぬその優雅さと貫禄が、ヴィオラ様のいう貴族の矜持の顕れなのだろうか。


「アラリック王子は今更足掻いたところで、到底まともな王にはなれないでしょう。父に執政を任せていた陛下も同じく。その悪政に貴族は反発し、民は苦しむ。その時、あの国に残された貴族がどんな選択をするか――よくご覧になってください、帝国皇子妃様」


 ヴィオラ様は、それきり口を閉じた。ひざ掛けもない膝にきちんと両手を揃えて座ったまま、嵌め殺しの窓から外を見ているだけだ。その方向は、エーデンタール国ではない。ヴィオラ様がこれから向かうオストリン・ノイだった。


 エーデンタール国に未練はないのだろうか。追放された国のことを考えるより、これから自分が返り咲く方法を模索するべきだと考えているのだろうか。


 その姿勢は、確かに私にはないものだった。私はエーデンタール国で返り咲こうなど思わなかった。目の前の衣食住があれば、そしてヴァレンと共に生きていければそれで構わないと思っていた。


 野心がない。きっと、ヴィオラ様に一言で言わせればそれだろう。実際、自分の中を探しても、その感情は見当たらなかった。


 もし、違う立場で出会っていたら、私はヴィオラ様を尊敬したのだろうか。


 答えを出せぬまま、牢獄のような部屋を出た。


 馬車に戻ってきた私に、ニコラウスは何も言わなかった。ヴァレンは、私の膝の上に頭を乗せて、目を閉じていた。


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