作業進捗状況53 ソレヤメロゥ家への挨拶
俺はとうとうメディーアに会うことが出来た。
何とか今回の婚約の件を『無し』にすべく俺は話を切り出そうとした。
ところが当のメディーアはそれどころでは無く、職場に辞表を出して、ついでに自分の祖父であり治安維持部 統括部長である『ゼニーガ・タノトッツァ・ソレヤメロゥ』氏をブン殴って出てきたところだった。
俺は用意してきた話の全部がダメになり、何か別の理由で『婚約破棄』をせねばならなくなった。
メディーアも少しションボリしているし、こんな時に出来る話でも無かった。
しかも彼女は実家から今回の話をまだ聞いていないようだった。
俺はつくづく不思議だったのだが、彼女は何故今回の婚約話に対して「断る」とか言わなかったのだろう?
メディーアは、家の決定に唯々諾々と従うような主体性の無い女性では絶対に無い。
ひょっとすると今の生活が虚しくなって、つい「ウン」と言ってしまったのではと思わないでもなかった。
だが、もうちょっと慎重に相手を選ぶべきなのではないだろうか。
「メディーア、あのさ……もし良かったらなんだけど、家まで送ろうか? このままここに居てもしょうがない。お祖父様は取りあえず生きてるんだろう?」
「ぞうだだ。どりあえずがえどぅ」
多分「取りあえず帰ろう」と言ったんだと思う。彼女は何故か鼻を摘まんで、顔をしかめていた。
俺はガーデネイやネイデスの待つヨッコラ車まで戻ると彼女を乗せた。
「ガーデネイ、ソレヤメロゥ家の邸宅まで頼む。ネイデス、とにかく何も聞くな……」
ソレヤメロゥ家の邸宅に辿り着くまで、メディーアはおとなしく座席に納まって黙っていた。
とうとうメディーアと話を進めることも出来ないままに、俺はカーノントゥハァト領を治める侯爵家である『ソレヤメロゥ家』におじゃますることになってしまった。
問題は彼女の母親である『あの御方』だった。
カーノントゥハァト侯爵妃は外交部の次席部長であり、外交交渉における最後の回答、つまり『直接打撃戦力』だった。
信じられない話だが、外交官であるクーデレの上司でもある。
陛下の話では、パワー・装甲・スピードともに歴代の侯爵妃を上回るというコトだったが、侯爵妃に対する評価じゃないだろうと思ったし、通常戦力10万を捻り潰すという段階で生物では無いかもしれないという疑いはあった。
(失敗における)お姑様が『無敵鋼妃』とか呼ばれている時点で俺に明日は無いのだと思う。
何にせよ『俺の母』が一目置いているというだけで尋常の御方では無かった。
俺はメディーアの手を取ってヨッコラ車から下ろした。
身長は俺と同じくらいだ。
メディーアは俺の手を握り返すと3回ほどニギニギしてきた。何なんだいったい。
「ユアセイラ、ここまでありがとう。取りあえず家の者に声をかけてくる。ここで待っていてもらえないか?」
「メディーア、もし話が長くなりそうなら俺は明日にでも出直すよ。君とはまた話をしなくちゃならないし……」
「そ、そうなのか? 退屈な話題では無かったのか? それなら良いんだ。その……すぐに済むから待っていてくれ。あ、着替えて来るのでちょっと中で待ってもらうかもしれない」
微妙に会話がすれ違っている気もするが、取りあえずここで待つことにした。
ひょっとすると侯爵夫妻は留守という可能性もあった。出来ればそれでお願いしたかった。
カチっとした格好の侍従が正面の玄関から出てきて、俺の方に歩いてきた。
玄関からここまで50アーム(≒50m)といったところだろう。
顔がやや渋い。俺には分かったが彼は真っ当な男なのだろう。
仕えている家の令嬢の相手が『札付き』なのがガマン出来ないのかもしれない。
あれは『良い男』だ。俺は後ろに控えている2名の方を見て、うなずいた後でちょっと首を振った。
「やあ、ユアセイラ・ヒートコート・ヨケイジャロウェイだ。メディーアにここで待つように言われてね。ヨッコラ車は邪魔ならどこかに動かすよ」
「いえ、このままで結構でございます。しばらく中でお待ちいただけますか。往来からも見えますので」
「ほー、往来から我々が見えると何か不都合でもあるのかな。是非とも聞かせていただけないかな?」
「む……どうもこうもございませんな。ヨケイジャロウェイ家の方々をここに立たせておくのは、当家にとっても外聞が悪いのです」
「ハハハハハ、これはまた言われたな。ネイデス聞いたか? じつに堂々とした嫌みだったよ。ここの家の者はご息女の客が誰だか知られるのは気に入らないと来たぞ。陛下には何と言えば良いかな?」
「左様でございますな。私どももハッキリと聞きました。かつては遠回しに『帰れ』という時には、このように扱われたと申し伝えられております故、出直してまいるのが良いのではないでしょうか」
「そうか、やっぱりそ……」
俺がネイデスに返答しかけた時に、出し抜けにそれは起きた。
邸宅の玄関がブチ破られた凄い音がしたときには、件の侍従の上半身は俺の腕の5倍の直径はある『手』に捕まれていた。
『手』は肘より先の部分しか存在しなかった。
後ろから何やら吹き出していたが、侍従を掴んだまま50アーム(≒50m)ほど先にある玄関まで飛んで帰った。
「ウワアァァァ……」
「「 お前はいったい何をやっているのです? 」」
それは声だけだったがここまで聞こえた。
いったい何に反響しているのか知らないが、響き方がヤバい上に明らかに不機嫌だった。
「「 婿殿か? そこに居ないで上がりなさい。娘には例の件はまだ伝えていませんが、何やら向こうであったようです。機嫌もやや良いようなのだけど、後で話すと言って着替えにいってしまいました。侍従の件は私の顔を立てて、こちらの借りにしてほしい 」」
間違いなく玄関の闇の向こうに居るのは、カーノントゥハァト侯爵妃『フレイマァロゥ・バァニングブロゥ・ソレヤメロゥ』様だった……。




