作業進捗状況54 無職遠征①
メディーアを送って、とうとうソレヤメロゥ家の邸宅まで来てしまった。
そこで俺を待っていたのは、一番お会いしたく無い御方である『フレイマァロゥ・バァニングブロゥ・ソレヤメロゥ』様だった。
俺は侯爵妃様より直々にあがれと言われてしまった為、おとなしく従うことにした。
先ほどの侍従の失言については向こうの『借り』で良いと言われては恐れ入るより他に無かった。
俺はネイデスとガーデネイを伴い、玄関をくぐって中に入った。
前方からは重い「ブォォォォ」という正体不明の音がずっとしていたし、程なくしてどこから出ているのか判明した。
目の前にフレイマァロゥ様が立っていた。
落ち着いた細身のドレスだった。
足元は何か不明の金属で出来たこれも細い感じのブーツだった。
問題は上半身で、両腕は肩から手まで完全に巨大なガントレットに覆われていた。
侍従を連れていった鋼鉄の腕が異様にデカかった。
胸部は女性的カーブを描きつつも装甲に覆われており、胸の中心から目に悪い光が駄々漏れになっていた。
我々が手にして良い光では無いのかもしれなかった。
銀髪は全て後ろに流され、頭に乗っている山型兜からは赤い角が上に向かって伸びていた。
目は遮光板に覆われていた。
「「 婿殿、何があったのかまず教えなさい 」」
妙な反響の声は充分な迫力があり、陳腐な言い方だがこの御方を180アーム(≒180m)くらいに見せていた。
実際は俺と大差ない身長だ。
「実は治安維持部の前のテラスで偶然に出会いまして。メディーアの話では、辞表を出して統括部長を殴って出てきたようなのです」
「「 ! そうだったのですか。いつかそうなるのではと思っていました 」」
「そこに至った経緯は直接聞いていただくのが良いと思います」
「「 ゼニーガは私の父ですが、理想の為に見えないふりも辞さずというところがありました。行動もしますが結果は出せていません 」」
この方が外交部に籍を置いている理由は何となくわかった。
因みに俺の祖父であるヨノゴートも出版はするが結果はおかしなことになっていた。
俺もダンジョンは掘ったが結果は出せていなかった……。
その時、侍女がお茶を持って入ってきた。
俺は椅子を勧められたので取りあえず腰を落ち着けることにした。
「「 まぁ、あの父が死んでないなら良いのです。ところで婿殿、例の件について『ココ』は何と言っているのです 」」
「母は解消に反対の立場なのだと思います。お伺いしたいのですが、2大侯爵家のご令嬢をそれぞれ嫁にいただくのは私には過ぎたお話だと思いました。母の野心をどうお考えなのです?」
「「 ヨケイジャロウェイ家は家格は無くとも発言力はあるのです。そしてメディーアもクーデレも跡取りではありません。そして婿殿の居住地はずいぶん以前から国外でしたね 」」
「? 確かにそうですが……」
「「 貴方の母上の……『ココ』の考えも、私たちの考えも『野心』と大袈裟に言うような物では無いのです。今回の婚約は娘達の意向も確認したうえでの、他家に対する意思表示といった程度の意味しか無いのです 」」
「デナニカ侍従長から聞きました。母も含めた貴女方が『これ以上は国内に影響力を拡大しない』という意思表示なのだと。国の為ですか? それとも王家の?」
「「 ふフフフフ、あの『手ぶらのモッティーナイナー』も婿殿の客だったか。それは両方の為かもしれません。そして我々は平和的に国外に進出できるのであれば、先にツバを付けておきたいのですよ 」」
「ではむしろ、私が家を継がないことの方が重要だったと?」
「「 そうなりますね。子供が出来たら『ソレヤメロゥ』と『ヒッデーナ』を名乗らせなさい。わたくし達は外へ拡がることを考える時期に来ています 」」
俺は結局のところ、2大侯爵家に利用されるようだった。
この件に誰も反対しないはずだ。
俺以外の当事者たちにとっては、すでに聞いた話なのだろう……。
会話がそこまで進んだ段階で、メディーアが応接間に入って来たところだった。
このご令嬢に対する俺の印象は「布面積の少ない衣装しか着ないのだろうか?」だった。
色以外は先ほどの制服とほとんど違いが無かった。俺の商人風の服と同じく赤飴色だった。
スカートはフワッとしていたが、ちょっとだけ裾が長くなっただけだし、胸の周りは変化無しでガバッと開いていた。
脚は長い靴下に包まれていたがはみ出た部分が目に優しい白だった。
「母上、お待たせいたしました。ユアセイラも待たせたな。母のお相手は骨の折れることだっただろう?」
俺は『気体になって大気に溶け』たり『練り物の具』になったりしなかったことを密かに感謝した。
「「 私はお前と違って『言葉を選んで』いますよメディーア。辞表を出したそうですが、無職の怠け者を置いておく気はありませんよ 」」
「母上、私は領内に戻って政を手伝います。許可をいただきたい」
「「 お前の様な素人に出来ることはありません! 」」
フレイマァロゥ様はピシャリと言い放った。
メディーアはグっと言葉につまったようだ。
視線はやや下向きで少しフルフルしていた。
俺はかつての委員長がこんなになっているのを見ることが、きっと忍びなかったに違いない。
何だかんだで面倒見の良い女性だった。
「そのメディーア、しばらく国境で俺がやってる温泉テント村に来ないか? 南北は人間の国だが、侯爵や伯爵も来る。落ち着いて考える時間だってあるかもしれない」
メディーアはハッとした目で俺の方を見た。
フレイマァロゥ様はといえば、そんな俺を見てフムフムうなずいてからメディーアに言った。
「「 貴族の令嬢にも体面があります。仕事を放り出して地元に戻るなど、もってのほかです。婿殿のところに行って見聞を広めていらっしゃい 」」
俺は自身の決定に後悔しないだろうか?




