作業進捗状況52 メディーアとの会談
作者です。
気がついたら0時まわってました。
今回の話は一番難しく、時間がかかりました。
ケジメはつけたいですが、結果というのはこんなものなのかもしれないと思いました。
俺は本国の実家に戻り、両親に婚約破棄に関しての意見を述べた。
妹に会っていくのは絶対に断りたかったので、早々に実家の邸宅を辞去した。
次はいよいよメディーアに久方ぶりに会って、今回のこのバカみたいな騒動に関する意見を聞き、穏便に別れることが出来れば俺は満足だった。
父母から不穏な話も匂わされていたものの、そんな物にビビっているのなら、そもそもこんな話の段取りを畏れ多くも陛下に頼んだりはしないのだ……。
俺は6頭だてのヨッコラ車に乗り込むと、彼女の職場であるところの『治安維持部』の本部まで走らせた。
あまり行きたくない処ではある。
あのココチョット・ココモーチョット・ヨケイジャロウェイの息子であるというだけで、あの場所では『敵認定』必至である。
俺には裏の仕事に関して容疑がかけられていたし、実際に完全に真っ黒だった。
彼らは証拠が無いから俺を逮捕出来なかったし、国外については犯罪捜査権も持っていなかった。
当事国から依頼があるか、外交部からの要請があった場合のみ、限定的にそれは彼らに付与された。
母の場合は極めて政治的な活動であって、外交部の要請による国外に対する工作を互助会の力で行っていたため、これも国内の官憲の及ぶところでは無かった。
「ガーデネイ、ちょっと離れた場所から歩いて行こう。横付けは目立つしな。あのテラスの近くで良いだろう」
「…………(゜゜)(。。)(゜゜)」
「ダンマス、最近は若い新入りが血気盛んだと申します。ソレヤメロゥ家に頼んで場を設けていただく方が良いのではないかと」
「ネイデス、そういう回りくどい方法が嫌われることもある。何も後ろ暗いところはありませんというアピールをしておくのも家のためだ」
「そこまで仰られるのであれば、これ以上は申しません。お気をつけて」
俺はヨッコラ車からテラスに降り立ち、改めて周りを見回すと大きく深呼吸した。
いよいよこの話も大詰めだった。俺は腕を水平に振ったりしながら「おっしゅ、自分の試合をやります。練習の成果を出しきります」等と気合いを入れまくっていた。
上半身を左右に半回転させる運動が3回目にたっした際に、俺はこちらをいぶかしげに見つめる眼差しにやっと気がついた。
「ユアセイラ、ここは運動場では無いのだ。どうしてお前は学生の頃から『時と場所と相手と妥当性を選ぶ』ということが出来ないんだ。私がこんな気分でいる時になんて男なんだ。お前なんか……ところで何でここに居るんだ?」
俺は目の前に座るご令嬢に何と答えるべきか迷った。
治安維持部の上級捜査官の制服なのだろう。しかし何と言うか視線が下の方に行ってしまい、どうしようも無かった。
全身からビシっという音がしそうだったが、青い制服は大きい胸が大胆に開いて上着が意味をなさなかった。
下半身はこれでもかというぐらい短いスカートで、裾がほとんど脚の付け根までだったし、腰の両脇は半円の穴が開いていた。
脚は厚手の長い靴下が膝上までおおっていたが、はみ出た太もも部分が目に優しいときた。
誰だ? 女性捜査官の制服をこれにした奴は。俺は感謝状を出そうかなと思ったが、これも犯罪ではないだろうか?
やっと顔を見ることが出来た。
長い銀髪を全て後ろに流し、赤い立派な角の間に制帽をかぶった顔は、キリリとした男前の美女だった。
何やら機嫌が悪そうだった。
間違いなく彼女は『メディーア・リンリーイーン・カイ・ソレヤメロゥ』だった。
男なら何の犯罪行為を犯してなくとも、思わず後ろめたい気分になるという雰囲気の、これはこれで困った御方だった。
何でここに居るんだろう?
「やあ、メディーア。実は今日、君に会いに来ようかと考えてたんだよ。それで陛下に頼んで……」
俺は必死で体勢を立て直そうとした。
出会い頭の一撃は流石はメディーアだと言わざるを得ない。
何か言っていたようだったが、全部が右から左に抜けたところだった。
「なんだそうだったのか。何も陛下に頼まなくとも私に直接言えば良いだろう? 例の国境の温泉宿はそんなに忙しいのか? クーデレは優雅にやっているようだ。少しズルいのではないか?」
こんな低音の声があったら全員が犯罪に走るだろう。良くないな。
「ああ、いや今は冬だから暇が出来てね。ご実家から何か聞いてないかな?」
「実家か。今から帰るところだ。私はな、私はもうここのやり方にウンザリした!」
「そりゃ色々と綺麗事だけでいかないこともあるだろうさ。捜査官も家の後ろ楯がある奴は法よりも『お家』だよ」
俺は無難な答えを返したと思った。治安維持部では常識だ。だから俺は抜け道を作れたりする。
次の瞬間に目の前のテーブルが「ボンッ」という音と共に粉になった。
ビリビリと周辺の空気が震えていた。
メディーアは酷く険しい顔をしていたが、なんだか泣きそうでもあった。
「私はな、生まれで量刑に差があることも、陛下の直轄領以外に関しては、こちらの捜査権が及ばない点についても不満があった」
「ああー、取りあえず落ち着いてくれないかな……」
「我々には独立した権限が出来て、悪は法のもとで平等に裁かれ、それが生まれる原因は根絶されるのだと本気で信じて頑張ってきたんだ」
「うん、尊いことだと思うよ。君のことは俺も否定しない。メディーア、実はね……」
「私が昔、お前を呼ぶときに『腐れ根性悪』と欠かさず頭につけたのは、お前みたいな『ロクでなし』でも安心してまともな職につける社会というものを創りたい私の、それが決意表明だったからだ!」
どうしてこの令嬢はその理由を先に言ってくれないのだろう?
しかし、とにかくこのままでは肝心の話が始まりそうに無かった。
「メディーアその……そういうのはユックリ腰をすえて、少しずつでも着実にやって行っても良いんじゃないかな? 俺も国外の居住だし。それより今日は……」
「ユアセイラ、出ていけない奴はどうするんだ? お前に聞くことじゃないんだがな。我々が捕まえる犯罪者は種族でも少数派だろう。それでも奴らにはそれ以外の生きる道が無いのだと、私は気がついてしまった」
「どのくらいで満足出来るかはそれぞれだと思うんだ。結局のところ力が無いんだから、癇癪を起こしたバカは放っておいてね……」
「私は少なくとも、これ見よがしに能力は振るわない。しかし多数派のことを考え過ぎた結果がこれだ。私は領内に戻ろうと思う」
俺は粉になったテーブルのことを思った……。
で何で領内に戻るとか言い出すんだ?
「私は今日付けで『辞表』を出してきた。私は今と違う立場から物を見る必要がある。祖父は止めようとしたのでブン殴ってきた」
俺は泣きたくなってきた。
彼女は俺がよくよく考え抜いた『婚約を無しにしたい最大の理由』と決別したあげくに、2番目の理由をブン殴って出てきたところだったのだ。




