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豚飼いのエウマイオス

物乞いになったオデュッセウスは、豚飼いのエウマイオスの牧場にやって来た。

物乞い:「すまないが、食べ物を少し分けてはくださらぬか?」

エウマイオス:「ここにはあまりいいものは無いが、中に入りなさい」

物乞い:「お優しい方に感謝します」


エウマイオスは物乞い姿のオデュッセウスをテーブルの席に座らせると、パンとスープを分け与えた。

エウマイオス:「あんたは、どこから来なすったのかね?」

物乞い:「海を旅をしていたんだが、悪い船乗りにあい身ぐるみを剥がされ、この島に置き去りにされちまいました・・・」

エウマイオス:「最近は物騒になった・・・私も旦那からこの牧場を預かってはいるが、旦那様は行方知れず、その間に屋敷にならず者たちがやって来て、好き放題・・・わしはそのならず者たちの食わせる豚を飼ってるというわけさ・・・旦那様は今どこで何をしているのやら」

物乞い:「その旦那様ってのは立派な方だったのかい?」

エウマイオス:「そりゃ頭の切れる立派な方で、財産も沢山もっておられた・・・それがならず者たちによって食い荒らされ、中には財産の分配まで考えている者もおる。それにペネロペ様じゃ・・・」

物乞い:「ペネロペ様というのは?」

エウマイオス:「ペネロペ様というのはな旦那様の奥さまで、すごい美人なんじゃが、そのならず者たちに結婚を迫られて嘆かわしい状況じゃ・・・旦那様がおられたらなぁ、こんなことはさせないんだろうが・・・」

エウマイオスは天井を見上げた。


物乞い:「その旦那様ってのは何て方なんですか?」

エウマイオス:「オデュッセウス様じゃ」

物乞い:「オデュッセウス・・・オデュッセウス・・・あ!以前ペイドン王にお世話になったとき、そういった名の客人がこられていましたよ」

一瞬驚いたエウマイオスだったが、落ち着いた言葉で言った。

エウマイオス:「もうかれこれ20年じゃ、オデュッセウス様のいい話は何度か聞いたが・・・わしを喜ばせようと思って作り話はしなくても大丈夫じゃ、有り難う」


物乞い:「疑り深いんだなぁ・・・それでオデュッセウス様の父上や母上はどうされているのです?」

エウマイオス:「母上は亡くなられて、父上のラエルテス様は、健在じゃが、すっかり年を取られてしまった。ぼっちゃんのテレマコス様は、オデュッセウス様を探す旅に出たきり戻ってこない。」

物乞い姿のオデュッセウスは、涙をこらえた。


イタケ近くの海上では、そのぼっちゃんテレマコスとメントルがイタケへ上陸しようとしていた。

メントル:「テレマコス殿、あそこの岩陰で何者かが待ち伏せしています。」

テレマコス:「何者かって?」

メントル:「悪意をもった何者かです。別なところから上陸しましょう。」

その何者かとは、求婚者の一人アンティノオスが準備していた刺客だった。


そして、テレマコスとメントルは豚飼いのエウマイオスの牧場にやってくる。

テレマコス:「今戻った、エウマイオスはいるか?」

エウマイオス:「ぼっちゃん、よくご無事で!」

テレマコス:「母上は無事かい?」

エウマイオス:「それが、最近、どなたかと結婚するという噂が流れていて・・・」

テレマコス:「やはり・・・美男子のエウリュマコスか・・・」

残念そうに床を見つめるテレマコス。


テレマコス:「こちらの方は?」

テレマコスは目にはいった物乞いについて訪ねた。

エウマイオス:「あ、この人は・・・」そう言いかけたところで、物乞いが割ってはいる。

物乞い:「あんたはならず者に島を乗っ取られてもいいのですか?島の人たちから信頼を得てないのですか?」

テレマコス:「私の家系は祖父ラエルテス、父オデュッセウス、そして私と代々島の民から愛されています。しかし相手は島の有力者たち、残念ですが、私にも母にも対抗できる力はありません・・・」

そう言ってテレマコスはうなだれた。


エウマイオス:「・・・ぼっちゃん、ペネロペ様にぼっちゃんの無事を知らせられては?」

テレマコス:「そうだね」

エウマイオスはペネロペの屋敷に向かった。


エウマイオスが部屋から出ていくと、ゆっくりと女神アテナが現れた。

驚くテレマコス、メントルはひざまずいて言った。

メントル:「アテナ様」

慌ててテレマコスもひざまずいた。


女神アテナ:「もうこれくらいでよいでしょう」


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