表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/40

28 ヒロインなのにパーティは嫌です

28



 学年末のパーティまでの1か月はあっという間だった。


 生徒たちが最も気合を入れて準備をするのがこのパーティだ。気合というのはドレスであったり、パートナーであったり様々だが、誰もが一様にそわそわとしていた。

 というのも、このパーティにはとあるジンクスがあるからだ。



『好きな相手とファーストダンスを踊れば気持ちが届く』



 政略結婚の多い貴族ばかりの学園で、おかしな話なのだが、このジンクスは根強く残っていた。

 政略結婚で引き裂かれた恋人同士がファーストダンスを踊ってよりを戻すことが出来たとか、身分違いの恋に苦しんでいた生徒の思いが届いたとか、いろんな話があるがどれも判然としない。


 《学ロマ》では、一番好感度の高い攻略対象者とファーストダンスを踊ることになってる。そのせいで悪役令嬢の怒りを買い、そのまま断罪に……という流れなのだが、今回メリナは誰とも踊る予定もないし大丈夫だろう。

 そもそもメリナはドレスも何もないので欠席しようと思っていたが、フローレンスはそれを許してはくれなかった。



「あなたも物語の結末を見届けてくださいませ」



 そう真剣な表情でお願いされては断れない。またもやフローレンスにドレスを借りることになってしまって申し訳なく思ったが、また何かお礼をしようと心に決めた。


 当日はフローレンスも準備に忙しいため、ダレントラン邸の召使いがメリナを馬車で迎えに来てそのままドレスや化粧を施してもらうことになっていた。



「もう明日……か」



 メリナはベッドに寝転がり、天井を見つめていた。気が付けば明日がパーティの日だ。


 明日《学ロマ》のゲームが終わる。フローレンスたちはきっとこの日を心待ちにしているはずだ。

 でも、残念ながらメリナには、フローレンスたちのような感慨は特に無かった。


 ただただ、何のためのヒロインだったのか分からないだけの日々だった。もちろん、楽しかったことも沢山ある。

 でも、攻略すら出来ず、好きな人が出来てもフラれる。ヒロインとして自分は必要なかったのではないかと思って仕方ない。


 むしろ、婚約者と上手くいっているフローレンスたちの方が、よっぽどヒロインらしいではないか。



(行きたくないなぁ……)



 明日のパーティの様子を想像すると、メリナはため息が出てしまった。本当はパーティに行くことに気が乗らない。


 フローレンスたちは当然自分の婚約者と参加するのだろう。だが、メリナにはパートナーはいない。

 ゲームではきらきらと輝くヒロインが攻略者と共にダンスを踊っていたのに、今のメリナはダンスどころかパートナーもいない。だからといって、攻略対象者とパートナーになりたい訳ではないが、ゲームと現実の差があまりにも寂しかった。



(でも、約束しちゃったから行かないと……)



 ふぅ、ともう一度ため息を吐いたメリナはゆっくりと目を閉じて眠りについた。



――――――



「――リナ!……メリナ!!」


「……う~ん?母さん……?」



 メリナは母親であるジゼットが焦ったように呼ぶ声で目を覚ました。眠い目をこすってジゼットを見ると、顔色が悪い。その顔を見たメリナは、一瞬で眠気が飛んでいった。

 ジゼットの慌てようは尋常ではない。きっと大変なことがあったに違いないとベッドから飛び起きる。



「どうしたの?何があったの?」


「い、今、うううちに……」


「ちょっと落ち着いて!」



 メリナに宥められて、ジゼットは深呼吸をする。焦れながらもそれを待っていると、ジゼットはようやく落ち着いたようで口を開いた。



「さっき家の前に馬車が止まって、荷物を持った人たちが降りてきたの」


「馬車?」



 フローレンスの家の物だろうかと疑問に思うが、それならジゼットにも言っているはずだからここまで慌てるのはおかしい。それに、ちらりと時計を見ても、約束の時間にはまだ早い。

 続きを促すようにジゼットを見ると、彼女はもう一度深呼吸したかと思うと一気に言い切った。



「その荷物を全部家に置いて行っちゃったのよ!!」


「ええ!?」


「しかも全部とっても高そうなの!怖いわ!」


「どういうこと!?」


「私が聞きたいわよ!!」



 ジゼットから話を聞いたメリナは、急いで部屋を移動した。リビング兼ダイニングにしている部屋に入ると、その狭い部屋には不釣り合いな豪華な包装が施された箱が置かれていた。

 扱いに困ったのだろうか、小さな机や椅子に恐る恐る置かれた箱はまるで何かの罠のようで、メリナは近付くのを躊躇った。



「ほ、ほら、早く開けなさいよ」


「え、私が!?」


「他に誰がいるの!」



 ジゼットに突き立てられて、メリナは箱に近付いた。


 赤いリボンで飾られた箱はとても可愛らしくて、明らかにプレゼントと分かる。

 それが何故自分に届いたのか、誰から届いたのか分からなくて、その可愛らしさに恐怖を感じた。



(そもそもこれは私に向けての物なの?)



 人違いの可能性もあるのでは、と思って箱をじっと見つめると、一際大きな箱のリボンの間に手紙が挟まっていることに気付いた。



「これは……」


「あ、ほら、裏にメリナの名前が書いてるわよ」



 その手紙には、確かに『メリナさんへ』と書いてあった。それを見た瞬間、メリナの心臓がどくりと音を立て、急いで封を切った。


 そこにはただ短く「今日のパーティにこれを着て参加してほしい」と書いてあった。差出人の名前はない。

 メリナはそっと手紙を置くと、一番大きい箱に手を掛けた。

 するすると抵抗なくリボンは解けていく。包みを開けたメリナは目を見開いた。



「――こ、これは!」


「すごいわ……」



 箱の中には薄い水色のドレスが入っていた。その美しさに隣で見ていたジゼットは感嘆の声を上げる。

 他の箱も開けると、美しい靴や髪飾り、ネックレスにピアスなど、パーティで必要な物がすべて揃っていた。



「一体誰がこんな物を?今日は学園でパーティなのよね?」


「うん……」


「差出人は?」


「ない……けど、誰からか分かった気がする」



 薄い水色のドレスは、デートの時のワンピースと同じ色。飾りの白い花もそうだ。

 きっとこれはクラウスからの贈り物だと、メリナはそう確信した。



(でも何で?)



 今更何故こんな物を贈ってきたのかと、クラウスの考えが分からなくて、嬉しい気持ちより不安の気持ちが大きい。


 一体何を考えて、自分がフった相手にドレスを贈ったのだろう。それもデートの時と同じ色のドレスを。

 何故差出人名も書かないのか、何も伝えてくれないのか、何も分からない。



(どうしたらいいんだろう)



 ドレスを見てしばらく呆然としていたメリナ。ジゼットが何か言っているが耳を素通りしてしまう。


 メリナは悩んだ末に、クラウスに直接聞くしかないと決心したのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ