27 ヒロインなのに引きずります
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「はぁ……」
メリナはため息を吐いた。あれ以来、クラウスと気まずくて普通に話すことが出来ない。
ぎこちない態度を取ってしまう度に、クラウスは複雑そうな、そしてどこか寂しそうな表情をする。そんなことをしている内に、もう一月は経とうとしていた。
いつまでも引きずるなんてと思っていたが、ため息を止めることは出来なくて、まだまだ時間がかかりそうだ。
「メリナちゃん、またため息が出てますわよ~。気持ちは分かるけど、こっちにまで移ってしまいそうですわ」
「あ、ごめんなさい」
無意識の内にもう一度ため息が出てしまっていて、ユリアに小声で指摘される。メリナはぱっと手で口を押えて周りを伺う。
現在、二人は図書館にいた。たまたま放課後にメリナが図書館で勉強をしようとしていたところ、ユリアが居合わせたのだ。
ユリアもまた、図書館に調べものに来ていた。家にも大きな書庫があるだろうに、何故かと疑問に感じてメリナが聞くと、魔法の本は危険で家には置けないものもあるそうで、そういう時は図書館で勉強するのだと言っていた。
「ユリア様って、意外と勉強熱心なんですね」
「アラン君が好きなことですから~」
メリナの言葉に「意外ってどういう意味ですか~?」とユリアは頬を膨らませた。
その様子を見ながらメリナは苦笑する。ユリアの素直な感情表現は、何だか親しみやすいと感じていた。
「……」
「メリナちゃんはどうするんですの?」
しばらくお互いに無言で本に向かっていると、不意にユリアが聞いてきた。
メリナは直ぐに、クラウスのことを言っているのだと分かった。
「どうするも何も……」
フラれちゃったし……という言葉は口から出なかったが、ユリアには分かったようで何とも言えない表情をしている。
そして何かを言おうと口を開いたり閉じたりした後、一度口をキュッと結んでから堰を切ったように話し出した。
「だからってこのままでいいんですの?あの時は駄目だったけど、今は違うかもしれないじゃないですか~!」
「しー!」
「あ、ごめんなさい~」
話している内に興奮してきたのか、どんどん声が大きくなっていってしまうユリアを窘める。
素直に謝る様子を見て、ユリアは少し子供っぽい部分もあるが、それが愛らしいなと思った。だからアランもユリアのことが好きになったのかなと漠然と思った。
そう考えてから、ふとクラウスのことが頭をよぎる。
(それに、私と違って身分も釣り合ってるし……)
クラウスだって、もし平民じゃなかったら友人としてではなく、恋愛対象として見てくれたかもしれないのに。
そう卑屈になってしまって、その考えを振り払うようにメリナは首を横に振った。
(きっと平民じゃなかったら、友人にすらなれてないわね)
だがそう考えると、結局上手くいっていなかったのだと気付いてしまって、ふっと自嘲の笑みを浮かべる。
そんなメリナを、まだまだ傷は癒えなさそうだとユリアは心配そうに見ていた。
『フラれちゃいました……』
デートの翌日、ダレントラン邸に集まった4人の令嬢を見て、メリナはえへへと笑いながら報告したのだ。
てっきり両想いになったとばかり思っていた4人は、予想外の報告に驚き固まってしまう。
それでもメリナは、デートが楽しかったことや友人としか見られないと言われたことなどの報告を笑いながらした。
『昨日はいい思い出になりました。皆さんも、服とか化粧とか、いろいろありがとうございました』
そう笑顔でお礼を述べるメリナだが、その笑顔が痛々しくて4人の方が泣きそうになってしまった。また頑張ればいいとは口が裂けても言えず、メリナたちは沈んだ雰囲気のままお茶を飲み、そのまま解散してしまったのであった。
「ごめんなさい……」
ユリアはあの時のことを思い出すと、自然と口から謝罪の言葉が出てしまった。当然メリナは何のことかと驚く。
「ユリア様……?」
「私が安易に告白しろなんて言ったからですわ~……」
ユリアは自分が言い出したせいでメリナが傷つくことになってしまったことに、責任を感じていた。
ただ、メリナはクラウスは絶対にメリナのことが好きだと思っていたからそう言ってしまったのだ。もしその想いに気付いていなくても、良いきっかけになるはずだと信じていた。
それがあの結果だ。泣きそうでも泣けずに笑うメリナを見てしまって、何て無責任なことを言ってしまったのかと後悔していた。
そんなユリアを見て、メリナは急いで否定する。
「何言ってるんですか!ユリア様は何にも悪くないですよ!」
「でも~……」
「私のためを思って言ってくれたんだって分かってますよ。きっとこれでよかったんです」
所詮身分違いなのだ。この想いが叶ったところできっとまた別の問題が出てくる。
だからもういいのだと、そう言ったメリナに、ユリアも何も言えなくなってしまった。
「――ところで、もうすぐパーティなんですよね?」
この話はおしまいだとばかりに、メリナは話題を変える。
ユリアもこれ以上は何も言えず「そうですわ~」と肯定した。
「それってあれですよね?」
「そう、あれですわ~」
2人は顔を見合わせる。あれ、とは≪学ロマ≫のシナリオにある、断罪の日のことだ。
ありきたりだが、断罪は学年末のパーティで行われていた。そして、メリナが転入しきてから気が付けば半年以上が過ぎ、あとひと月でその学年末のパーティが開催されるのだ。
「断罪はないから良かったです」
「そうですわね~。私たちもほっとしてますわ~」
メリナが攻略対象を誰も攻略できていない上に、悪役令嬢であるユリアたちは婚約者と仲睦まじいため、断罪は起きるはずもない。
パーティは言わばゲーム終了の合図。
そもそも始まってもないのだが、それでもメリナやユリアたちにとって一つの区切りとも言えた。
(パーティが終わったら、私も前に進めるかな)
区切りが来ることで、メリナの気持ちにも区切りが来るのではないかと漠然と感じる。
ぼんやりとしていると「でも」とユリアの声が耳に入り、慌てて気持ちをそちらに戻した。
「私、ちょっとだけ怖いのですわ~」
「怖い?」
「ええ。だって、この先のことは誰にも分からないんですもの。何かあってももう対処できませんわ~」
そう言って俯くユリアは不安そうだ。このパーティにユリアも思うところがあるのだろう。
メリナは安心させるように微笑んだ。
「大丈夫ですよ。今だってシナリオ全く関係ないんですから」
「メリナちゃんは最初からシナリオの外ですものね~」
「外?」
だがユリアはそんなことを言う。何のことだか理解が出来ず、メリナは首を傾げた。
顔をあげたユリアは、そんなメリナを見つめる。
「私たちは攻略対象の婚約者という時点で既にシナリオ内にいますわ~。もちろん仲を深めたり努力はしましたけど、結局ヒロインも現れましたし、シナリオから外れてるとも言い難いのですよ」
ユリアが言った言葉は一理あった。
メリナの存在は決してイレギュラーな物ではないし、最初の頃はシナリオに沿って行動しようとしていた。悪役令嬢であるユリアたちにとったら、シナリオ通りの人間が現れるのは恐怖でしかなかっただろう。
「でもメリナちゃんは最初から攻略対象と仲良くなることはなかったでしょう~?クラウス様やカリーナ様のことだって、シナリオには全く関係ない事ですわ」
メリナからすれば、最初に記憶を思い出した時から全くシナリオ通りにいかなかった。今だってそうだ。ヒロインであるはずなのに、ヒロインとして起こることが全く起きない。
ユリアたちとメリナの違いは何なのだろうかと考えるが、答えは出ない。
「不思議だったんですわ~。何で私たち全員が転生者なのか、シナリオに強制力はないのにシナリオに沿うのか」
ユリアは真剣な表情でメリナを見つめる。
「でも、パーティが無事に終わればもうそんなことはどうでもいいと思える気がするんですわ。転生者であれ、悪役令嬢であれ、ヒロインであれ……きっとそんなの関係なく私個人として生きていけるような、そんな気がするんですわ」
私だけじゃなくて、他の3人もですわ。
そう付け足して、ユリアは目を伏せた。
きっと彼女たちは前世の記憶を思い出した時から呪縛を受けているのだ。乙女ゲームの登場人物であるという呪縛。そして、そこから早く解放されたいと願っているのだ。
パーティが何事もなく終わるようにと、メリナはそう願わずにはいられなかった。
投稿したと思ってたのにされてませんでした…




