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それからもいろいろあった。よくもこんなにいろいろな出来事を起こせるなと感心したくらいだ。
その結果僕たちは友人になったようなものだから、良かったのかもしれないけれど。
メリナさんはダレントラン公爵令嬢やその他の三人にもきちんと謝罪をして、気が付けば彼女たちと友人になっていた。
少し前までメリナさんの友人は僕一人だったのに、と思ってしまって、自分の心の狭さに笑えてくる。
彼女に友人が増えるのはいいことじゃないか。なのに何で、こんなにも寂しいんだろう。
ある時から僕やダレントラン令嬢はたちは急にメリナさんに避けられ出した。
理由は分からなかったが、あの明るいメリナさんが泣きそうな顔で僕たちを避けるなんてただ事ではない。
調べてみれば理由は直ぐに分かった。
――カリーナ・モンペルト伯爵令嬢。
彼女がメリナさんに嫌がらせ行為をしているようなのだ。それを聞いた時酷く腹が立った。
その怒りはメリナさんが嫌がらせをされていることへなのか、自分に相談してくれなかったことへなのか。僕には自分の気持ちが分からなかった。
だが、モンペルト伯爵令嬢とは嫌な相手だ。彼女は僕の婚約者になろうとすり寄ってきていた令嬢の1人なのだ。いくら躱しても食らいついてくるので、僕は苦手だった。
そのくせ、僕のことを見下しているように感じる時がある。こんな地味な男を相手にしてやっているんだから……そう思っているのが見え見えなのだ。そんな地味な僕が平民のメリナさんを構っていることが気に入らないんだろうな。
もう一つ腹が立つことがあった。それはレオンハート殿下だ。
あろうことか僕に忠告をしてきたのだ。この前は認識もしていなかったくせに。
ダレントラン公爵令嬢がメリナさんを甚く気に入っているから危機感でも感じているのだろうか?小さい男だ。
しかもそれをメリナさんに聞かれるという間の悪さ。
それがあって避けられるのを終わらせることが出来たからよかったものの、余計に酷くなっていた可能性もあるのだ。そう思うと非常に腹が立つ。
メリナさんはその後、自分でモンペルト伯爵令嬢に手を下した。
その勇気はメリナさんらしくて素晴らしいと思ったが、素直で優しい彼女はモンペルト伯爵令嬢の執念深さに気付いていなかった。
だから、代わりに僕が引導を渡しに行く。
「クラウス様って思ったより腹黒いのですね」
同じことを考えていたのであろうダレントラン公爵令嬢に、全てが終わった後そう言われた。
腹黒い、か。そうなのかもしれない。
「そんなにメリナが大切ですか?」
不意にダレントラン公爵令嬢に聞かれて首を傾げる。彼女が大切なのは君たちも同じだろうに、何故そんなことを言うのだろうか。
もちろんと頷くと彼女たちの表情は明るい物になった。一体何なんだろう。
モンペルト伯爵令嬢や嫌がらせに関わった人間の処理が全てが終わって、僕はやっと一息つけた。
メリナさんはとても大変な思いをしたのだから、何かねぎらってあげたい。そう漠然と考えていた。
その機会はすぐにやってきた。メリナさんが壊されたペンを僕がプレゼントすることになり、2人で城下町に出かけることになったのだ。
僕もあまり行ったことがないが、メリナさんはきっと高い物をプレゼントされると困ってしまうだろう。そう考えて、城下町の中で質がいいが貴族の持つ物のように値が張らない店を探した。
きっとそれだけだと直ぐに解散になってしまうだろうから、せっかくだからと女性の好きそうなカフェテリアも探す。思いの他楽しみにしている自分に、やはり驚く。
こんな風に出掛けることを楽しいと思えるなんて意外だ。僕はメリナさんが関わるといつも予想外の自分を知ることになる。
「とってもかわいいね。似合っているよ」
そう、こんな風に相手の装いを褒める言葉だって、本心で言ったことなんてないのに。
メリナさんが薄い水色のワンピースを着ているのは、心から似合っていると思う。きっとそれだけ僕はメリナさん贔屓なんだなと思わず笑ってしまった。
やっぱりメリナさんは遠慮してペンも安い物を選んでいた。でも、その色が僕を思わせるようで、嬉しいと思うのは変かな?
カフェテリアでは、メリナさんが小動物のようにケーキを食べる姿を見て、僕の分まで渡してしまう。彼女と種類のケーキを注文していて良かった。幸せそうに食べるメリナさんを見ていると僕まで幸せな気持ちになって、いつまでも眺められる。
恥ずかしがられてしまってあまり見れなくなったのは残念だった。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。
こんなに惜しいと思うのは初めてだ。だから、メリナさんに引き留められたときは正直嬉しかった。すっかり忘れていたハンカチを渡されて、プレゼントにメリナさんの手作りだというクッキーを貰ったのも嬉しかった。
だから、あんな話になるとは思ってもみなかったんだ。
「クラウス様のことが好きです!」
そう言ってくれたメリナさんの瞳は輝いていて直視できない。好き?メリナさんが僕を?
もちろん僕だってメリナさんのことは好きさ。大切だとも思ってる。
でもこれはメリナさんの求める、メリナさんと同じ好きなのか?
それは……違うと思った。僕なんかがメリナさんのような純粋な人と同じ気持ちを持てるはずがないじゃないか。
「僕も、もちろんメリナさんのことが好きだよ。でも、それは友人としてだ」
そう、この胸の痛みは大切な友人と同じ気持ちになれなくて申し訳ないから。そうに決まっている。
「そ、そうですよね!変なこと言ってすみません!」
僕の言葉を聞いたメリナさんは、へにゃりと笑っていた。その笑顔は傷ついているように見えて、僕は何も言えなくなってしまう。いや、何も言えるはずがない。
「今日は本当にありがとうございました。ペンも……本当に嬉しかったです。大切にしますね」
また学園でと別れを告げるメリナさんを前にして、僕は気の利いたこと一つ言えなかった。
そして、僕はもやもやとした胸をどうすることもできないままに、帰路に就いた。
次に学園で会った時、メリナさんと目が合わなくなって、あの輝く笑顔も見られなくて。
自分がどれだけのことをしでかしてしまったのかに気付いたがもう遅い。どれだけあの笑顔が見たいと思っても、そんなことを言える資格は僕にはない。
彼女の傍に居られないことが苦しい。モンペルト伯爵令嬢のせいで避けられていた時とは違う、他でもない僕のせいで傍に居られないのだ。
――――――
「見損ないましたわ」
ある日、廊下を歩いているとダレントラン公爵令嬢たちに呼び止められた。恐らくメリナさんのことだろう。あの日着ていた服は明らかに良い物だったし、ダレントラン公爵令嬢が一枚噛んでいたと見て間違いないはずだ。
ということは、メリナさんが彼女たちに相談していたことは想像に難くない。
ティールームに連れられて席に着くなり、開口一番で辛らつな言葉を投げかけられた。
「何のことか分からないとは言わせないよ」
「……メリナさんのことかな」
クリスティーナ・オードリー侯爵令嬢は僕を睨みつける。もちろん僕だって分かっているよ。
「何故メリナちゃんのこと振ったんですか~?私、クラウス様もメリナちゃんのこと好きなんだと思ってたのに」
「僕が……?」
おっとりとした口調で話すのはユリア・パレット伯爵令嬢だ。その内容に僕は驚いてしまう。何故僕がメリナさんを好きだと思ったんだろう。
「もしかして自覚していらっしゃらないとか……?」
パルテナ・グレンティン侯爵令嬢が顎に手を添えて呟く。
その呟きは僕にも聞こえて、何のことだと不思議に思う。そんな僕を見て何かを考えていたダレントラン公爵令嬢は口を開いた。
「クラウス様、あなたはメリナさんのことは友人としか思っていないと、そうおっしゃったそうですね」
「ええ。事実です」
「でも、私にはそうは見えないのです」
「というと?」
「だって、あなたがメリナさんを見る目はとても優しいものですもの。それに、ただの友人にあそこまでしますか?」
あそこまで、というのはモンペルト伯爵令嬢や、それに加担した者を処罰した時のことだろう。
だが、大切な友人が痛めつけられたのだ。それくらい当たり前じゃないのか?
「そもそも友人になったのだっておかしな話です。私たちならともかく、あなたは男性で、婚約者もいないのですよ」
「……」
確かにそうだ。僕は自分の価値を正しく理解していた。だが、メリナさんと友人になってしまって、彼女は嫌がらせを受けた。
レオンハート殿下にも忠告を受けたにも関わらずだ。
それは何故だっただろうか。
最初は正直面倒くさそうな子だと思っていた。次に、何故あそこまで頑張るのだろうと興味を持った。そして、知っていく内に、あのひたむきさや純粋さが眩しいと思った。
何にも抑えつけられずに自分を沢山表現して、あの輝く笑顔を見せてくれる彼女を大切だと思った。
だから、どうしても傍に置きたくなってしまった。
でも、それは果たして恋や愛というものなのか?
「よく考えて下さいね」
考えても答えが出ない。それでも1人悩み続けていると、ダレントラン公爵令嬢はそう告げて、他の3人と席を立った。
残された僕は、優雅なティールームで一人、頭を抱えるのであった。




