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「はぁ……」
先程のことを思い出すと、メリナはため息を吐いた。急展開に気持ちが追いつかない。
「疲れましたか?」
そんなメリナに気付いたパルテナが労わるように声を掛けてくる。
その優しさに、メリナは微笑んで返した。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「ならよかった。でもそろそろ休憩しませんか?」
「そうですね」
パルテナの提案に、全員が頷いた。
直ぐにメイド達が入ってきて紅茶とお菓子が用意される。その統率された動きに、メリナは舌を巻いた。
紅茶を一口飲み、クッキーを齧る。それだけで、体の緊張が解れた気がした。
(緊張してたんだな)
自覚していなかったことに苦笑しつつ、メリナはもう一口紅茶を飲んで口を潤わせると、フローレンスに声を掛けた。
「あの、フローレンス様」
「どうしましたの?」
「本当に服を借りてしまっても良いのでしょうか?」
こんな高そうな物を本当に借りてもいいのだろうかと、メリナは完全に気後してしまっていた。
申し訳なさそうに眉を下げるメリナに、フローレンスはとんでもないと声を高くする。
「大事なデートですのよ。気合を入れないでどうするのですか!」
「で、デート!?」
思わぬ単語に声が裏返るメリナ。
そんな意識が全く無かったせいで、驚きのあまり目はまん丸になっていた。
「逆に何だと思ってたの?」
メリナがあまりにも驚いているので、その様子にクリスティーナも驚いてしまう。
メリナ以外はデートという認識だったので、その反応は予想外だった。
「ただのお出掛けかと」
もじもじと手を合わせるメリナに、4人は目を見合わせる。そして、代表するようにフローレンスが声を張り上げた。
「男女が2人きりで出掛けることをデートというのでしょう!」
フローレンスの言葉に、そうかもしれないけど……と俯くメリナ。
ゲームでもデートのイベントはあるだろうに、何故デートだと思わなかったのかと、フローレンスは頭痛を覚えた。
しかし、メリナは鈍いわけではない。にもかかわらず、何故デートだと思わなかったのか。それは、攻略対象からスルーされ続けたことが原因だった。
(だって勘違いだったら恥ずかしいじゃない……)
俯きながらそう内心思う。
メリナは、勘違いして、また攻略対象たちにしたような痛々しい行動をしてしまうのを恐れていた。
しかも、相手は本当に好きになった相手。その相手であるクラウスに、攻略対象たちのように陰口を言われたらきっと立ち直れない。
もちろん、クラウスはそんなことをする人間ではないと思ってはいたが。
メリナの防衛反応みたいなものだった。
「正真正銘のデートだと思うから安心してもいいと思うよ」
そんなメリナを知ってか知らずか、クリスティーナが優しく声を掛けてきた。
「本当ですか?」
「私はその場にいませんでしたけど、メリナさんに何かプレゼントしてくれるんですよね?それならデートだと思いますよ」
なおも不安がるメリナの肩に、パルテナは手をそっと置く。
口数が多い方ではないパルテナにまでそう言われて、メリナはやっとデートなのだと実感できた。
そして、クラウスとデートするということは、告白のチャンスではないかと思い至る。
それと同時に、強引にこのデートを勧めてくれたフローレンスたちの行動に合点が言った。
「もしかして、私がなかなか行動に移せないでいたから……?」
メリナが思わず口に出してしまうと、フローレンスは頷いた。
「それもありますわ」
やっぱりそうだったのかと、メリナはありがたく思った。
自分が勧めたからこそ、服を貸してくれたり選んでくれたりよくしてくれるのだなと納得した時だった。
フローレンスは「それに」と言うと目を輝かせた。
「もう一つはヒロインを着飾りたかったんですの!」
「へ?」
思わず間抜けな声が出てしまう。
聞き間違いかとフローレンスを見るが、いつもの冷静で優し気な様子ではなく、興奮したように目を輝かせている。それを見て聞き間違いではなかったと気付いた。
「あ!それ私も思ってたんだ」
「私は化粧をしてみたいのですわ~」
「私は髪の毛を」
「えっ、ちょっちょ、ま」
フローレンスに乗っかって他の3人まで興奮したように言うものだから、メリナはいよいよ焦り出した。
焦っているメリナなど目に入らないように、4人は思い思いに語り出す。
「メリナのブラウンの髪は何にでも似合って良いですわ!やっぱり初デートは清楚系ですわよね。白だと狙い過ぎですし、爽やかな水色がいいかしら?」
「ちょっと髪と肌がカサついてるからお手入れもした方がいいと思う。いい匂いのオイルがあるからあげるよ」
「元が良いからお化粧のし甲斐がありますわ〜。やっぱり清楚な服でいくなら、お化粧も控えめで素材を生かしましょう〜」
「ふわふわした髪の毛が妖精のようで愛らしいので、ハーフアップにしましょう。サイドを編み込んで小さな飾りを付けたら素敵です」
4人の勢いに圧されながら、メリナは何とか「はあ」とか「そうですか?」などと相槌を打っている状態だった。
(こんなに褒められるなんて……褒められてるよね?)
こんな美少女たちに褒めされると何故か疑う気持ちが出てきてしまうのは何故だろうと不思議に思う。
もちろんメリナ自身も自分のことはヒロインだから可愛いとは思っていたが、あくまでも市井の小娘、実際に貴族である彼女たちには敵うはずもない。
こうして性格もよくて美しい4人を見ていると、そりゃあ攻略対象たちもあか抜けない小娘を相手にするわけないと冷静に思える。
なのに、そんな風に言ってもらえるなんてと頬が熱くなるのを感じた。
「照れます……」
赤くなった頬を隠すように紅茶に口を付けるメリナを、4人は微笑ましそうに見ていた。
「ゲームではデート服なんて選べないでしょう?どうせなら私たちの手で可愛くしてあげたかったんですの」
「ありがとうございます」
最後にフローレンスが言うと、メリナははにかみながら感謝を伝えた。
そして、一息ついたところで洋服選びが再開されたのであった。
何とか服装などが決まったメリナが屋敷を出る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
歩いて帰ろうとしていたメリナを引き留めて、馬車で送ってもらえることになってメリナは恐縮した。
こんな平民の住む所に明らかに貴族の馬車が走るのを見て、誰もが家から出て様子を伺われていて、家に着くとまさか自分の家の前に止まるとは思ってもみなかった母親が、卒倒しそうになっていた。
その馬車からメリナが出てきた時には、本当にひっくり返りそうになっていたものだから、メリナは慌てて母親に駆け寄った。
「め、メリナ……!一体どういうことなの!?」
「お友達の馬車で送ってもらったの」
慌てる母親ににっこり笑ってそう伝えると、やっと安心したように息を吐いた。
御者にお礼を言って家に入って、友達の家に遊びに言っていた、と説明すると、母は驚きつつも喜んでくれた。
貴族だらけの学園で上手くやっているのかとずっと心配していたらしい。まさか貴族と友人になるとはつゆとも思っていなかったようだが。
いろいろあって疲れたメリナは、夕食もそこそこにベッドに入る。すると、今日の出来事が一気に蘇ってきた。
(クラウス様とデートができるなんて)
何だか夢見心地だった。
クラウスとデートができることも、フローレンスのとんでもなく大きいお屋敷にいったことも、まるで現実感がない。
でも、今日のことは間違いなく現実だ。
デートに言った時には絶対にハンカチを返して告白をするのだ。それを逃してしまったらもう機会はないだろう。
メリナは覚悟を決めて、天井に拳を突き上げた。
「絶対成功させるぞ!」




