23 ヒロインなのに流されちゃいます!
色とりどりの素敵なドレス、髪飾り、化粧品。それらが一面に置いてある部屋の真ん中にメリナは立っていた。
いや、立たされていたというのが正しいかもしれない。
周りにはいつもの4人がいて、メリナを囲んでいる。
その手にドレスやワンピースを持ち、ああでもない、こうでもないと話し合う4人にメリナは戸惑い固まっていた。
(何でこうなっちゃったんだっけ?)
「メリナちゃん前向いて下さい〜」
遠い目をしていると、ユリアに怒られてしまい、メリナは目の前にある大きな鏡に目を向けた。
そうすると4人はメリナに服を当てがいながら、ああでもない、こうでとないとまた談義を始めた。
長くなりそうだ、と感じたメリナは鏡は見たまま遠くへと意識をやったのであった。
――――――
事の発端は、クラウスのハンカチだった。
お茶会でハンカチを返すついでにプレゼントと告白をすることを決意したメリナ。
しかし、クラウスの好む物が分からず、プレゼントの段階で躓いてしまった。
考えた結果、好みではない物を渡されては扱いに困るだろうと、消え物である食べ物を渡そうと思ったのだが、貴族が好んで食べるような物は高すぎてメリナには買えない。かと言って手作りは悪手な気もする。
そもそも告白もどこでどうやってすればいいのかが悩みどころだ。
学園でクラウスと一緒に行動するのは昼食くらいで、そこで告白するなんて雰囲気もへったくれもない。では裏庭に呼び出すのか?今更裏庭に呼び出すなんて怪しすぎないか?
そんなことをいろいろ考えていたために、メリナはまたもやハンカチを返すタイミングを見失っていた。
「……さん、メリナさん!」
「はっ」
メリナは考え込み過ぎたせいでクラウスの声が耳を通り抜けてしまっていた。
何度か呼ばれたことで我に返ると、メリナはクラウスを見上げる。いつの間にか授業が終わっていたようで、席に着いているのはメリナだけだった。
クラウスは動かないメリナを見てわざわざ声をかけてくれたらしい。
「大丈夫?何かあった?」
心配そうな顔で覗き込んでくるクラウス。たった今クラウスのことを考えていたこともあって、メリナは頬が熱くなるのを感じた。
「大丈夫です!ちょっと考え事してて!」
クラウスが直視出来ず、赤くなった頬を隠すために、目の前で手をぶんぶんと振る。
そんなメリナの様子を不思議に思いながらも、クラウスは「それなら良かった」と安心したように息を吐いた。
(あなたにどうやって告白しようか考えてたんです)
そんなこと言えるはずもなく、メリナは誤魔化すように笑った。
「さぁ、帰ろうか?」
「はいっ!」
クラウスが手を差し出してくれる。その優しさに嬉しくなりながら、メリナは手を取って立ち上がった。
「ーーあ、いたいた!」
その時、教室へクリスティーナとフローレンスが入ってきた。
メリナを見つけるなり近付いてくる2人。
「クリスティーナ様にフローレンス様、一体どうしたんですか?」
突然どうしたのだろうと、首を傾げて問い掛けるメリナに、クリスティーナがはにっこりと微笑んでその手に持つ物を見せた。
「あ!歴史の教科書!」
「そうそう、今日兄様に貰ったんだ」
それは、メリナが嫌がらせで水没した歴史の教科書と全く同じ物であった。受け取って裏表紙を見ると、そこにはクリスティーナの兄であるグレンの名が書いてある。
クリスティーナの兄がお下がりでくれると約束していた物を、持ってきてくれたらしい。
「ありがとうございます!これで授業が受けやすくなります」
本を受け取ると、大事そうに胸に抱えてお礼を言うメリナ。
「遅くなってごめんね。兄様、騎士団にいるから忙しくって」
「全然遅くないですよ!嬉しいです!」
「良かったですわね」
そうやって3人が和やかに話していると、クラウスが控えめに口を挟んできた。
「それは?」
お下がりのことをクラウスには言っていなかったので、メリナは歴史の教科書が見辛くて困っていたこと、お下がりで貰ったことを説明をする。
するとクラウスは納得したように頷いた。
「そっか。勉学に支障をきたしてはいけないし、良かったね」
「はい!」
「……」
良かったねと言いつつ、クラウスは浮かない顔をしている。どうしたのだろうと不思議に思っていると、それに気付いたクラウスは眉を下げた。
「僕が何か出来れば良かったなと思ったんだ」
その言葉にメリナは驚く。つまり、お下がりを自分が渡したかったということだろうか。
だが2人は学年が一緒なのだから、無理な話だ。
それに、クラウスにはもう充分してもらっている。
「クラウス様がお友達になってくれたから、私は今すごく楽しいんですよ。私はそれが一番嬉しいです」
太陽のような笑顔を浮かべるメリナに、クラウスは目を細めて「ありがとう」と言った。
2人はお互い微笑んでいて、その雰囲気はフローレンスとクリスティーナまで穏やかな気持ちにさせる物だった。
「ーーそうですわ!」
「えっ、何?」
しかし、フローレンスが突然声を上げたことでその雰囲気は壊れてしまう。夢から叩き起こされたような衝撃にクリスティーナは驚きの声を上げた。
メリナとクラウスも揃ってフローレンスを見ると、フローレンスは名案を思い付いたと言わんばかりに胸を張った。
「2人でお出掛けになったら如何でしょう?」
「お出掛けに?」
おうむ返しするメリナに、フローレンスは大きく頷いた。
「ええ。折られたペンもあったのでしょう?クラウス様が何かしたかったと仰るのなら、プレゼントして頂いたらいかがかしら?」
「なるほど!いい考えね!」
フローレンスの提案に、クリスティーナも手を叩いて賛同した。
メリナは驚いて首を横に振る。
「そんなのダメですよ!」
「そうかな?僕は良い考えだと思うな」
「えっ?」
しかし、当のクラウスもフローレンスに賛同するものだから、メリナはまた驚いた。
そんなことしてもらえない、とクラウスに言っても「僕がしたいんだから気にしないで」と取り合って貰えず、メリナを除いた3人でとんとん拍子に話が進んでいってしまった。
結局、3日後の休日の日に、2人で出掛けることとなり、メリナは急展開に頭が追いつかない。
「そうと決まれば行こう!」
「そうですわね。私の家でいいかしら?」
「うん!パルテナとユリアも呼ぼう!」
「どういうことですか?」
更に、2人はフローレンスの家へ行くことを決めてしまい、その行動の早さにメリナは話から置いてけぼりになってしまう。
「それではクラウス様、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
「ええ。メリナさんもまた明日」
「は、はい。さようなら!」
フローレンスとクリスティーナが優雅に挨拶をすると、あれよあれよという間に2人はパルテナとユリアを呼び、メリナを馬車へと押し込めるとダレントラン邸へと連れ去ってしまった。
ダレントラン邸に連れ去られたメリナは、まずその大きさに驚き、次に迎えのメイドの数に驚き、最後に用意されたドレスの多さにひっくり返りそうになった。
どうやら、お出掛けの服を貸してくれるようで、今からそれを決めるのだと言われた。
メリナは急展開の連続に付いていけず、思わず遠い目をしてしまったのであった。
そして、冒頭へと戻る。




