21-3
「なっ……嘘ですわ……」
周りは煙に包まれているのに、そこだけ煙がない。
そして、そこに立つメリナも傷一つ付いていなかった。
それが示す事実とは、メリナに完全に防がれたということ。
「モンペルト様、それで終わりですか?」
「な、何を……」
メリナはにこりと笑みを浮かべ、カリーナへと一歩踏み出す。
カリーナは反射的に一歩下がってしまった。そのことに自分で気付き、足を踏ん張ろうとする。
「あ、足が……!」
しかし、魔力を使い果たしたカリーナは体力も気力も消耗していて、ふらつき足が縺れてしまった。
そのなカリーナをよそに、メリナはにこにこと笑いながらゆっくりと近付いて来る。
あれだけの攻撃を受けて尚、余裕そうに笑うその笑顔にカリーナは背筋が凍った。
『光よ。矢になり射れ』
そこにメリナの呪文が響く。
それは、カリーナが一番初めに唱えた呪文とほぼ同じだった。
空中に魔力の光が集まり、無数の光が矢となったかと思うとカリーナに降り注ぐ。
「きゃーーー!!」
カリーナは防ぐ手立てが無く、蹲って頭を抱え込んだ。
光の矢はヒュンヒュンと音を立ててカリーナの周囲の地面に突き刺さる。
「うふふ、まぐれですかね?」
自分に刺さらなかったことに安堵していると、メリナの笑い声が聞こえてくる。
(ば、馬鹿にして……!)
意趣返しだとでもいうのだろうか、カリーナが言ったことを返してくるメリナに怒りを感じる。しかし、言葉は出てくることがなかった。
本能が危険だと叫んでいる。体は恐怖で震えていた。
『全てを照らす浄化の光よ。我が声に応えよ』
呪文を唱えながら近くメリナ。その呪文にカリーナは血の気が引くのを感じた。
それは上級魔法の呪文だ。カリーナと同じようにぶつけてくるつもりなのだろうか。
(私は伯爵家の娘よ!出来るはずがないわ!)
心の中ではそう思うが、メリナは歩みを止める気配も魔力を練るのを止める気配もない。
「――お願い……!止めて!」
メリナは本気で攻撃をぶつけてくるつもりかもしれない。
そう思うと咄嗟に懇願の言葉が出てしまった。
腰も抜けてしまい、カリーナは座り込んだまま、力の入らない足を何とか動かしながら後退りする。
「私が悪かったですわ!もう嫌がらせしませんわ!だから……!」
なりふり構っていられず、プライドを捨てて必死で謝罪をする。しかし、メリナから笑顔は消えていて、尚も迫ってくる。
魔力もどんどん高まっていき、もう発動まで猶予はない。
「教授……助けて」
頼みの綱の教授を探すが、未だ煙に遮られていて姿が見えない。もしかしたらこの状況にも気付いていないのかもしれない。
今にも発動されそうな程に魔力は練られていて、メリナの周りは光り輝いている。
その膨大な魔力に、カリーナは初めて後悔をした。
(きっとこの時を待っていたのね……)
平民が貴族に逆らうことは許されない。だから、自分を挑発して周りから見えないようにして、事故に見せかけて消すつもりなのだ。
そして、それを可能にする程の魔力があるということを隠していた。
(この私が負けたの……?)
遂に敗北を認めた時、メリナの呪文を完成させる声が聞こえた。
『光よ!』
その瞬間、辺りが強い光に包み込まれた。
目を開くことが出来ないほどの強い光に、どの生徒も手で目を覆っている。
光が止むと、やっと教授が正気に戻り風魔法で煙を払っていく。
そこで教授が見たものは、地面に倒れこんで呆然としているカリーナと、その前に突っ立っているメリナだった。
「一体何が……」
カリーナが上級魔法を発動させたはずなのに立っているのはメリナ。その状況に誰もが目を丸くした。
「教授!」
「メリナさん、一体何があったんじゃ?さっきの光は?」
教授が円に踏み込んできたのを見て、メリナは傍へ駆け寄った。
そして、前もって用意していた答えを言う。
「あまりにも恐ろしい攻撃が続いて、私怖くて……ただひたすら盾に魔力を込めては展開してを繰り返していたんです」
両手を合わせて目をうるうるとさせるメリナはさすがヒロインというべきか、まるで子犬のようだった。
やっと衝撃から抜け出したカリーナは、メリナがしゃあしゃあと嘘を吐くのを信じられない気持ちで見ていた。
しかし、反論しようにも体が震えていて言葉を発することすら出来なさそうだ。
「最後に力が抜けたと思ったら煙が消えて……目の前にモンペルト様が倒れていたんです」
「ふむ……。何か変わったところはないかね?」
「少し力が抜ける感じがします」
メリナが答えると、教授はふーむと髭を触りながら何かを考えるそぶりをした。
そして、カリーナとメリナに目をやると一つ頷いた。
「最後のは魔力を放出した光だったのじゃな」
そう結論付けて、今度はカリーナへと足を向ける。
カリーナは地面に倒れ込んだせいか制服は砂埃にまみれていて、自慢の巻き髪も乱れてしまっている。
気の毒そうな目線を向けると、教授は補助として待機していた他の教授に、カリーナを医務室へ連れて行くよう指示を出した。
カリーナはそれに抵抗せず、しかし、決して手は借りずに自分で何とか立ち上がり、教授に付き添われながらふらふらと歩いて行った。もしかしたら、伯爵令嬢としてのカリーナの最後のプライドだったのかもしれない。
「何故カリーナ様があのような姿に……」
「あれだけの攻撃を全て防いだのか?」
「カリーナ様は負けましたのね」
その姿を見て周りは好き勝手なことを言っている。だが、明らかにメリナを傷つけようとしていたカリーナがぼろぼろになった姿を見て、メリナに手を出そうと思うほど心臓の強い者はいないだろう。
こうして、何とも呆気なくメリナとカリーナの戦いは終了した。
「お疲れ様。頑張ったね」
「クラウス様!ありがとうございます!」
「次はクラウス様の番ですよね?」
クラウスがそうだと言う前に、教授にクラウスともう一人の名が呼ばれた。
メリナは円に進むクラウスへ声を掛けた。
「応援しています!」
「ありがとう」
戦いは呆気ないほど直ぐに終わってしまった。その様子は対戦相手がかわいそうになるくらいであった。
相手は火魔法を使ったのだが、クラウスの風魔法に歯が立っていなかった。
カリーナ程では無くとも、それなりの魔法を使っていたのにも関わらず、クラウスはそれ以上の魔法で吹き消してしまった。何を放ってもかき消されてしまい、直ぐに戦意喪失してしまい、そこで戦いは終わった。
(す、すごい。相性最悪のはずなのに……)
本来なら風は火の勢いを強くしてしまうはずなのに、まるでろうそくを吹き消すかのように簡単に消していた。
ただの風魔法だけなのか、それとも何か他の属性との混合魔法なのか、それすらメリナには分からなかった。きっとこの中で分かっているのは教授だけであろう。
(クラウス様かっこいい……!)
一見地味な容姿のクラウスが相手を瞬殺してしまったのは大きな衝撃だった。
しかし、メリナはますます惚れ直してしまうのであった。
カリーナに仕返しは出来たし、クラウスのかっこいい姿は見れたしで、メリナは満足げだった。…
こうして、魔法実技の試験は無事終了したのであった。




