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試験は滞りなく進んでいった。怪我人なども特に無く、問題なく終わっていく。
どうやら勝負がついたと判断されたり、危険がありそうであれば教授が間に入るようだ。
貴族の子息令嬢が多く通うので、怪我などのトラブルが無いようにするのも当然のことだろう。
「次はカリーナ・モンペルト対メリナ」
「はい」
残り二組となったところに、遂にメリナとカリーナの順番が来た。返事をして前に進み出る。
試合をする場所は、教授が魔法で描いた円の中で行われていた。
メリナは円の中心に立ち、カリーナと向き合う。
(遂にこの時が来たわ!)
そもそもこの組み合わせは、カリーナと戦うためにメリナが仕組んだものだった。
仕組んだと言っても、メリナがしたことは魔法のコントロールを完璧にすることと、試験のペア決めで何もしないこと。それだけだった。
誰もペアを組んでくれないメリナが、わざわざカリーナの近くで落ち込んでいる。
それを見逃すカリーナではないと思っていた。
仮に向こうから話しかけてこなくても、こちらから挑発しに行けば乗ってくるだろうことは予想していた。
(拍子抜けするくらい簡単に引っ掛かってくれたわね)
ここからはメリナの腕にかかってくるのだが、フローレンスたちが応援してくれて魔法のコントロールの練習に付き合ってくれたお陰でかなりいい腕をしていると思う。
カリーナの情報も集めてくれて、感謝しかない。
この計画で一番大変だったのはクラウスの説得だった。
ゲームのことを話すわけにはいかないので、何故実技内容を知っているのかを考えなくてはいけなかったし、かなり心配して難色を示されたのだ。
情報源は兄がいるクリスティーナということにしてもらい、ここが大事なのだと説得することで何とか納得をしてもらった。
ここで失敗したら、恐らくクラウスが出て何かしらの手を下すことになるだろうと思うと、メリナは自分が頑張ろうという気持ちになれる。
「何をぼんやりしているのかしら。恐怖心で何も考えられないのかしら?」
決意を新たにしていると、向かい合ったカリーナが声を掛けてきた。
勝負を前にしても緊張の様子を見せないメリナに怒りを燃やしていて、その額には青筋が立っている。
「あ、すみません。考え事をしていました」
神経を逆立てるためにあえて言われたのと反対の言葉で返す。
相手が怒って危ない魔法を使えば使うほど、メリナの反撃もしやすくなる。
カリーナの顔を見れば、さらに恐ろしい表情になっていた。
「死にたいようね……」
(こわっ……殺すつもりで来るってこと?)
カリーナが呟いた言葉が耳に入ってきて身震いする。
どれだけ平民を下に見ていたら、軽々しくそんなことを口にできるのだろうか。
それとも、ただメリナを潰したいと思うほど彼女のことが嫌いなのか。メリナはすごく不思議だった。
(教授に止められることもあるかもしれないのに。ただの実技試験でそんなことができると思ってるのかな?それとも、平民相手には止めないとでも思ってるのかな)
そんなことを考えていると、教授が円の外で声を掛けてくる。
「そろそろ心の準備は出来たかね?」
「はい」
二人が返事をすると、教授は一つ頷いた後、手を上げる。
「それでは……始め!!」
開始の合図を出すと、カリーナからピリピリとした魔力を感じた。
早速攻撃を仕掛けてきたようだ。
『炎よ。矢になり射れ!』
『盾!』
カリーナが呪文を唱え終えるのと、メリナが唱え終えるのは同時だった。
炎の矢が三本出て、勢いよくメリナに向かう。しかし、炎の矢はメリナが出した光の盾に当たり、バチンと音がしたかと思うとそのまま消えてしまった。
「なっ!」
おおっと周りからどよめきの声が漏れる。
メリナはたったの一言で光の盾を作り出し、炎の矢を防いでしまった。
魔力を練るのは集中力が必要で、そのために呪文も長くなっていく。そのため魔法師同士の戦闘では、如何に早く正確に魔力を練り、呪文を唱える隙を作るかが重要になってくる。
だからこそ、カリーナは開示の合図の直後に呪文を唱えた。
しかし、メリナは前世でいろんな魔法物を見てきたからか、イメージすることが上手く、魔法を練るのがとても早い。
それに加えて魔力量も非常に多く質が高いので、少しの魔力でもカリーナの攻撃を軽々と防いでしまった。
転入生で平民のメリナがそこまで出来ることに、周りの生徒たちは動揺していた。
「この……まぐれで防げたからって調子に乗るんじゃありませんわ!」
カリーナが怒りの声を上げて、次々に呪文を唱えては攻撃を放ってくる。
さすがに伯爵家の出なだけあって、魔力量が多く、全然疲れた様子は見られない。
それに、なるべく短い呪文の攻撃にすることで、メリナに盾以外の魔法を出させる隙を与えないつもりだ。
(結構強い!)
メリナはカリーナの予想以上の猛攻に驚く。
取り巻きを連れているだけあって、カリーナは強かった。
前情報で、魔法が得意だと聞いていたので強いとは思っていたが、ここまで魔法を連発されるとはメリナも思っていなかった。
しかし、メリナはフローレンスたちに練習を手伝ってもらった時に、実戦形式もしている。
彼女たちも前世の記憶のためかメリナと同じで、魔力量に差はあれど魔法の発動時間は早く、それに慣れたメリナにはまだ余裕があった。
「消し炭にしてやりますわ!!」
全て防がれたことで頭に血が上り切ってしまったのか、カリーナは般若のような形相で叫んだ。
そして、今までで最大の魔力を練りだすのを見て、メリナはさすがにただの盾だけでは防げないと自身も魔力を練る。
『全てを燃やし尽くす灼熱の炎よ!我が声に応えよ!!』
カリーナの唱える呪文は上級魔法の一つだ。彼女が使える唯一の上級魔法。
その威力は恐らく人に当たればただでは済まない。しかし、頭に血が上ったカリーナには、最早メリナを消すことしか考えていなかった。
メリナとカリーナは先程連発していた炎の煙に取り囲まれていて、教授は上級魔法が発動されそうになっていることにはまだ気付いていない。
魔力が炎となってカリーナの周りを取り巻くと、カリーナは最後の仕上げだと言わんばかりに声を張り上げる。
『一片も残さず焼き尽くせ!!』
「いかん!」
そこでやっと上級魔法が発動されたことに気付いた教授が叫んだ。しかし、気付いた時には既に遅い。
轟音が辺りに響き、煙が立ち込める。メリナの姿は見えない。
誰もが今起きたことに衝撃を受け、一言も発することが出来ないでいた。教授でさえ言葉を失っている。だが、カリーナだけは違った。
「な、何ということを……」
「ふふ……ふふふふふ!おーほっほっほっほ!平民風情がこのカリーナ様に立てつくからよ!」
メリナに直撃したことを確信し、沈黙を切り裂くほどの高笑いを上げるカリーナ。
元々魔力を多く使ったところに、最後に使える分の魔力全てを絞って魔法を発動したためかなりふらついてはいた。
しかし、あの生意気な平民を灰に出来たと思えばそれも惜しくはないと思う。
完全に勝利に酔いしれてて、笑いが止まらない。
「おーほっほっほっほっ!炭も残っていないかしら!?」
煙は未だにもうもうとして辺りを埋め尽くしていた。
早くあの平民の末路が知りたいと煙を払って近づいてくと、不意に煙が晴れた。
そして、目の前には無傷のメリナが微笑んみながら佇んでいたのであった。




