21 ヒロインなので知ってます!
晴れ渡る空を見上げながら、メリナは魔法の訓練場で両手を上げ背伸びをしていた。
(う~ん!今日は魔法日和ねっ)
今日は魔法実技の試験日で、訓練場にはクラスの生徒全員が集められている。メリナは魔法が存分に使える今日この日をとても楽しみにしていた。
周りでは生徒たちが今から始まる試験について話し合っていた。
何しろ、この魔法試験は一年に一回しか行われない。
その結果次第では魔法実技の成績がぐんと上がり、継ぐ爵位を持たない者には魔法師団からの誘いが掛かるかもしれないという特別な試験なのだ。
「静粛に!」
そこに、魔法実技の教授が現れた。
白いひげたっぷりと蓄え、頭にはとんがり帽子を乗せて黒いローブを着た、如何にも魔法使いという格好をしたおじいさんである。
そんな教授の一声で辺りは静まり返った。
「今から魔法実技の試験を行う。試験の説明をするのでしっかりと聞くように」
良く通る声で話す教授に、生徒たちが意識を集中させると、説明が始まった。
「三年間通い、皆は十分に魔法の使い方を学んだことじゃろう」
そう言って生徒たちをぐるりと見回す。生徒たちの真剣な表情が目に入ると、一つ頷き「しかし!」と声を張り上げた。
「実戦で使えぬ魔法など魔法に非ず!貴族諸君は大戦になれば真っ先にその腕を試される。よって、今回の実技は魔法での戦いとする!」
その宣言に辺りは一斉にざわざわという話し声で包まれた。
メリナはと言うと、終始楽しそうに教授や周りの様子を見ていた。
というのも、メリナは魔法実技試験の内容を知っていたからである。
(ここでヒロインは魔力を暴走させちゃうのよね)
転入してしばらく経ったとはいえ、周りからは2年以上遅れているのだ
そこに、この試験があったことで、まだまだ魔法のコントロールが上手くないヒロインは魔力を暴走させるというイベントがあった。
ちなみに、このイベントでは一番好感度の高いキャラクターが暴走を聞きつけ、暴走を止めに来るというどきどきハラハラの物だった。
イベントは起きないというのは分かっていたがゲームと同じ場面を見られるのは純粋に楽しい。
(これが来るって分かってたから、魔力コントロールの訓練はしてたし暴走はしないはず)
カンニングみたいで申し訳ない気持ちもありつつ、暴走させる方が大変だし仕方ないと自分を納得させる。
教授は手を叩き騒めく生徒たちの意識を自分に向けさせた。
「静粛に!話はまだ終わっておらん!」
その言葉で周囲の興奮は収まり、もう一度話を聞く姿勢になった。
「これは魔法の技術力を見るためのものでもある。自分の限られた属性で、どのように立ち回り、相手の弱点を狙い、もしくは自分の弱点をカバーするか。属性によっては攻撃が出来ないものもいるだろう。そういう者は、どのようにして攻撃をしのぎ、身を守るか。そういった力を見させてもらう。自分の力の限りで戦うのだ!」
教授が高らかに話すと、周囲は興奮に包まれる。
それを見て、「決して勝ち負けを見るものではないぞ」と教授が言い足すと、明らかにほっと息を吐く者もいた。
商家の者は平民なので、貴族と縁を繋いで魔力を保持している者はいるがそう強いものではない。
また、貴族内でも魔力の差は大きいので、勝ちを競うものだと一握りの者しか高得点はもらえないだろうと思っていたのだ。
「さぁ、二人一組になりなさい。その相手との戦いを見させてもらうぞ。どんな人間と組むのかも、情報力が試されるぞ」
様々な反応を見ながら、教授は笑顔を浮かべた。そして、パンッと手を叩いたのを合図に、各々が組む相手を探し出した。
ある者は仲の良い友人と、またある者は自分の属性にとって有利な者を。
それぞれが思惑を持ってペアを組む。
しかし、メリナに組む相手はおらず、一人ぽつんと突っ立っている。
何しろメリナはクラスにはクラウスしか友人がおらず、他の生徒には避けられているので話しかけられる相手すらいない。
そのクラウスは既に友人らしき男子生徒とペアを組んでいて、結果的に一人になってしまっていた。
クラウスから心配そうな視線を感じたが、メリナはにこりと笑って大丈夫だと知らせた。
「あ~ら、一人で寂しいですわねぇ」
そこに、派手な髪の毛を揺らしながらカリーナが現れて、メリナは内心ほくそ笑んだ。
――――――
(こんなに上手くいくなんて笑いが止まりませんわ)
カリーナは自分の計画が思い通りに言ったことに、喜色満面の笑みを浮かべていた。
調子に乗った平民を懲らしめるために、カリーナは学園の召使いや取り巻きの令嬢たちを使って嫌がらせをさせていた。
召使いは平民で構成されているため、商家の出でもない平民のくせに、魔力があって貴族が多く通う学園にいるメリナに嫉妬を燃やす者は探せばいくらでもいる。
令嬢たちは身分の高く婚約者のいないクラウスと親し気にしていることに怒り狂っていた者を使った。
ただでさえ良い噂がなかったこともあり、メリナをもう一度孤立させるのは実に簡単なことだった。
クラウスもただの気まぐれだったのだろう。
自分を避けるメリナに飽きたのか、行動を共にすることは無くなっていた。
(――あらあら、かわいそうですこと)
魔法実技試験の日もメリナは一人だった。
頼みのクラウスも他の人間とペアになってしまい、他にメリナと組もうという人間など居るはずもない。
一人寂しく立っているメリナを見ていると良い気分になって、カリーナは話しかけに近付いた。
「あ~ら、一人で寂しいですわねぇ」
見下して話すカリーナにメリナは向き合う。おどおどしてカリーナに怯えているように見えて、内心笑いが止まらなかった。
その時、不意にあることを思い出した。
(確かこの女、聖魔法が使えましたわね)
聖魔法は、基本的に光魔法の上位互換だ。光魔法は身を守ったり身体強化を行ったりと後方支援系の魔法で、上級にならないと攻撃の魔法はない。
聖魔法はそれに加えて強い癒しの力を持っているという万能の魔法だが、それだけにコントロールも難しいと聞く。
メリナは転入してきて1年も経っていないのだ。大した魔法は使えまい。
そこに考えが至り、カリーナは内心ほくそ笑んだ。
(これはチャンスですわ)
今までカリーナは嫌がらせを自分の手では決して下してこなかった。
それは万が一、メリナがクラウスに助けを求めた時にのために逃げ道を残していくためだ。
たとえ自分に正当性があろうとも、相手は侯爵家の人間。その人物に嫌がらせをしたという事実だけで自分にも類が及ぶと考えていたので、周りを操ることで鬱憤を晴らしていた。
しかし、この試験ならば。
(私は火魔法、攻撃に特化していますわ)
試験という隠れ蓑に隠れ、手を下すことが出来るとカリーナは考えた。
平民の一人、まる焦げになろうと誰も気にしないだろう。それどころか、そこまでの力を持つ自分を皆が称えるに違いない。
「まだ相手が決まってませんのね。それならば私がなってあげましょうか?」
上から目線で話しかけると、さっきまでおどおどしていたはずのメリナは満面の笑みでカリーナを見た。
「本当ですか?困ってたんです!ありがとうございます」
カリーナはその笑顔に違和感を感じるが、この試験を受けられないと困ると思ったのだろうと結論付けた。
(何を笑っているのかしら。お前は今からこの私の魔法の練習台になるのに)
そう信じて疑わなかった。




