18 ヒロインなのにひどいです
いじめの描写があります。
苦手な人は気を付けて下さい。
「なに……これ……」
弁当の蓋を開けたメリナは驚愕した。
母親が作ってくれた特性のサンドウィッチ弁当。それが見るも無残な姿になっていたのだ。
サンドウィッチは踏まれたかのようにぐちゃぐちゃになっていて、さらに砂まで掛けられている。
「酷い……」
ただぐちゃぐちゃになっているだけだったなら、持ってくる時になってしまったのかもしれないと思っただろうが、その執拗なまでの汚し方は、メリナを傷つけようという悪意が込められていた。
「何でこんなことに……」
メリナは母親が作ってくれた大事な弁当に起こった惨事に頭が真っ白になった。
この弁当は、母親が仕事に行く前に、勉強を頑張るメリナのためにといって作ってくれている物だ。
母親の愛情がふんだんに詰まっているこの弁当に、一体誰がこんな酷いことを……と、怒りと悲しみに駆られた。
「……いけない、授業がはじまっちゃうわ」
しばらく呆然としていたメリナであったが、昼休憩は無限ではない。先程も理由があったとはいえサボってしまった手前、次の授業をサボる訳にはいかない。
とはいえこのまま弁当を捨てるなんてことは出来ないと、メリナは池へ向かった。
裏庭にある小さな池。メリナはそこにいる魚にたまに餌をあげていたのだ。
メリナが近付くと魚が池の表面から顔を出し、早くくれと言わんばかりに口をパクパクとさせている。
メリナがパンから砂を払い、小さく千切ってから池に投げ入れると、直ぐに魚の口に消えていった。
「……?何あれ」
不意に、視界の端に何かが移りそちらを見ると、池に何かがぷかぷかと浮いている。
不思議に思って池の淵に沿ってそちらへ行く。
「これって……」
そこに浮かんでいたのは本だった。表紙が上を向いていて、歴史の教科書だということが分かる。
嫌な予感がしてメリナは本に手を伸ばす。幸い、本は手の届く範囲で浮いていた。
濡れてはいるが、文字はまだ判別できる状態だった。
ドキドキと心臓が脈打つのを感じながら、メリナは裏表紙を見た。
(――私の教科書だ)
そこにはしっかりとメリナの名前が書いてあった。
「私、もしかしていじめられてる?」
メリナは重大な事実に気付いてしまったのであった。
――――――
そこからは散々な日々だった。
朝教室に行けば机にごみが乗っていたり、椅子に粘着質の何かが置かれていたり。帰りに靴を履こうとすれば、中から針も出てきた。歩いているときに上から植木鉢が落ちてきたこともあった。
まるでいじめのフルコースのそれに、メリナは辟易していた。
(このいじめしてる人も転生者なんじゃないの……)
そう思うくらい、テンプレートないじめが続く。
しかも質が悪いのが、人に気付かれないようにすることだ。
移動教室から帰ってきた際や、一人になった時に密かにいじめられているのだ。
クラウスにバレたくないと思っていることが分かっているのか、遠慮は全くもって感じられない。
さすがにこれ以上教科書を汚されては困るので、メリナは鞄を持ち歩くようになった。
ちなみに池に落とされた教科書は、家で日干しして最後に重しで皺を少しでも伸ばして、何とか使っている状態である。
恐らくこの教科書を池に落としたのは、メリナがよく裏庭に行くのを知っているからだと思われた。
(まぁ、犯人は見当つくわ)
犯人はカリーナだろうとメリナは考えていた。裏庭にメリナがよく行くのも、自分の侍女にでも探らせれば直ぐ分かることだろう。
クラウスが知ればきっと助けてくれるだろう。しかし、迷惑をかけたくなかったメリナは、何でもないように振舞っていた。
「うわっ」
考え事をしながら廊下を歩いていると、突然足に何かが引っ掛かりバランスを崩す。
あわや転倒というところだったが、何とか踏ん張って事なきを得た。
(何なの?もう!)
原因に目をやると、そこには何もない。しかし、傍には令嬢が数人立っていた。おそらくカリーナの取り巻きたちだろう。
「何もないところで躓くなんて間抜けね」
「ふふふ」
「笑ってはかわいそうですわ」
「そうですわね」
扇で口元を隠した顔を寄せて、くすくすと笑う令嬢たち。目線はしっかりメリナを向いていて、誰のことを言っているかなど一目瞭然だ。
明らかにこの令嬢たちの内の誰かが足を引っ掛けたのだろうが、メリナは何も言わずにその場を立ち去った。
(本当に幼稚よね。変なところに当たって足でも怪我すればいいのに)
しかし、重なるとさすがに苛々してきて心の中で令嬢たちを罵倒する。
最近はクラウスやフローレンスたちと仲良くなれたからか、しおらしくなっていたメリナであったが、腹が立つことがあると叫んだりぐちぐち言うところは変わっていなかった。
「あ~、クラウス様やフローレンス様と一緒にお昼ご飯が食べたい……」
自分でも苛々していることを自覚して、癒されたいと切実に思うメリナ。
クラウスと仲良くなった日から、たまにクラウスやフローレンスと昼食をとっていたメリナだったのだが、最近はその機会がない。
正確に言えば、誘ってもらっても断っているのだ。
メリナだって本当はみんなと食事をしたいと思っている。しかし、そうなると常に鞄を持ち歩いていることや、周りを気にしていることがばれてしまう。
嫌がらせを受けていることも隠し通せる気がしなくて、今はみんなを避けてしまっていた。
「本当は断りたくないのに~」
はあ、とため息を吐いて鞄に目を向ける。そこには今日も弁当が入っていて、一人裏庭にいくところだった。
そんな時に絡まれて、更に一人寂しく弁当を食べるなんて……とまたため息が出てしまうのであった。
「何を考えているんだトリスティ」
その時、廊下の角から聞き覚えのある声と名前が聞こえて、メリナは足を止めた。
何だか見覚えのあるその場所に、メリナは心臓がどきどきと嫌な音を立てるのを感じる。
盗み聞きはいけないと思いつつも、こっそりと角から顔を出して様子を伺う。
「何のことでしょうか」
そこには第一王子のレオンハートとクラウスがいて、メリナは咄嗟に角に引っ込んだ。
自分の黒歴史と好きな人というまさかの組み合わせに頭が混乱する。
(あの二人って知り合いだったの?)
侯爵令息のクラウスだから、レオンハートと顔見知りでも何らおかしいことはない。
しかし、緊迫した雰囲気に、仲良くおしゃべりする訳ではないのはメリナでも分かった。
「分かっているだろう?メリナという少女のことだよ」
そこに自分の名前が聞こえてきたものだから、メリナは心臓が飛び出そうになった。
まさか居ることがばれているのかと焦ったが、どうやらそうではないらしい。
何を話すのか気になってしまい、メリナは聞き耳を立てる。
「メリナさんのことですか。何のことやら……」
「しらばっくれるな」
穏やかな声でのらりくらりとかわすクラウスに、レオンハートは厳しい声を出した。
「君はあの少女と食事を共にしたり、何かと親しくしているらしいじゃないか」
しかし、そんな声音も気にせず、クラウスは相変わらず穏やかに「ええ、そうですね」と同意した。
すんなりと頷いたことに、メリナは嬉しくなったが、レオンハートは呆気にとられたようだった。
長くなったので分けました。
中途半端ですみません。




