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15-3



「そういえば」



 ふと思い出したようにクリスティーナが口を開いた。



「私たちは推しの婚約者に転生したんだけど、メリナは誰推しだったの?」



 その言葉に、まさか推しの婚約者になれていたなんて、とメリナは少し羨ましくなる。

 もし一人でも推しと違う人が婚約者だったらなら、彼女たちは仲良くなっていなかったのかもしれない。

 では自分はどうだろう?推しと上手くいっていない自分は……。


 そこまで考えて、はたと気付いた。



(私の推しって誰だ?)



 前世のプレイしていた時のことを思い出そうとして、メリナは「うーん……」と考え込む。



(王子から攻略しようと思ったのは特別好きだからってわけじゃなくて、一番人気だったからだしなぁ)



 思えば、絶対にこの人を攻略したい!という強い気持ちはメリナにはなかった。

 その結果、一人に狙いを定めて攻略していくのではなく失敗すれば次に行けばいい、と思って行動していた。そして最終的には全員に手を出して全員失敗してしまったのだ。


 つまり、メリナには押しはいなかったということになる。



「私は推しとか特になくて、皆好きだったというか……」



 気付いたことを言葉をにすると、四人は「あー……」と何とも表情をする。



「だから逆ハールートにいこうとしていたのですね」



 四人の心の声を代弁したかのようにフローレンスが言った。

 その少し呆れたような様子で、男好きだと思われてしまったとメリナは焦る。



「逆ハー狙ってたわけじゃないんですよ!ただ、1番人気の王子のイベント起こそうとしても起きないから、他の人なら起きるかなって思って。それなのに他の人たちも全然起きなくて意地になってたというか……」



 言葉を重ねれば重ねるほど墓穴を掘っているようでメリナは混乱してきてしまった。

 四人の婚約者の話であるため、余計に訳が分からなくなる。


 でも、この四人に男好きと思われてしまうのは嫌だった。



「ゲームの世界だと思っていたから、ロードするような気持ちだったんですぅ……」



 遂にメリナは半泣きになってしまった。

 それを見てフローレンスは「責めてる訳じゃありませんわよ!」とあたふたとする。



「何となく気持ちは分かります」


「ゲームだと思ってたんだし仕方ないよね!」



 パルテナとクリスティーナも慌てたように同意した。フローレンスは頭を撫でたりお菓子を進めたりして必死にメリナを慰める。

 三人のお陰で、メリナは少しずつ落ち着きを取り戻した。



「それに今はクラウス様がお好きなんでしょう~?」



 それには加わらず、ユリアがのほほんとした口調で入ってくる。



「何故それを!?」



 メリナはぎょっとした。


 クラウスが好きなことはフローレンスにしかまだ言っていないはずだ。もしかしてフローレンスが……?と目線をフローレンスに向けるが、首を横に振られてしまう。



「噂になってるんですよ」



 頭に(クエスチョンマーク)を浮かべるメリナに、苦笑しながらパルテナが教えてくれる。噂とは何のことだろうかと更に不思議に思うと、パルテナは言葉を続けた。



「今度はクラウス様に手を出している……と」


「手を出してるって……」



 愕然とするメリナに「もちろん違うことは分かっていますよ!ただの噂です」とパルテナは慌てて否定する。

 しかし、何故そんな噂が出るのだとメリナは頭を抱えたくなった。


 だが、考えてみれば、メリナはクラウスに衆人環視の中で話しかけに行ったり、昼食を共にしたりしていた。

 貴族ならまだしも平民の、しかも今まで王子たちに付きまとっていたメリナだ。目立って噂になるのも当然のことだった。 



「フローレンスから仲良く昼食を食べていたっていうのも聞きました」


「攻略対象じゃないのにそんなに仲良くなってるなんて、そういうことなのかなぁって思ったんです~」



 噂に加えて昼食の様子を聞いたから、メリナが好きだという結論に至ったのだろう。なるほどと納得すると同時に、自分の気持ちが人に知られていることに照れてしまう。

 ユリアは手を合わせてにこにこと笑った。



「結果オーライじゃありませんか~?誰とも被ってないですし!」



 そして、ほわんとした口調で言った。その平和な口調に、それもそうかと納得しかけて慌てて首を横に振る。



(ここはゲームの世界じゃないんだってば!そんな上手くいくはずないの!)



 流されそうになったが、どう考えても結果オーライではない。何せ、両想いどころかただの友人、そして身分は違いすぎるのだ。



「まだただの友達で、両想いじゃないですし……身分の壁もありますし……」



 どんどん声が小さくなっていくメリナ。言っていて全く恋が実る気がしなかった。



「えっ?両想いじゃないの?私はてっきりクラウス様もメリナを好きなのかと」



 そんなメリナにクリスティーナは驚いたように目を見開いた。驚いているクリスティーナにメリナの方も驚いてしまう。



「何でそんなことに!?ないない、絶対ないです!」


「そうなんだ?クラウス様って穏やかで優しい人なんだけど、令嬢と噂になることってないし、それどころか婚約者もいないからてっきり」



 『婚約者がいない』の言葉にメリナに喜びそうになる。

 今まで貴族ということに頭がいってしまっていたが、貴族なのだから婚約者がいるという可能性も考えなくてはいけなかった。

 もし婚約者がいたら友人にはしてもらえなかっただろう。そう思うと嬉しい気持ちが溢れてくる。


 しかし、嬉しそうな顔のメリナを余所に、四人は顔を見合わせていた。



「そうとなるとなぁ」


「ねぇ~」


「そうですね……」



 一体何だというのだろうとメリナは首を傾げる。

 四人は先ほどまで見合わせていた顔を今度はメリナに向け、しかも残念な物を見ているかのような目をしていた。



「ヒロインなのに攻略出来た相手0って悲しい転生ですわね……」



 言い放たれたフローレンスの言葉が、かなりの攻撃力を伴ってメリナの胸にグサっと刺さった。

 片や婚約者と良好な悪役令嬢、片や誰とも上手くいっていないヒロイン。この差は何なのだろうかとメリナは今度こそ項垂れてしまった。 



「で、でも最近は恋愛結婚も増えてますし、可能性は0では無いはずですわ」


「そ、そうだよ!私たちも応援するからさ!」


「いつでも相談して下さい」


「身分なんて後でどうにでもなりますわよ~!」



 言い過ぎたと全員でフォローを入れてくるが、全く立ち直れる気がしない。

 メリナは行儀が悪いと分かりながらも机に突っ伏していた。


 しかし、ユリアの『身分はどうにでもなる』の言葉に希望を見出して、突っ伏したまま顔だけ横に向ける。



「ちなみにクラウス様って身分はどのくらいなんですか?」


「侯爵令息ですわよ~」


「こうしゃく」

 


 しかし遂に知ることが出来た情報に、メリナは魂が抜けそうになった。

 高位そうだと思ってはいたが、フローレンスの次に高いではないかと諦めが湧いてくる。



「メリナちゃんは頭も良いですし、なんたって聖魔法使えるんですからその辺は大丈夫ですわよ~」


「貴族の養女になれば身分の問題はなくなります。それほど聖魔法は珍しいですからね」



 ユリアとパルテナの言葉に、クリスティーナが「そう!」と同意を示す。またもや希望が見えてきた!と顔を上げたメリナだった。が、次の言葉に現実を知り脱力してしまった。



「あとはクラウス様を落とすだけ!」



(だから……)  

 


「それが一番難しいんですってばー!」



 和やかなお茶会の席に、メリナの悲痛な叫び声が響いたのであった。





 翌日、教室に向かう途中で偶然クラウスに出会ったメリナ。



「どうだった?」



 挨拶もそこそこに、クラウスが心配そうに聞いてくる。

 それが何だか不思議でメリナは笑ってしまった。



「大丈夫ですよ!皆さんお話してみたら良い方達ばかりでした。すごく楽しくて、お友達になれましたよ!」



 教室に向かいながら、お茶会の様子を話す。転生などのことはもちろん話せないが、四人が如何にいい人で楽しい一時だったかを語ると、クラウスは真剣に聞いてくれていた。



「そっか、良かったね」



 話を聞いて良かったねと言ってくれるが、そう言いつつも心配そうな顔は変わらない。何故だろうと首を傾げるメリナだが、クラウスは困ったように笑うだけであった。


 メリナはこの時まだ分かっていなかった。

 高位の貴族達と仲良くなっていく平民のことを、他の貴族がどう思うのかを――。





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