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15-2



「――今まで申し訳ありませんでした!もう二度とあのようなことはしません」


 この謝罪はメリナのけじめだった。フローレンスは許してくれたが、だからといって他の三人に何も言わない訳にもいかない。だって、メリナが攻略しようとしていたのはレオンハートだけではなかったのだから。

 全員が婚約者と良好な関係を築いていたとクラウスに聞いた。しかも幼い頃からヒロインの存在を恐れていたのだ。それならば、メリナの存在は本当に嫌なものだったに違いないと、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 そうしてどのくらい頭を下げていただろうか。

 おそらく数秒のことだったのだが、メリナにはもっと長い時間に感じられた。



「頭を上げてください」



 斜め左からそう声を掛けられて、メリナは顔を上げる。声の場所からパルテナが発したのだと分かった。

 何を言われるかとドキドキしてしまい、メリナは顔が引きつっていた。



「フローレンスの話を聞いた時は何の冗談かと思ったんだけど」



 沈黙の中、ぽつりと呟いたのはクリスティーナだ。



「本当に反省してるみたいだね」



 クリスティーナはメリナを見つめてふっと笑う。その目には、怒りは感じられず、メリナは知らず知らずのうちに強張っていた体の力が抜けるのを感じた。

 そんなメリナと真っ直ぐに目を合わせてクリスティーナは言葉を続ける。



「あなたは学園に入ってすぐ記憶が戻ったと聞いたよ。私たちはもっと昔に思い出していたから、まさかそんな直前だと思わなかった」



 混乱したよね、と微笑みかけられて不覚にも涙腺が緩むメリナ。

 続いてパルテナが口を開く。



「正気に戻ったみたいで良かったですね」



 顔には儚い微笑みを浮かべていて、パルテナからも怒りは感じられなかった。

 そこに、のんびりした声が掛かる。



「お花畑が枯れてしまったんですわね〜」



 ほんわかした表情と口調で毒を吐くのはユリアだ。同じく怒っている様子は見られないので、素なのだろうが、その言葉はメリナの胸を突き刺した。

 しかし、彼女たちから見たメリナは、お花畑の住人だったということか。



(やっぱり、分かってはいたけどショックだわ……)



 自分の黒歴史が思い出されて、頭を抱えたいような叫び出したいような、逃げ出したいような複雑な気持ちになっていると、フローレンスの労わる声が聞こえてきた。



「メリナ、大丈夫ですか?皆さん、メリナが驚いてますわ」


(いや、すみません。驚いてるのではなく軽く絶望してます)



 思わず遠い目をしてしまうメリナ。

 すると、くすくすと笑い声が聞こえた。それも、四人分。 



「ごめんごめん!」



 遂に耐え切れなくなったのか、あははは!とクリスティーナは笑い声を上げた。

 その様子があまりにも貴族令嬢とはかけ離れていて、それがクリスティーナの素だということが感じ取れた。



「謝ってもらったんだし、もう前のことはもういいよ」


「私たちも全員で囲んでしまいましたしね~」


「それより同じ転生者なんです。仲良くしましょう」



 クリスティーナ、ユリア、パルテナの順にメリナに声を掛ける。誰も禍根が残っていないようで笑顔だ。

 それが有難くて、嬉しくて、メリナは笑顔になりながらも目尻に涙が浮かんだ。



「本当に……ありがとうございます!」



 そして、今日初めて五人全員で笑い合うことが出来たのであった。






―――――


 和やかな雰囲気になったとことで五人は改めてお茶会を始めた。


 フローレンスがさっと手を上げると給仕が来て、手早くお茶とお菓子を用意していく。

 メリナは失礼がないようにと、他の四人が手を付けるまでは待っているつもりだった。

 しかし、一番身分が高いフローレンスよりも先にユリアがお菓子に手を付け、その後も身分に関係なく各々お茶やお菓子を食していく。


 メリナは驚きに目を見開いたが、それに気付いたフローレンスに「私たちは転生者ですもの。前世では身分はなかったでしょう?」と言われ、彼女たちが身分を超えて本当の友達だということを理解した。 


 しかし、それは四人が差はあれど貴族だから成立することだ。平民のメリナには決して真似できないことだろう。メリナには四人の関係が素直に羨ましかった。



(いつか私も仲良くなれるかな)



 そう考えるのはおこがましいことかもしれない。でも、そう願わずにはいられなかった。

 


「――いやぁ、それにしてもシナリオが関係なくなって良かったね」



 全員が一息つくと、クリスティーナが口を開く。何でもないように話しているが、安堵しているのが感じ取られる表情だった。

 フローレンスと同じように、断罪されるかもしれないという恐怖心があったのかもしれない。


 クリスティーナの言葉にフローレンスが「そうですね」と同意する。



「あのままだとレオン様が何かしらの処罰を下しそうで怖かったですわ」


「えっ!」



 フローレンスの突然の爆弾発言に、メリナはお茶を吹き出しそうになった。寸でのところで止められて、周りに被害が出なかったことにほっと胸を撫で下ろす。


 それにしても、自分の行動がそれほど危ういものだったとは思いも寄らなかった。

 それくらい、レオンハートたちはメリナを疎んでいたということなのだろう。そう思うと冷や汗が出てくる。


 しかし、メリナの様子には気付かずパルテナが言葉を引き継いだ。



「かと言ってシナリオ通りに進めるわけにもいきませんでしたし……」


「そうですわね~。メリナちゃんの行動でたぶん転生者なんだろうな~っていうのは分かってたけど、シナリオ通りにすると勘違いしそうでしたし〜」


「うぐぅ……」



 ユリアの言葉がまたもや胸を刺す。あの時のメリナはヒロイン感で無敵状態(思い込み)だったので、ユリアの考えはあながち間違いではない。

 メリナの行動が攻略対象だけでなく、この四人も相当悩ませていたということが察せられて、頭が上がらない思いだ。



「放っといたら放っておいたでどんどん酷くなっていきそうだったしな」


「最終的に全員で行けばシナリオ通りではないし、牽制も出来るしってことでああなったんですわよね~」


「悪役令嬢っぽい口調が難しかったね」


(これ以上は勘弁して~!)



 クリスティーナとユリアのコンボでメリナはノックアウト寸前だ。

自分の黒歴史とそのせいで周りが被った迷惑を目の当たりにして、メリナはどんどん縮こまっていく。



「ご迷惑お掛けしました……」



 完全に縮こまって俯いていると、突然「ぷっ」

というお茶会にはそぐわない、何とも間抜けな音が響いた。

 かと思うと、あははうふふと和やかな笑い声が響く。


 恐る恐る顔をあげると四人は面白そうに笑っているではないか。

 何がそんなに面白いのかと首を傾げていると、クリスティーナが軽い調子で「ごめん、からかっちゃった」と言う。


 

「慌ててるメリナが可愛いくてつい!」


「意地悪しちゃいました〜うふふ」



 クリスティーナとユリアの言葉に、他のも二人も笑いながら頷いていて、メリナはやっとからかわれていたのだと気付いた。



「も、もう!」



 頬を膨らませて声を上げると、さらに笑い声が上がった。みんなとても楽しそうにしていて、メリナは怒ればいいのか笑えばいいのか悩む。

 しかし、次のパルテナの言葉にハッとした。



「これでおあいこですね」



 つまり、謝罪はしたものの、やはりどこか申し訳なさを感じていたメリナに対してわざとしたことであった。

 メリナのしたこととは全然釣り合いも取れないが、これ以上はもう気にするなという四人の優しさだったのだ。



「私たち、もうこれでお友達ですわ!」



 フローレンスの宣言に、他の三人が頷く。



「フローレンス様、パルテナ様、クリスティーナ様、ユリア様……」



 四人の優しさに気付いたメリナはまたもや涙腺が緩んでしまう。気を抜けば泣き出してしまいそうだった。


 クラウスは友人になってくれたが、やはり性別や身分の差が邪魔した。何よりメリナが恋心を抱いている以上本当の友人にはなれなかった。

 この四人も身分が違う以上、本当の意味で友人にはなれないと心のどこかで思っていた。


 しかし、そんなメリナの心の壁を四人は破ってきてくれたのだ。

 それは、転生者である四人だったからこそできたことかもしれない。でも、メリナは自分も仲間に入って良いと認められたみたいでとても嬉しかった。


 メリナはようやく自分の居場所を見つけることができたような気がした。





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