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15 ヒロインなのにお茶会に誘われました!




「おはようございます、クラウス様!聞いて下さい!」



 次の日、教室に入ったメリナは、直ぐにクラウスの元へと駆け寄った。



「おはよう。一体どうしたの?」



 メリナの勢いに圧倒されながらクラウスが問い掛けると、メリナは満面の笑みで答えた。



「私、新しいお友達が出来たんです!」



 メリナが告げると、クラウスは驚いたように目を見開く。



(うふふ、驚いてる!)



 今まで人と上手に関われなかったメリナに友達ができたことは、相当驚くことだったらしい。

 しかし、クラウスは優しく目を細めるとメリナを見つめた。



「それはよかったね。誰となんだい?」



 そうして微笑みながらメリナの頭に手の平を乗せるクラウス。

 その温かさに顔がにやけそうになるのを、表情筋を駆使して何とか抑え「それが……」とフローレンスの名を伝えようとした。


 その時――



「クラウス様、メリナさん。おはようございます」



 そこに現れたのはフローレンス・フォン・ダレントランそのひとであった。



「ダレントラン公爵令嬢。おはようございます」


「フローレンス様!おはようございます!」



 クラウスとメリナが同時に挨拶をする。


 何故ここに?という疑問が頭をよぎるが、それよりもフローレンスに会えた喜びが勝り、傍へ寄って行った。その姿はさながら主人に懐く小型犬のようだ。

 二人の仲が良さそうな様子を見てクラウスは呆気に取られた。

 しかし、これまでフローレンスとメリナの間にあったことを考えれば、無理もない話だろう。

 


「あ、私ったら、またお名前で呼んでしまって……」



 ふとメリナは名前は勝手に呼んではいけなかったことを思い出して焦る。しかし、フローレンスはふわりと微笑み「構いませんわ」と言った。


 その笑顔を目撃した生徒たちはざわつく。まさか平民にフローレンスが笑い掛けるとはどういうことだと口々に言っていた。

 フローレンスはそんな教室の様子に全く気を払うことなく、メリナと会話を続ける。



「そのまま名前でお呼びになって。私たちの仲ではありませんか」


「本当ですか!じゃあ、私のことも『メリナ』って呼んでください」


「ありがとうございます。メリナ」



 きゃっきゃという効果音が付きそうな程楽しげに話している二人を、驚きの表情で見るクラウス。その様子を視界に入れると、フローレンスはふふっとクラウスに笑い掛けた。

 二人の目が合うと、静かに火花が散る。



「あの、私たちお友達になったんです」



 そんな二人に気付きもせず、もじもじとしながら話すメリナ。しかし、その顔は嬉しそうにはにかんでいて、小動物を思わせた。

 メリナの言葉で教室はまたもやざわりとしたが、最早三人は気にも留めていない。


 クラウスは嬉しそうにしているメリナの手を取り、少し屈んで目を合わせた。



「君の友達は僕だけだったのにな。少し寂しいよ」


「寂しいだなんてそんな……」



 突然手を取られたメリナは、顔に熱が集まるのを感じた。屈んでいるためか顔も近く、直視することが躊躇われて視線を横にずらす。

 まるで嫉妬しているかのような言葉にも戸惑ってしまう。


 フローレンスはそのやり取りを意外そうに見ていた。



「あら、案外狭量ですわね」



 ぽつりと呟いた言葉は二人には聞こえなかった。



「そうですわ、メリナに用がありましたの。今度、私たちの茶会に貴女もいらっしゃらない?」



 ぽんと手を合わせたフローレンスは、思い出したように声を上げた。

 その言葉でクラウスから手を解放されたメリナは、嬉しいような寂しいような気持になりながらもフローレンスに向き直る。



「私なんかが良いんですか?」



 不安気に聞かれ、フローレンスは「もちろん」と微笑む。



「私たちお友達ですもの。それにまた話す機会もあるって言ったでしょう?みんなあなたとお話しするのを楽しみにしていますのよ」



 そう言われてしまえば、メリナは一も二もなく頷いた。



「是非行かせて下さい!」


「ではこれが招待状ですわ」

 

「はい!ありがとうございます!」



 フローレンスは招待状を取り出し、そっとメリナの手へ渡した。喜んで受け取ったメリナはその綺麗な封筒に瞳をキラキラさせる。

 それを見届けたフローレンスは、それでは失礼しますとクラウスに軽く一礼した。



「それではメリナ、楽しみにしていますわ」


「はい!」



 そして、メリナにも声を掛けると悠然と教室から出て行った。

 フローレンスがいなくなったことで、教室はようやくいつもの様子に戻った。



(すごい!転生者のお茶会に誘われるなんて!)



 招待状を握りしめてメリナは興奮していた。まさか、こんなに早く話す機会が来るとは思ってもいなかった。

 しかも、全員転生者だということは、前世の話をしたり≪学ロマ≫について話をしたり出来るということで期待は高まるばかり。



(でも、ちゃんと謝らなきゃね)



 楽しみにするだけでなく、婚約者に付きまとってしまったことはきちんと謝らなければと、拳を握って決意を固めるメリナだった。


 しかし、お茶会のことで頭がいっぱいになってしまい、ひそひそとメリナを見ながら話している周りの様子は一切目に入っていなかった。

 その視線に好意的な物は少なく、それに気付いたクラウスは心配そうに声を掛ける。



「メリナさん……本当に大丈夫?」



 クラウスのその心配そうな声音にメリナは驚いてしまった。



(また前の様にいろいろと言われるんじゃないかと心配してくれているのね!)



 貴族に平民が囲まれることになるのだから、クラウスが心配するのも当然だと言えた。クラウスはそういう場面を実際に目撃しているのだから余計に。

 もしかしたら今までの振る舞いについては怒られることもあるかもしれないが、前の様に全員で詰められることにはならないだろうとメリナは考えていた。楽観しすぎかもしれないが、もし前の様になるのならフローレンスはわざわざ招待状を渡しに来ないのではないかと思った。


 メリナは心配するクラウスの目を見て、安心させるように笑ってみせた。 



「もちろん大丈夫ですよ!」



 笑顔のメリナを見ても、クラウスの表情は浮かないままだった。

 一体何がそこまで心配なのかと聞こうとしたが、丁度授業の始まる鐘が聞こえて、結局聞けず仕舞いになってしまった。





――――――



「緊張するなぁ」



 招待状を携えたメリナは、学園の庭にあるテラスへと急いでいた。今日はフローレンスに誘われたお茶会の日である。

 今日悪役令嬢に転生してしまった令嬢たちに会えることになる。フローレンスとお茶ができることを楽しみにしていたが、他の令嬢たちに謝罪を受け入れてもらえるだろうかと考えると、同じくらい緊張もした。

 


 (大変!もう来てる人もいる!) 



 テラスが視界に入ると人影に気付く。焦って早歩きで近付けば、何と全員揃っているではないか。



「遅れてすみません!」



 遅刻してしまったと思ったメリナは、最後にはテーブルへと走っていた。

 走り寄ったメリナに目線が集まる。



「私たちも今来た所ですわ」



 しかし、肩で息をするメリナを咎めるでもなく、フローレンスは優しくメリナに席を進めた。礼を言いながらそこへ座り、メリナは息を整えた。

 メリナが落ち着くのを待って、フローレンスは口を開く。



「――皆さん、ご存知だと思いますがメリナですわ。私がご招待しました」



 そう言ってテーブルに着く令嬢たちを見回した。

 テーブルは円になっており、上座下座はない。メリナの左にフローレンス、右側にユリア、斜め左にパルテナで斜め右にクリスティーナが座っていた。


 前に取り囲まれた時はしっかり見ることが出来なかったが、ユリアはほんわか系、パルテナは儚い系、クリスティーナは熱い系、そしてフローレンスはクール系という、それぞれ違う美人だった。美人が勢揃いしているさまは圧巻で、メリナはほうっと感嘆の息を吐く。

 

 しかし、その中に自分が紛れ込んでいるということが途轍もなく場違いな気がしてきて、メリナは段々縮こまってしまう。



「メリナは皆さんに言いたいことがあるそうですわ」



 しかし、そんなメリナを余所にフローレンスはそう切り出した。

 嫌な話は先に終わらせてしまおうという魂胆なのだろか。それは分からなかったが、メリナは姿勢を正し、全員を見回すと勢い良く頭を下げた。



「――今まで申し訳ありませんでした!もう二度とあのようなことはしません」




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