11 ヒロインなのに違う人に恋しました
翌日。昼休憩に入ったメリナは鼻歌を歌いながらスキップをしていた。今からの昼食が楽しみで仕方なかったのだ。目的地である食堂に着いたメリナは、開け放してある扉を通る。
「――メリナさん、こっちだよ」
「クラウス様!」
そして人を探してキョロキョロと辺りを見回していると声を掛けられた。声の方を向くと、探し人であるクラウス・トリスティが座っているのを見つけた。
ここは学園内にある食堂で、ほとんどの生徒がここで昼食をとるためそれなりに混んでいる。
普段は裏庭で弁当を食べているメリナなのだが、昼食をクラウスに誘われたため食堂に来たのであった。
同じクラスのはずなのに何故一人で来たかというと、授業が終わった後クラウスがすぐにいなくなっていたからだ。一緒に行くのは貴族的になしだったのかもしれないと考えていたメリナだったが、クラウスはわざわざ早く来て席を取ってくれていたようだ。
「ごめんなさい!お待たせしてしまって」
「僕もさっき来た所だから気にしないで」
「ふふ、ありがとうございます」
席を取るために急いでくれたのだろうに、そうやってメリナを思いやる言葉を言うクラウスに笑みが溢れる。
メリナが礼を言いながら席に着くと、すぐに給仕が来て食事が用意された。
「うわぁ!すごい!」
初めて食堂に来たメリナは、その食堂の豪華さもさることながら、料理のクオリティにも驚いた。
そもそも、まだ席に着いて少ししか経っていないのに、もう料理が出るなんて……とその速さにも驚いた。
学園には貴族や裕福な商家の子息子女が多いため、当然の様に給仕がいて、当然のように美味しい料理が出される。他の生徒たちにとってはそれが普通のことなのだが、裕福でも何でもなく、母一人子一人のメリナにとっては別世界のようだった。
前世でも高級レストランでディナーやランチなんてしたこともない。
特待生のメリナは本来は食堂の利用も無償だったのだが、こんなにすごい所に一人で行くのは気後れしてしまい、一度も利用したことがなかった。
それに、ヒロインも弁当だったので同じようにしていたのだが、今は一人で来なくてよかったと心から思う。
「何だか料理が光を放っているように感じます……」
昼休憩に何時間も取れない上に人数もそれなりにいるため、料理自体は1プレートとスープ、そしてデザートというシンプルな物なのだが、高そうな肉に柔らかそうなパン、飾り付けまでもが一流の腕を感じて、直視できない光を放っているように感じてしまう。
メリナは本当に食べてもいいのかと悩んでしまうほどだった。
「本当に私なんかが食べてもいいんでしょうか?」
「もちろんだよ。さぁ、いただこうか」
「はい!」
クラウスがナイフとフォークを持って食事を始めると、メリナもそれに倣う。
この世界に「いただきます」や「ごちそうさま」という言葉は存在しない。
同じ席に着いた上位の者から順番に食べ始めるというマナーが存在するだけだ。それは家庭内でも一緒でこの場合は家長から食べ始める。家に二人しかいないメリナにはこのマナーはとても息苦しく感じて、余計に食堂に行くのを躊躇っていた。
しかしクラウスは自然に食事を始めてくれたため、メリナが戸惑うこともなかった。
「うわぁ!美味しい……!」
一口食べるとその美味しさにメリナは目を輝かせる。こんなに美味しいものを今まで避けていたなんてと思うほどの美味しさだったようだ。
そんなメリナの様子を見てクラウスは微笑む。
「喜んでもらえたみたいで嬉しいよ」
その笑顔にメリナも笑顔を返した。本来貴族と平民が一緒に食事をとることはないのだが、クラウスもメリナもそんなことは気にせず楽しく会話をしながら食事を続けた。
(ああ!本当に美味しい!母さんに持って帰ってあげられたらいいのになぁ。タッパーってないのかな?)
肉を口に入れるとその柔らかさに笑みがこぼれる。同時に、仕事をしている母親にも食べさせられたらいいのにという気持ちが湧いてきて、真剣にタッパーのような物で持って帰られないのだろうかと考えてしまうメリナ。
「ふふ」
「クラウスさん?」
考え事をしていると、突然笑い声が聞こえたのでそちらに顔を向ける。すると、クラウスが口を押さえて笑っていた。
メリナが首を傾げると「ごめんごめん」と言いながらも微笑ましそうな顔を向ける。
「幸せそうな顔をして食べていたと思ったら、今度は難しそうな顔になったから忙しそうだなって」
「え、そんな顔してましたか?」
「うん」
「うぅ……」
クラウスの言葉にメリナは驚いた。
好きな相手にじっくり見られていたことも、それに気付いていなかったこともとても恥ずかしくて、食事をする手がぎこちなくなってしまう。
そんなメリナとは反対に、クラウスは全く気にした様子も無く食事を続けていた。メリナはそんなクラウスをじっと見つめる。
(私のことなんて気にもしていなさそう)
クラウスは、乙女ゲームのヒロインだからと勘違いした行動を取っていたメリナに間違いを優しく諭してくれた。
昨日は周りにバッシングされそうな自分を友人だと公言して守ってくれた。
そして今日は食事に誘ってくれて、友人だという言葉が本当の気持ちだったのだと実感させてくれた。
クラウスのいろんな優しさにどんどん惹かれていって、今はもう立派な恋に成長したとメリナは気付いてしまった。クラウスはヒロインだとか攻略だとか全然関係ない人なのに……という気持ちもあったが、メリナはそれでもいいと思うことが出来た。
そして、そんな気持ちを持てたことがメリナは嬉しかった。
「どうかした?」
「いいえ!何でもないです!」
クラウスをじっと見つめていたせいか、それに気付かれて不思議そうにされる。
メリナが首を横に振ると「そう?」と首を傾げながらも、クラウスはまた食事に戻った。
(何で私と友達になってくれたんだろう)
今度は見ていることがバレないようにこっそりと見つめる。クラウスは長めの黒髪と黒目の珍しい色合いをしていて、一見地味だ。しかし、実は整った目鼻立ちをしていて、立ち振る舞いにも気品がある。
聞く機会を逃していて分からないのだが、恐らく高位の貴族であろうとメリナは思っていた。そんな人を好きになってしまっても叶わないのは分かっていたが、それでも気持ちは止まりそうにない。
今はただ、友人として親しくしてくれることに満足しようと自分を律した。
二人がしばらく食事を続けていると、突然食堂がざわりとしたのを感じた。




