表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/40

10 ヒロインなのに裏庭の常連です!



 ーー昼休憩。


 メリナはクラウスに裏庭へと連れて来られていた。その手はクラウスに軽く握られていて、今朝の話をするためにエスコートされているだけだと分かっていても、胸がドキドキと高鳴ってしまう。


 メリナが連れていかれるところはクラスの生徒全員にばっちり見られていたし、その際のカリーナの視線は恐ろしいものだった。

 しかし、手を引かれて慌てていたメリナはそんなことを気にする余裕もなく、ある意味幸せだと言える。



「驚いたよ」



 クラウスと裏庭のベンチに並んで座るなりそう言われ、メリナは慌てた。



「あの、私……すみませんでした」



 調子に乗って話し掛けてしまったことを怒られるのだと思ったメリナは急いで頭を下げる。クラウスが優しくて話し掛けやすいからといって、やはり高位の貴族。

 対してメリナは平民で、話し掛けていいはずがなかった。

 しかし、頭上から怒り声は降って来ない。不思議に思ったメリナが顔を上げるとそこには優しいクラウスの顔があった。



「別にいいんだよ。話し相手になるって言ったのは僕なんだし」



 別にいいという言葉通りに、クラウスに怒りや呆れの感情は全く見当たらない。社交辞令でも何でもなかったという事実にメリナは驚いた。

 この分だと、友人だというのも本心なのかも?とそわそわしてしまうが、



「あそこで話し掛けてくれるとは思ってなかったから驚いたけどね」



 と、クラウスが笑うものだから羞恥で顔が赤くなってしまう。

 それでもクラウスが怒っていなかったことが嬉しくて、メリナはもう一つの気になっていたことを聞いた。



「あの、私のこと友人って……」



 本心でそう思ってくれているなら本当に嬉しいことだ。でも、もし勘違いならばまた迷惑を掛けることになってしまう、とメリナは気になっていた。

 クラウスは「あれ?」と首を傾げる。



「もうとっくに友人だと思ってたんだけど違ったかな?」



 不思議そうに言われた内容を、メリナは一瞬飲み込めなかった。しかし、理解した途端喜びが溢れる。



「そんなことないです!嬉しいです!」



 その弾けんばかりの笑顔に、クラウスは一瞬眩しそうな表情をしたが、直ぐにいつもの穏やかな笑顔に戻った。そんな様子には気付かないメリナは、クラウスが友人だと認めてくれたことが嬉しくて舞い上がっていた。

 手の届かない人だということは分かっているが、それでもやはり、心惹かれている人と仲良くなれたことを純粋に喜んでいた。



「ふふ、じゃあこれから友人としてよろしく」


「はい!よろしくお願いします!」



 二人は、お互いに微笑みながら握手を交わした。



 ーーぐ〜〜〜。



 そんな穏やかな雰囲気の中、突然空気を読まない音が鳴り響く。何を隠そう、メリナの腹の音だ。腹の音を響かせたメリナは、顔を真っ赤にさせてお腹を押さえる。

 その音が、二人に今が昼食の時間だと思い出させた。クラウスは、顔を真っ赤にしているメリナを微笑ましげに見ながら口を開く。



「そういえば、お腹が空いたな。一緒に昼食どうかな?」



 その言葉にメリナは恥ずかしかったことも忘れて驚き、顔を上げた。



「私がですか!?」


「君以外に誰がいるの?」



 メリナが思わず叫んで聞くと、クラウスも聞き返す。メリナの様子が可笑しかったからだろう、クラウスは楽しそうに笑っていた。裏庭に来てからのたった短い時間であまりにも笑われたものだから、メリナはまた恥ずかしくなる。

 今日だけで一体何回恥ずかしいことがあるんだろう、と最早諦めの気持ちも湧いてきた。


 しかし、昼食に誘われたことは素直に嬉しい。その分、自分が今日弁当なことが悔やまれた。



「私今日はお弁当なんです。とっても嬉しいお誘いなんですけど……すみません」



 メリナが断りを入れると、クラウスはへぇ!と驚きの声を上げた。



「弁当の子は初めて見るな。どこで食べるの?」



 興味を持った様子のクラウス。穏やかに微笑んでいることが多い彼のそんな姿は年相応に見えた。



「落ち着くのでいつもこの裏庭で食べてます」


「そうなんだ。弁当は今教室?」


「そうですよ」



 メリナが首肯すると、クラウスは申し訳なさそうな顔になる。



「ごめんね。僕が授業が終わってすぐき連れてきちゃったから、二度手間になってしまったね」


「とんでもない!気にしないで下さい!」



 そんな表情をさせてしまったメリナは慌てて首と手を振った。しかし内心では、今日は色んな表情が見られて嬉しい、と喜んでしまっていた。


 メリナが大丈夫だと言ったことで、クラウスも安心したのだろう、また普段の穏やかな表情に戻っていた。

 この短時間で色んな表情を見ることが出来たメリナには、その穏やかな表情が仮面のように見えてきた。

もちろんそれも素敵なのだが、少し距離を感じてしまう。


 出逢って間もないのだから距離があるのは当然だが、もっと近くなれたらいいなと漠然と思った。



「それじゃあ、そろそろ昼食にしないと時間が無くなるね」


「本当ですね」



 話すことも無くなり、クラウスが切り出す。もう解散かと少し寂しくなるメリナ。食事の誘いを断ってしまったのは自分なのだが、名残惜しさを感じてしまう。



(一緒に食べたかったなぁ。残念だな……)



 そう思って項垂れていると、



「明日は一緒に食べられるかい?」



 と、クラウスから更に誘いがありメリナは驚き声を上げた。今日だけでなく明日も誘って貰えるなんてと、メリナは今にも踊り出したい気分だ。



「是非ご一緒させて下さい!」



 勢い良く誘いを受けるメリナ。その様子は大型犬が主人に構われて喜んでいるような姿で、それを見たクラウスはまたくすくすと笑っていた。


 この時間は二人にとって、とても穏やかな物となった。






「ーーじゃあまた明日、食堂で」


「はい!また明日!」



 二人は建物に入るとそのまま別れ、クラウスはそのまま食堂へ、メリナは弁当を取りに教室へと行った。


 教室へ戻る道中、メリナは喜びが抑えきれずスキップをしてしまうほどだった。


 メリナのクラウスへの気持ちはまだ恋心というには小さい物だが、出逢ってこの短期間で確実に心が惹かれていて、もっと知りたいと思っていた。まさか昼を一緒に食べられるとも思っていなかったメリナは、前世の記憶を思い出してから初めての幸福感に包まれていた。


 一人で鼻歌を歌いながらスキップをするところを目撃した人は、見てはいけない物を見てしまったというように目を逸らしていたのだが、メリナは気付いていない。

 そういうところが人を更に遠ざけてしまっていたが、メリナは幸福感でいっぱいだったので、気にも留めていなかった。






「あの平民……許せませんわ」



 ハッピーになって周りを見えていないメリナを忌々しげに見ているカリーナの存在すら、遥か彼方へと消えてしまっていたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ