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noblesse;oblige  作者: 夏桜羅(原案・設定協力)、雪羅(原作・執筆担当)
第4章 連鎖 -butterfly effect-
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連鎖 -butterfly effect- 01

「……ミス」


 白み始めた空の下、まだ暗い影が落ちた森の中。赤黒く血に染まったマントで素顔を隠した何者かはふらふらと覚束ない足取りで闇を這っていた。

 苦しそうに抑える脇腹からはとめどなく赤い血が流れ出し、フードの影に見える顔は、幽霊めいて青白く色を失っていた。


「……ねえさんは容赦ないから困る」


 そう漏らす少女ーーセレナの口元からは赤い血が零れ落ちていた。ヴィクトール伯爵の屋敷から逃げ出す時に負った傷のせいだ。

 彼女がねえさんと呼ぶ女は、脇腹をナイフで抉った際、捻りを加えることで、出血が止まりにくい傷を作った上に、内臓にまでダメージを与えていたのだ。

 たとえ逃げられたとしても、流れ出す血はそのまま足跡になり、よしんば追撃を逃れたとしても、出血多量による意識の混濁、喪失は避けられない。

 この傷を放置したまま意識を失えば、待つのはすなわち、死のみである。


「……きちく」


 ぼそりと溢したセレナは、踏み出した足では身体を支えられなくなり、そのまま前のめりに倒れる。

 それでもなんとか前に進もうとずりずりと身体を引きずる。しかし、その速度は芋虫の方がまだマシなレベルである。

 一撃で致命傷を与えておいて、何が甘くなっただ。何が情けをかけただ。今度会ったら厳重に抗議してやる、とセレナは固く誓った。

 もっとも、再会とか復讐とか以前に、生存自体が危ういのだが。

 そんな時、セレナは人の気配を感じた。足音は近付いてくる。

 見つかると判断したセレナは、萎えた身体に喝を入れて、立ち上がろうとするが、うまくいかない。血を流しすぎたらしい。

 逃走を諦めたセレナは、迫ってくる足音に息を殺して、それが過ぎ去るのを待つ。

 しかし、無情にも足音は、彼女のすぐ側で止まった。薄れてきた視界に、黒い靴が見えた。


「よお」


 降ってきたのは聞いたことのある声。


「……ファレル?」

「正解。意識はまだあるようだな」

「……どうして?」

「いざヴィクトール領に着いてみたら、屋敷が燃えてたからな。イレギュラーを想定しておまえを探してたんだ。まっ、ぶちのめされて死にかけてるとは思ってなかったが」


 ファレルは気軽な口調でそう言って、セレナに肩を貸して立ち上がらせる。


「……ううっ」

「まっ、生きてただけ上出来だろ」

「……あけろんなう」

「おいおい……こんな時に冗談言わなくてもいいだろ」


 呆れたように言うファレルだが、セレナは断固として違うと主張したい。実際、死にそうなのである。


「まあいい。かなり深いが、手持ちでなんとかなるだろ」

「……へんたい」

「…………」


 ファレルの額に青い筋が浮かんだのは言うまでもない。


「……うぇいとうぇいと」


 無言のまま、その場に捨て置こうとしたファレルに、セレナは追い縋る。さすがに残されていったら本気で死ぬのでやめて欲しい。


「……反省」

「そんなに嫌なら、ティナあたりにやらせればなんとかなるだろ。あいつ万能型だしな」

「……他のみんなは?」

「全員無事だ。ジンは痩せ我慢してやがったが、極度の疲労、ティナは精神不安定で二人まとめてベッドに叩き込んできた。んで、カエデはおまえを探すのに一般人程度にも役に立たないから置いてきた」

「……あっ……」

「どうした?」

「……あんびゅらんす」

「んな便利なもんねーよ」

「……でっどおらあらいゔ」

「心配すんな。おれ()、仲間を見捨てたりしない」


 おれは、のところを強調するファレルの言葉に妙に実感がこもっていたのが気になるところだが、残念ながら、今はそこにつっこむ余裕はない。主に生命的な意味で。

 それ以前に、直前に見捨てようとしなかっただろうか?

 非常に速やかに自らの発言と行動が矛盾した気がする。


「……おまかせー」

「任せろ……って寝るなよ!? 寝たら死ぬぞ!」

「……ふぉーるだうん」

「それ寝るじゃねーよ……」


 やれやれ、と呟いたファレルは、半ば意識を失っているセレナを引きずりながら、その場を去っていった。

ちなみに、セレナが使用している平仮名英語の意味は以下です。


「あけろんなう」→Acheron now

Acheronはギリシャ神話における、死者の世界ハデスにある川の名前。転じて三途の川。

つまり、今まさに三途の川にいる、という意味。

ちなみに、三途の川は、Styx(ステュクス、発音的にはスティクス)でも可。

なお、名前が違うだけで、渡し守はどちらもカロン(Charon)である。


「うぇいとうぇいとうぇいと」→ waitwaitwait

waitは待つという意味。つまり、待って待って待って。

ウェイウェイウェーイ!


「あんびゅらんす」→ambulance

ambulanceは救急車の意。アメリカでは、バックミラーにAMBULANCEが読み取りやすいように鏡文字になってるとか。

そんな便利なもんねーよ。


「ふぉーるだうん」→fall down

fall downは落ちる、落下するの意。

他にも失敗するなどの意味もある。

ちなみに、眠るは、fall asleepと書く。

なお、永眠する、という意味もある。

すごくどうでもいいが、fallen in loveは恋に落ちた、の意でfallの過去分詞形を使っている。

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