シコの5
「へえ? 今のを魅せつけられても、まだヤる気なんだ?
その度胸だけは、褒めてやってもいーし?
つっても、ただバカなだけかもしれないけど?」
完全にえずきの収まったケイナがそう言うなり、この世界に上塗りする形で具現化されていた幻想の教室世界――性壁が消失する。
同時に、ケイナから生えていた半霊体の角、翼、尾も消え去って、ただのハーフ系ギャルJK然とした姿に戻った。
「はぇー。
流行りのVRみてえだ」
特に解いてよいとも言われないため、頭の後ろで手を組んだ蹲踞ポーズを維持しながら、間抜けにつぶやくアリサだ。
ケイナはそんなアリサは当然として、ざわめくギャラリーすらも気に留めることなく、ポケットから取り出したアルコール除菌ウェットティッシュで北極28号FXの除菌を行う。
口-inにより、スペル魔棒と口内粘膜接触を持った以上、これは当然の措置であった。
「いーから、さっさと除菌してくれますかぁ?
よわよわ公務淫魔のヨダレが付いたままのスペル魔棒ですと、私がノリノリでプレイできないんですけどー?」
「――ッ!?」
サノバに煽られ、苛立ちを露わにするケイナだ。
(どうでもいいけど……フタタマドウさん、煽りに弱すぎねえべか? あれなら、うちのチビ共でも口ゲンカで勝てそうだべ)
そんな名門のお嬢様を見て、思わずバカなことを考えてしまうアリサである。
「ほら、セッティングしてあげたし。
先生?」
「はい、いいですよー。
それでは、次の精産者様! おいでませい!」
さすが、名門のお嬢様だとフィジカルも鍛えられているのか、単純に北極28号FXが軽いのか……。
ケイナの手で簡易ベッドへ戻されたスペル魔人形に、スカトロシステムが新たな半霊を注ぎ込む!
「おお!」
「またも脂ぎったおじさんだし!」
ギャラリーが言った通り、今度も見事にデブッた中年のおじさん。
平時はスーツを着込み、相応の社会的地位で守られていそうな面構えをしているが、北極28号FXに宿って丸裸の状態が再現されていると、ただの醜い肉と脂肪の塊にも見えた。
「にしても、毎回毎回、見事におじさんだよねー?」
「そりゃ、イケメンは金使わなくても、そこらの女捕まえてよろしくやれるからじゃない?」
「それに、精産者は無報酬どころか、ビュッビュされた後、力尽きて身動き取れずに精産者用宿舎へ滞在する期間の介護費と宿泊費も払わなきゃいけないしー」
「まあ、タダでビュッビュしてもらえるわけないもんねー」
(やっぱり分かりやすく、年齢層の偏りについて解説してくれるべ!)
ギャラリーの淫魔生徒たちが語る言葉を聞きながら、何やら戦慄した気分となるアリサだ。
が、そんなアリサやギャラリーと、当然無関係にSEXバトルは進行。
今度は、サノバが横たわる北極28号FXあらため、おじさんを見つめた。
小学生ほどしかない身長の彼女がそうしていると、先手が平均的な体格のケイナだっただけに、驚きの頼りなさ……というより、犯罪っぽさである。
だが、そんなのは、まさに無用な心配。
サノバは野暮ったい眼鏡を外し、二房の三つ編みにしていた黒髪のリボンも解きながら、ぼそりとつぶやいたのであった。
そう……。
「……性壁展開」
「なっ……!?」
「性壁展開!?」
「あのおチビちゃんが!?」
先手のケイナに続いて放たれる大技の名に、ギャラリーたちがざわめく!
だが、これがハッタリの類でないことは、サノバの各所に、角、翼、尾の半霊体が出現していることを思えば、明らかだ。
先ほどの懇切丁寧な実況解説の通り、これは、極限まで高められたやらしい気分と練り上げた魔力を合わせることで起こる現象。
つまり、新型ウィルスで一週間遅れてきたチンチクリンな女子生徒は、淫魔術の頂点に入門を果たしているのである。
世界が……いやらしく塗り替わっていく……。
ただ、先ほどと今回とで、明白に異なっている部分があった。
一つは、体育館の中へ上書きする形で出現した幻想世界の風景!
今度のそれは……廃墟の街並み!
まるで、実写化したアメコミヒーローものの映画に登場する、激しい戦闘に巻き込まれた都市のような光景だ!
星明りに照らされたビル群はいずれも倒壊するか、あるいはダメージによりひび割れており、アスファルトの路面もそこかしこが剥がれ、剥き出しの地面を見せている。
これがサノバのやらしい妄想によって生み出された世界だとしたら、恐るべきディテールのリアルさといえた!
だが、アリサにとって重要なのは、もう一つの相違点……。
「な……なんでわたしが、巻き込まれてるんだべかあっ!?」
そうなのである。
ほんの一瞬前まで蹲踞していたアリサの体が、突如としてサノバの生み出した幻想世界に転移!
取り込まれ、その一部と化していたのだ!
しかも……!
「うう……ヌルヌルするぅ!
なんだべ、これ!? おっきなタコの足ぃ!?」
そう……アリサの全身は、どこからともなく生えてきた巨木のごとき太さの触手により持ち上げられ、空中にぶら下げられていたのである。
図らずもアリサ自身が口にした通り、タコの足を彷彿とさせる柔軟さと形状の触手だが、黒光りする筋肉によって構成されていて吸盤がないことと、その上をヌメヌメとした何かすごくやらしい粘液が覆っていることは、明白な違いであった。
「ふっふっふ……ようやくお目覚めかい!?」
「ハッ!? サノバ――さん?」
アリサの声に答えたのは、廃墟と化したビルの一つ――の屋上。
その縁に足をかけ、こちらを見下ろすサノバの姿は、先までと全く異なる姿だったのである!
まとっているのは、なんとなく第二次世界大戦時のドイツ軍とかを思わせる軍服。
ただし、腰から下に履いているのは超ミニのタイトスカートで、黒いニーソックスが合わせられていた。
その上で、手に握っている乗馬鞭が、ピシリと音を立てる。
今はサキュバス本来の角や翼、しっぽも生やしているため、まるで悪魔の軍人といった風情の装いだ。
「えっと……これは一体、どういうことなんだべか……?
なんでわたし、こんなことに……?」
「ハァー……」
たかが息を吐き出しているだけだというのに、とんでもなく蠱惑的な響き。
その上で、眼鏡を外した両目に怪しくサディスティックな光を宿して、サノバはこう言ったのだ。
「そんなの、知れたことじゃない?
あなたを、食・べ・る・た・め」
「へ?」
間抜けな声を漏らすが、どことも知れぬ空間から生え出し、アリサを拘束する触手はおかまいなし。
ただちに、ヌルヌルテラテラとしたその自由自在な肉の肢を、アリサの全身に這い巡らせる。
元より、拘束されて空中にぶら下げられている状態だったため、アリサに抵抗できるわけもなし。
いや、それどころか……。
「うわ……エロ……」
「触手のヌメヌメで、制服が透けてるし」
「しかも、オッパイに触手が巻き付いて無限の字を作ってるから、バカでっかさが強調されてるじゃん……」
ギャラリーの皆さんが、またも冷静かつ的確な実況と解説を行う。
だが、今のアリサは蹲踞しながら見学しているわけではなく、触手に巻き付かれている当事者なので、たまったものではない!
と、いうかだ。
「なんで、わたしがこんな目に!
やらしい目にあわせなきゃいけないのは、精産――むぐう!?」
言葉を言い終える前に、新たな触手がアリサの喉奥まで突っ込まれる。
一体、この状況はなんなのか?
どうして、無関係な自分が、かくも責められているのか?
『――ハレルヤ!』
その答えは、おじさんの昇天する声と、幻想空間の夜空に放たれた大量の……ねっとりとしたスペル魔が教えてくれたのであった。




