シコの2
「サノバさん……ああ、念のために病院へ寄ってくるという話でしたね?
お体はもう大丈夫?」
チン入者に対し、担任教師が朗らかな声で尋ねた。
それにつられたというわけではないが……。
絶賛蹲踞中のアリサも含め、全員の視線が体育館の入り口に注がれる。
「「「「だ……」」」」
「だ」の一言を皮切りに、間を置くこと数秒。
「「「「「だっさーい!」」」」」
担任教師とアリサを含む全員の声が、一斉にハモった。
だが、その内容はあまりに失礼!
とはいえ、初対面の相手にそうしてしまったのも、致し方がないことであろう。
それほどまでに……チン入してきた淫魔生徒の姿は、ダッサイ代物であったのだ。
まず、全体的にチンちくりん。
身長は、150cmを超えたか超えていないかというところ。
アリサと同じクラスということは高校一年生のはずであるが、小学生と見紛うほどに小柄。
普通の淫魔ならばまだしも、公務淫魔を目指すこの学園においては、致命的に不利な個性であるといえた。
そして、髪。
なんの整髪料も使っていないのではないかと疑ってしまう黒一色の髪は、うなじから二房の三つ編みにまとめられ、腰の辺りまで垂らされている……なんというおぼこさ!
しかも、前髪が長すぎて、目と眉が……見えない!
眉毛とは、顔の額縁。
人間が他者の顔を判別する際、最初に見るのがこの部位だ。
それが髪の毛に隠れて見えないというのは、顔を売ってナンボのフジコ女学園生として論外である。
その上、四角く実用性一辺倒なフレームの眼鏡までかけてしまっているのだから、これはもう何をか言わんや、であった。
最後に……制服の着こなし。
おお……これはもう、どうしたことか。
スカートは驚くべきことに膝を覆ってしまっており、セーラー服はおへそを出すどころか、スカートのウエスト部分まで隠してしまっていた。
これでは……これではまるで、貞淑な乙女。
否、この女学園に通う淫魔生徒たちが乙女であることは、とりあえず疑わないのがマナーだ。
しかしながら、マリア様ならぬマタ・ハリがみてるこの学園において、かくも肌面積が少ない制服姿で登校するというのは、あまりにも風紀を乱し過ぎる行為である。
淫魔は! お肌を出すのがマナー!
すれ違う男性がおっきしすぎて社会活動を麻痺させてしまうことと、衛生上の問題があるため法律で禁止されているが、本来ならば、一糸まとわぬヌーディスト姿で過ごすべきなのであった。
「プ……」
他者の格好を笑うなど、恐ろしく無礼。
しかし、それを無礼とも思わぬ傲慢さの化身――ケイナが、キラッキラにデコられた爪で口元を押さえながら笑う。
そして、絞り出すような一言。
「マジ、ダサ過ぎ……」
担任の女教師もいる授業中、面と向かって本人に言い放つという暴挙。
しかし、これを女教師ですらたしなめることがないのは、満場一致の見解であったからだ。
チョーマジでダサ過ぎ。
ぶっちゃけ、あり得ない。
それが、新型ウィルス治療のため、一週間も皆に遅れて学び舎へやって来ることとなった同級生――サノバに全員が抱いた印象であった。
「はいはい、皆さん静粛に。
授業の途中となりますが、サノバさんに自己紹介してもらいましょう」
「うい」
体育館の入り口で嘲笑されるまま立っていたサノバが、女教師の言葉に従い中へ入ってくる。
ペタペタ……と、上履き音を響かせて歩く姿も、覇気がない。
都会で見かけた女の子たちは、たとえ種族的に淫魔であらずとも、腰をクネクネとさせて男性の視線を奪おうとするものであった。
何もかもが――場違い。
こんな淫魔の花園よりも、ロリ系文学少女を集めたコンセプトカフェの方が遥かに似合いそうな少女が、一同の前で足を止める。
そして、容姿に似つかわぬ……恐ろしく不敵で凶悪な笑みを不意に浮かべると、堂々と宣言したのだ。
「どもどもー。
サノバ・ビッチ。淫売と書いてビッチです。
この学園というか、公務淫魔の頂点目指すつもりなんで、よろしくお願いしまーす」
ダウナーで、淡々としていて、浮かべた笑みの獰猛さと反比例するかのように、やる気がない声……。
「……はあああっ!?」
けれど、不思議と耳朶の奥に響いて離れない声を聞いて、真っ先に反発したのが他でもない――ケイナだ。
「あんた、マジで言ってんの!?
分かってる? 公務淫魔は全部で、神、黄金、白銀、青銅、鋼鉄の五階層に分けられる。
あたしら入学したての生徒は、皆揃って鋼鉄! 半人前!
こっから、一人前の公務淫魔として認められる青銅以上への昇格を目指してがんばるの!
昇格できなきゃ、そのまま三年間の学園生活を終えて進学か就職!
けど、一人前としては最下級の青銅に昇格するのだって、十人に一人の狭き門なんだからね!」
「な……」
壁際で蹲踞しているため、一切関われずにいるアリサの唇が、我知らず震える。
「なんて、的確で分かりやすい解説なんだべ……!」
これならば、仮にこの世界へ初めて足を踏み入れる異世界人であったとしても、公務淫魔制度のおおよそを理解できることだろう。
やっぱり、都会の……それも名門フタタマドウ家のご令嬢は違うだあ。
まるで、ギャルそのものな外見はただのテクスチャで、その下に隠れた素は生真面目な優等生であるかのようだ!
「当然、全部分かってますよー?
理解らせプレイ中の公務淫魔くらいよく分かってまーす」
一方、ふてぶてしくすら思える態度で答えるサノバである。
一見すれば気弱そうな少女に見える彼女が、不良少女のような言葉遣いをしているので、脳がバグりそうになるアリサだ。
「だったら、撤回しろし!
公務淫魔の頂点……神の座は、口にするのもはばかられる淫乱な領域なん――」
「――ペラペラペラペラと、よく回る舌ですねー」
なおも言い寄る……というより、もはや詰め寄っているケイナの言葉を、サノバが食った。
ばかりか、挑発的に口を開き、自身の舌をレロレロレロレロと巧みに……そして、やらしく動かしてみせたのである。
「一人前の公務淫魔目指してるなら、舌はペラペラするのに使うんじゃなくて、ペロペロするのに使うべきじゃないですかー?」
――ブチリ。
という音が聞こえた気がした。
きっと、それは幻聴。
だが、ケイナの中にあるナニかがキレたことは、疑いようもない事実だ。
「……じゃない」
「え? なんですか? 聞こえないです?」
身長差の関係で、ケイナを見上げるようにしながら、耳へ手を当てるサノバである。
とりあえず、この眼鏡っ子――すこぶる口喧嘩が強い!
「やってやろうじゃないって、言ってんのよ!」
もはや、感情を抑えることなく、大声でケイナが怒鳴り散らす。
この言葉に機敏な反応をみせたのは、言い合いをしていたサノバではなく、担任の女教師であった。
「勝負の合意とみなします!
――サキュバス・エレメンタル・Xシステム――SEXシステム、起動!」
女教師の言葉に従い……。
この私立フジコ女学園内ならばどこでも起動可能な公務淫魔同士の決闘システムが、鳴動を開始。
体育館の中は、ピリピリとした……令和日本で唯一現存する決闘行為に相応しき緊張感で満たされた。
これがバトル漫画ならば、『ゴゴゴゴゴ……!』とか『ドドドドド……!』というオノマトペが響き渡る場面……!
かような状況下で、いよいよ蹲踞+放置プレイのコンボにハマりつつあるアリサが思うことは、ただ一つ。
(クロスの頭文字なら、Cなんじゃないべか……!?)
このことだったのである……!




