シコの1
マタ・ハリの庭に集う乙女達が、今日もキャバ嬢のようにきらびやかな笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
汚れだけは知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートの丈は、下着が見えないギリギリのラインを攻め……。
セーラー服の裾は、大胆におヘソをさらけ出している……。
お尻の一部は見せつつもパンティそのものは見えないよう、ゆっくりと歩くのが、ここでのたしなみ。
私立フジコ女学園。ここは淫魔の園。
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全淫魔が憧れる名門——私立フジコ女学園への入学を勝ち取って以来、イチノセ・アリサは様々な方面から女を磨いてきた。
例えば、鎖骨まで伸ばした髪の毛。
都会の女の子たちに負けないよう、地元に唯一存在した床屋で無理を言ってピンク色に染めてもらい、ウェーブパーマもかけて立体感を出している。
ナチュラルメイクとノーメイクの違いを悟って以来、コスメポーチは、プチコスと百円ショップのコスメグッズで溢れていた。
本当は恥ずかしいけど、スカートもみんなと同様に巻き、膝上15cm。
胸の大きさだって、自慢じゃないけどFカップだ。あんまりジロジロと他人のオッパイを見たことはないけど、形だって多分きっとイイ。
つまり……。
イチノセ・アリサこそは、我が国に古来より生息している種族——淫魔として、模範的な姿をしているのであった。
そう、姿は。
「どしたの? アリサっちー?
早くビュッビュさせてあげないと、精産者さんがマジつらそうだよー?」
アリサが体育館内に敷かれたマットの上でまごまごとしていると、クラスのボスであるフタタマドウ・ケイナが、自慢のネイルをきらめかせながらクスクスと笑う。
名門フタタマドウ家の子女にふさわしく、ケイナの恰好はイケイケのギャルそのもの。
イギリス人の血に由来するのだというセミロングの金髪は、染めた髪では決して生み出せない天然の輝きを宿しており、サファイヤを思わせる瞳もなんという美しさ。
それだけならばお人形のようだと形容したいところで、あえて、肌は薄く焼いており、メイクもパッチリと立体感を強調した……見ようによっては濃いものとなっている。
一見すれば、これは素材の良さを破壊する愚挙。
だが、実際はそうではない。
本来ならば手の届かないイギリス系美少女が、しかし、普通のJKギャルがそうするような日焼けとメイクを行う。
そうすることによって、自分たちでも手が届くところに降りてきてくれているような錯覚を、殿方に与えるのだとか。
だが、今はそんなこと、どうでもいい。
他の女子生徒たちもつられてクスクスと笑い、アリサが嘲笑の渦にいることが問題だ。
なぜ、アリサがクラスメイトの淫魔たちにこうもあざ笑われているのか?
その理由は、アリサの目の前で横たわっているスペル魔抽出人形——北極28号の股間部にあった。
勃ってない。
AIにポン出しでもさせた方がマシにも思える落書きのようなイラストが描かれた風船人形の股間に備わっているのは、その名もド直球にスペル魔棒。
志願して半霊体化し、この人形へと憑依している精産者さんの精気……すなわち、スペル魔を排出する超重要パーツである。
それが、おっきしていないということは……。
「……アリサさん。
あなたたちが目指す公務淫魔の役割は、殿方を興奮させて気持ちよくし、純粋なる精気——スペル魔をビュッビュさせることに尽きます。
ビュッビュしたドロドロのスペル魔は、原子力発電の114514倍もの超高効率で熱エネルギーを生み出してくれるのですから」
クリップボード片手に、困ったような顔となるジャージ姿の担任女教師。
ボーイッシュと思われない範囲で短めに整えられた黒髪は、これも男受けする定番。
かつ、日々ヘアケアにかかる時間を確実に短縮可能な、大人の淫魔教師らしいヘアセレクトであるといえた。
「今、お手本を見せてあげますね」
言いながら、アリサと反対側——すなわち、北極28号の頭をまたぐ形で、スペル魔棒に片手の指先を乗せる。
否、見せると言ったが、すでにお手本は始まっていた。
見よ! 北極28号の頭をまたいでいる担任教師のお股を!
ジャージという衣服の特性は、何より布地が薄く、柔軟であるということ!
あえてピチリとしたサイズでチョイスされたそれは、しゃがみ込むことで教師のパンティラインをくっきりと浮かび上がらせているのだ!
おお! 精産者の精神状態を反映する北極28号の落書きじみた顔が、興奮で鼻息を荒くしている!
「えい」
この状態で、むくむくと弾けるものを昇らせて屹立したスペル魔棒が軽くデコピンされたのだから、一撃だ。
スプラッシュ!
スペル魔棒の先端から、光り輝くドロッドロの純粋な精気——スペル魔が噴出した!
そして、数メートルもの高みに達したそれは、体育館が備えた尺八システムにより、吸引口へと吸い込まれていく!
『ハレルヤ……』
北極28号に憑依していた精産者の半霊が、まさに昇天寸前といった様子で薄ぼんやりとした輪郭を天に昇らせる。
ただし、いまだ肉体と精神とは結びついたままであるので、そのまま学園内に存在する精産者用の宿舎——通称、ラブホの方へと漂っていった。
半霊の姿を見る限り、おそらくは本体である中年男性——否、おじさんが、そこのウォーターベッドで横たわっているのだ。
半霊は無事に肉体へ戻っただろうが、文字通り精も根も尽き果てた……あるいはイキ果てているので、都合三日間は寝たきりであろう。
無論、その間の宿泊費や介護費は有料!
この学園で精産者の相手をするのは、基本的に生徒であるが、だからといって、その技術が無料になるという道理はないのであった。
「さっすが、先生ー!」
「アリサっちも、マジで先生リスペクトしないとー」
「「ねー」」
ケイナが取り巻きのクラスメイトに呼びかけ、共にアリサの方を見下ろす。
顔は笑っているが、瞳に宿っているのは——嘲笑。
『アリサっちって、マジ田舎者だよねー?』
『ねー? ブクブクテッカテカのオタクくんは受け付けないとか、マジ受けるー』
『脂っこくて濃厚ドロッドロのスペル魔が、いっちばんエネルギーあるんだしー』
『ビュッビュさせるならイケメン細マッチョがいいとか、マジでお子様だよねー』
『『キャハハー』』
女子トイレにおいて、アリサが個室に入っていると知らぬ彼女らの声が手洗い場から響いてきたのは、つい先日のことなのである。
いや、あるいはあれは、アリサがそこにいると知っていて交わされた会話なのではないか?
「うう……」
うつむき、少しだけ泣きそうになるアリサを、教師が溜め息混じりに見下ろす。
「半人前とはいえ公務淫魔であるあなた方にとって、殿方はビュッビュさせられて当たり前。
問題は、どれだけ素早く、華麗に、濃厚に、たっぷりとビュッビュさせるかです。
イチノセさん。
今日は壁際で蹲踞をしながら、見学してなさい」
「うう……はい……」
教師に言われ、体育館の壁際へ向かう。
普通の人間ならば、まさに体育座りでしゃがみ込み、見学しているところ。
だが、淫魔の場合は、ここで両股を大きく開いた状態でしゃがみ込む。
なおかつ、命じられてはいないが、反省を示す暗黙の了解として、手も後頭部で組んだ。
まさにこれは、煮るなり焼くなりスカートをめくるなり好きにして、でもノーパンしゃぶしゃぶは、大蔵省も潰れたことだし勘弁してというポーズなのであった。
(父ちゃん……母ちゃん……チビたち……)
脳裏で思い描くのは、田舎で自分を応援してくれている人間と淫魔と、三人いる人間の姿。
母は淫魔ではあるものの、精交省公認の公務淫魔ではなく民間……それも、ド田舎暮らしの一般淫魔であった。
そのこともあって、アリサがフジコ女学園の入試を突破した時は、一家全員、トンビがタカを産んだと喜んでくれたものだが……。
(入学から一週間……。都会は厳しいとこだ。
わたしもう、駄目かもしれねえ)
故郷と違う環境。
母以外では初めて目にする……それも同年代の淫魔たち。
カリ……ではなくガリ勉した甲斐もあり、予備知識こそ豊富ではあったものの、実際に殿方の意識が入ったスペル魔抽出人形を前にすると、まったく上手くいかない実習。
(もう駄目だあ。
わたしは、このまま学園始まって以来の落ちこぼれとして、退学。
その後、故郷に戻って実家の定食屋を手伝っていたところ、たまたま通りがかった芸能プロデューサーに見出されて中卒アイドルとしてブレイクする運命なんだあ……)
落ちこぼれつつもクソふてぶてしい妄想をアリサがクリ広げていた、その時だ。
「すいませーん……。
入学式当日に新型ウィルスに感染して欠席し続けていたフタバと申します……」
蚊の鳴くような……。
それでいて、不思議とよく通る声が、体育館に響き渡ったのであった。




