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魔女と汽車-人間の魔女とエルフの弟子-  作者: 白波
第6章 北部主要都市チノ

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第29話

 チノの町の中心部にある冒険者ギルド。

 高い建物がある中にちょこんと建っている平屋の建物は、まるで冒険者ギルドが頼られる時代が終わったかのような雰囲気さえ醸し出している。

 そんな風景を見て、マーガレットはこの町でも滞在期間は長そうだと考えながら入り口の扉を開く。

「こんにちは。チノ冒険者ギルドへようこそ」

 冒険者ギルドに入るなり、入り口の目の前にある受付に立つ受付嬢がこちらに声をかける。

「あのー依頼を受けたいんですけれど、掲示板はどこにありますか?」

「依頼の受領ですか! ありがとうございます!」

 依頼を受領したいと言うなり、受付嬢は笑顔で立ち上がり、マーガレットたちを掲示板の方へと案内する。

「いやはや、なかなかギルドの依頼を受領してくれる人は貴重なのでありがたいですよ」

 予想通り、どこに行っても事情は同じらしい。受付嬢は上機嫌で、仕事でなければ鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気だ。

 掲示板の前までたどり着いて依頼の一覧を見てると、やはりこちらも少額でなおかつ冒険者にわざわざ依頼するような内容の依頼は掲載されていない。

「なるほど……ちょっとゆっくりと見ていていいですか?」

「どうぞどうぞ。私は受付に降りますので、受領したい依頼が決まりましたらまたお声がけくださいね」

 掲示板をこれでもかと眺めるマーガレットに対して、受付嬢はこれでもかというほどの笑顔のまま受付の方へと去っていく。おそらく、掲載されるだけされて解決していない依頼がたまっているのだろう。

「さてと……お使いに迷子のネコ探し、家事代行……大体そう言ったところでしょうか……」

「これほどの大都市でもその様子だと、冒険者ギルドに頼る作戦は無理があるんじゃないですか?」

 少しでも報酬金がよさそうな依頼を探そうとするマーガレットに対して、アイは少々呆れ気味な反応だ。

「……冒険者ギルドに頼らないとすると、どうやって路銀を稼ぐのよ。どこかでバイトでもするの?」

「そこまでは言いませんけれど、いちいちこんな細々としたことをしていたらいつまで経っても聖書が集まりませんよ」

 アイが言うのはもっともなところかもしれない。あまり、町の人とつながりを持たないようにと考えて始めたこの作戦だが、結果的にセイアの町ではそこそこ町の人の中に溶け込んでしまったように感じる。しかし、だったらどうやって稼ぐか……そこまで考えて、マーガレットはアイに視線を移す。

「……あの私がどうかしました?」

「そうだ。身近にいい作戦があったじゃない」

 何が起きているのかと困惑するアイに対して、マーガレットはニヤリとした表情を浮かべて彼女を見つめていた。


*


 冒険者ギルドでいかにも申し訳なさそうな雰囲気で受けたい依頼がないということを受付嬢に伝えたマーガレットたちは、駅員から事前に聞いていた町の案内所で出版社の場所を聞き出し、そこを目指して歩いていた。

 その理由は単純明快。アイに一筆歴史本を書いてもらおうという算段だ。エルフは本来歴史の記録者であり、北の大陸以外ではそうそう警戒されることはない。なので、アイがこれまで見守ってきた北の大陸での歴史の話を本にまとめて売ってみたらどうかという考えに至ったのだ。

 もちろん、執筆するためには時間がかかるし、それが売れるかどうか、それ以前に出版社の人がその話に乗ってくれるのかどうかというのはある種の賭けだが、エルフ直筆の歴史書となれば目を惹かれる人も多いのではないだろうか? マーガレットとしては、自ら魔法についての本を書こうかとも思ったのだが、東部連邦の国々での魔法の衰退具合を見るに物珍しさで買う人はいても、大衆受けはしなさそうだという結論に至っている。

 一応、冒険者ギルドの中でアイにそういったことをしてもらっても問題はないのか? と聞いてみたが、エルフ的にはそういった本の執筆もある意味で歴史の記録になるので特に問題になることはないだろうという答えだった。

「それにしても、北の大陸についての歴史書が東の大陸で売れますかね?」

「それなら大丈夫だと思うわ。だって、ここからナギサに行くだけでもかなりの時間がかかるのよ。そう考えると、少しでも北の大陸に興味がある人が買ってくれるんじゃないかしら」

 そのような会話を交わしながら、二人は案内所で渡された地図を片手に出版社を目指す。

「さてと、そろそろ出版社があるビルに到着するはずだけど……」

 そうつぶやいて、周りを見回してみると入り口に『チノ出版』と書かれた看板が掲げられているビルが視界に入る。

「……どうやらここみたいね」

「そうですね……ここまで来たら行くだけ行ってみましょうか」

 ここまで来ると、本を書くということに関して懐疑的な見方をしていたアイも腹が決まったらしく、半ば呆れているような様子を見せながらも、今回の作戦に賛同する。

「よし。そう来なくちゃ。さてと、さっそくまずは受付であいさつからね」

 そう言って、マーガレットはアイの手を引いて目の前のビルへと入って行った。

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